公正証書遺言の特徴と作成の流れ

せっかく遺言書があってもその効力や内容を巡ってトラブルになってしまうという事例はあとを絶ちません。そこで、近年、安全確実な遺言書を作成するという観点から、公正証書遺言に対する需要が高まりを見せています。

ここでは「公正証書遺言を作りたいけど、どうすればいいかわからない」という人たちのために、公正証書遺言の特徴や作成の流れ、手続きについて解説していきたいと思います。

公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは、公証役場で公証人の関与のもと、公正証書として作成される遺言書のことであり、作成後は公証役場において原本が保管されるものです。

「公証役場?公証人?公正証書?なんですかそれは?」という方も多いかと思いますので解説すると、公証役場というのは法務省が管轄する役所で、契約書や遺言書などいろいろな文書を公的に認証したり証明したりしてくれるところです。

そして、公証役場で実際にそのような業務を行う権限を与えられた人のことを公証人といい、公証人がその権限に基づいて作成する公文書のことを公正証書といいます。

ですので、公正証書遺言とは、公的にその存在と内容が証明された遺言書ということになります。こう聞くととても心強い感じがしますね。

なぜ公正証書遺言がオススメなのか?

「遺言書を作るなら公正証書遺言がいい」と聞いたことがある人も多いでしょう。結論からいえばそれは正しいです。なぜでしょうか?

遺言書には、公正証書遺言のほかに自筆証書遺言秘密証書遺言というものがあります。そもそも遺言書を作成する理由には、自分の死後に遺産を巡って親族間でトラブルになることを避けたいという動機があると思われますが、公正証書遺言は他の二つの遺言書よりもトラブル防止という機能に優れています。以下、少し詳しく見てみましょう。

自筆証書遺言 vs 公正証書遺言

自筆証書遺言とは、文字通り、自分で遺言書の内容を手書きして作る遺言書のことです。近年の法改正により財産目録部分はパソコン等の印字で作成できるようになりましたが、本文は手書きをしなければなりません。

自筆証書遺言は、紙とペンと印鑑と朱肉さえあればコストをかけずに簡単に作成できるという点でメリットがありますが、その方式が民法で厳格に決まっており、これを満たしていないと無効になります。ですので、せっかく遺言書を作ったのに、方式違背で無効になってしまったなどという事態を招くリスクがあります。

また、公証人の関与なしに作成されるものなので、作成当時の判断能力が問題にされるリスクもあるでしょう

加えて、公証人が適切な文言を調整してくれる公正証書遺言と違い、自分で文言を考えなければならないので、遺言者の死後にその内容を巡ってトラブルになる可能性も大きいといえます。

さらに、自筆証書遺言は自分で保管するので、紛失や破棄、変造などというリスクもありうるところです。

この点、公正証書遺言は、公証人の関与のもと作成されるので、方式違背や判断能力の点が問題になるおそれは殆どないですし、公証人が適切な文言を調整してくれるので、内容面を巡ってトラブルになるリスクも低いです。

さらに、公証役場で保管されるので紛失、破棄、変造などのリスクもありません

このように死後のトラブル防止という観点からすれば、自筆証書遺言よりも公正証書遺言の方が優れているといえるでしょう。

なお、令和2年より自筆証書遺言の保管制度が開始されました。

これは、法務局において自筆証書遺言を保管してくれるという制度であり、遺言書保管官と呼ばれる役職の人が遺言書の方式についても外形的にチェックをしてくれます

この制度を利用すれば、自筆証書遺言のデメリットはそれなりに緩和されるので、これも有力な選択肢の一つにはなるかと思われます。

もっとも、手続きが面倒であまり使い勝手が良くないということや自分で遺言書の文言を作成しなければならず、内容面の審査もしてくれないので、死後、遺言書の内容を巡ってトラブルになるリスクは依然として高いといえるでしょう。

この辺りを考えると、やはりトラブル防止という観点からは公正証書遺言の方に優位性があると思われます。

秘密証書遺言 vs 公正証書遺言

秘密証書遺言は、遺言者が自分で作成した遺言書に封をして閉じ、遺言書に押印したものと同じ印鑑で封印して作成します。その後、公証役場で公証人と証人2名がそれぞれその封筒に署名、押印して完成します。

完成した遺言書は公証役場で保管されることはなく、遺言者が自分で保管しなければなりません。

秘密証書遺言は内容を秘密にしつつ、その存在を公的に証明しておきたいという需要に応える制度といえますが、秘密にしたいのであれば自筆証書遺言で足りますし、公的に証明できるのは遺言書を作成したという事実だけであり、内容については何ら証明されません。このようにいかにも中途半端な制度であり、利用件数も全国で年間100件程度と低調です。

公正証書遺言と比べた場合、自分で文言を作成しなければならず、また公証人がその形式や内容をチェックしてくれるわけでもありませんので、やはり方式違背や内容を巡ってトラブルになる可能性があります

また、自分で保管をするので紛失や破棄のリスクもあるでしょう。なお、自筆証書遺言のような保管制度もありません。

これらの点からいえば、公正証書遺言の方が作成するメリットが大きいといえます。 

公正証書遺言作成の流れと手続き

大まかな流れ

公正証書遺言を作成する場合の大まかな流れは以下のとおりです。

必要書類の準備
文言の調整
証人2人と公証役場に出頭して署名押印

公正証書遺言を作りたい場合、まずは公証役場に申込みをして必要書類を提出します。 その後、公証役場にどのような内容の遺言書を作りたいか伝えて文言を調整してもらったのち、公証役場に出頭して内容を確認し、署名・押印して完成です。

なお、公正証書を作成する際には利害関係のない成年の証人2人の立ち会いが必要であり、これは遺言者が自ら用意する必要があります。弁護士や司法書士に依頼する場合は、事務所の事務員などが証人になることも多く行われています。

必要書類

  1. 本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポートなど)
  2. 印鑑(認印)
  3. (代理人により遺言書を作成する場合)委任状
  4. 遺言者と相続人らとの関係を示す戸籍全部事項証明書
  5. (相続人以外の者への遺贈等の場合)その者の住民票または商業登記全部事項証明書
  6. (不動産に関する遺言の場合)固定資産納税通知書または固定資産評価証明書
  7. (不動産に関する遺言の場合)登記全部事項証明書

③の委任状についてですが、実印での押印が必要であり、印鑑登録証明書を添付する必要があります。

作成費用

公証役場に支払う手数料は以下の表のとおりです。なお、代理人に依頼する場合は、この他に代理人の報酬も発生します。

目的の価額 金額
100万円以下 5,000円
100万円を超え200万円以下 7,000円
200万円を超え500万円以下 11,000円
500万円を超え1000万円以下 17,000円
1000万円を超え3000万円以下 23,000円
3000万円を超え5000万円以下 29,000円
5000万円を超え1億円以下 43,000円
1億円を超え3億円以下 43,000円+超過額5000万円までごとに1,3000円を加算した額
3億円を超え10億円以下 95,000円+超過額5000万円までごとに1,1000円を加算した額
10億円を超えるもの 249,000円+超過額5000万円までごとに8,000円を加算した額

ただし、いくつか注意点があります。

まず、財産を受け取る人ごとにその財産の価格を上の表に当てはめて手数料の金額を求め、これを合算して遺言書全体の手数料を算出するという点です。

例えば、子供2人に800万円ずつの遺産を渡す場合、3万4000円になるということです。

また遺産全体の額が1億円以下の場合、全体の手数料に1万1000円が加算されます

さらに、作成する遺言書の枚数によっても加算されます。具体的には原本が4枚を超えるとその超える1枚ごとに250円が加算されます。また、公正証書は原本の他に、原本と同一内容の正本と謄本が作成されますが、正本と謄本については、(4枚を超えなくても)それぞれ作成する枚数ごとに250円が加算されます

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