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慰謝料以外の損害は不倫相手に請求できる?―不倫によって発生する様々な損害が請求可能かどうか弁護士が解説します

2024-06-10

配偶者が不倫をした場合、不倫相手に対して精神的苦痛についての慰謝料を請求することができます。

ですが、不倫に起因して発生する損害には様々なものがあり、必ずしも精神的苦痛に限られるわけではありません。

ここでは慰謝料以外の損害について、不倫相手に請求することができるのか、過去の裁判例などに基づいて解説していきたいと思います。

不倫慰謝料=精神的苦痛の損害賠償

「配偶者が不倫をした場合、不倫相手に対して慰謝料を請求できる」というのは法律に詳しい人でなくても、広く知られた知識だと思います。

では、その法律的な根拠は何でしょうか?

民法には以下のような規定があります。

第709条(不法行為) 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

これは「不法行為に基づく損害賠償責任」について定めた規定であり「意図的に(故意)あるいは不注意(過失)によって他人に損害を与えた場合、その損害を賠償しなさい」という内容の規定です。

例えば、交通事故によって怪我をした場合、治療費や休業損害、慰謝料など様々な損害を相手に請求できますが、その根拠となるはこの民法709条です。

不倫慰謝料を請求できるのも、同じくこの民法709条が根拠規定となっているのであり、不倫が不法行為として他人に損害を与える行為であるから、その損害の賠償を相手に請求できるということになるのです。

そして、民法709条における「損害」には、精神的損害とそれ以外の損害があり、特に精神的損害に関する賠償のことを「慰謝料」といいます。

したがって、「不倫慰謝料」とは、不倫によって被った精神的苦痛についての損害賠償ということになります。

ですが、交通事故の場合に治療費や休業損害など精神的損害以外の様々な損害が発生するのと同じように、不倫の場合も、精神的損害以外の種々の損害が発生することがあります。

では、不倫の場合、交通事故と同じように、それら精神的損害以外の損害についても相手に賠償請求ができるのでしょうか?

以下では、この点について各損害ごとに見ていきたいと思います。

慰謝料以外の損害賠償の可否

探偵(興信所)の調査費用

配偶者の不倫が疑われる場合でも決定的な証拠がない場合は、探偵(興信所)に依頼して証拠を集めることも多いでしょう。

では、探偵(興信所)に依頼した場合の費用は「損害」として、相手に賠償請求ができるのでしょうか?

これについては、認める裁判例と一部を認める裁判例、否定する裁判例があります。

【認める裁判例】

・東京地裁平成28年11月30日

Xは、Aの行動からその不貞を疑ったが、Aがこれを否定したため、やむなく興信所に調査を依頼したものであり、その結果、Yがその相手方であることを突き止めることができたのであるから、そのためにXが興信所に支払った費用は、Yの不法行為と相当因果関係のある損害というべきである。

Xは、興信所にその費用として77万7600円を支払ったこと、調査は2日にわたって行われていることが認められ、同額は不相当に高額とまではいえないから、Yは、Xに対して、その全額を賠償すべきである。

【一部を認める裁判例】

・東京地裁平成29年4月27日

Xは、調査費用として304万4609円を要したと主張する。確かに、Xの提出する写真や精算書によれば、Xが本件調査を依頼し、YとAとの関係について写真撮影がされたことは認められるものの、本件調査を依頼した時点では、YとAはまだ再開しておらず、Yとの関係で平成27年1月からの調査が必要であったとはいえず、どのような調査が行われたのかの内容も不明であり、その支払いもXのみにおいて行ったのかは明らかではない。これらの事情からすると、本件不貞行為と相当因果関係のある調査費用を20万円と認めるのが相当である。

【否定する裁判例】

・東京地裁平成28年6月3日

調査費用については、これにより得られる調査報告書その他調査結果はいわば証拠収集の手段でしかなく、行為としての調査も弁護士費用のように法律上資格等による制限がなされているものではなく、代替的な性質のものであることに鑑みれば、Xにとって重要であったとしても、不法行為と相当因果関係のある損害とは認められない。

◉解説

以上のように、調査費用を損害として認める裁判例、認めない裁判例、その中間として一部を認める裁判例があります。

もっとも、実務上は、調査費用が全額認められることは少ないといえるでしょう。

配偶者が不倫を否定しており、他に有力な証拠もないなど、探偵に依頼する必要性が高かったといえる場合であれば、調査費用の一部が認められることもありますが、その場合でも実際に認められるのは実際にかかった費用の1割程度です。

治療費

不倫によって精神的苦痛を被り、それによってうつ病や適応障害等の精神的な疾病を発症した場合、その治療費等を請求することは可能でしょうか?

【認める裁判例】

・東京地裁平成28年2月1日

Xの心療内科への通院が、本件不貞を知ったことによることは明らかであるから、Yは、治療費及び交通費の合計3万6320円をXに対して賠償すべき義務を負うほか、Xが医師から長期の通院を要する旨伝えられていることを踏まえると、少なくとも、将来1年間分の治療費として6万2263円をXに対し支払うべき義務を負うと認められる。

 

【否定する裁判例】

・東京地裁平成28年11月8日

一方配偶者の不貞行為により他方配偶者が精神的衝撃を受けたとしても、それを原因としてうつ病に罹患するのが通常であるとはいえないから、治療費、通院交通費、休業損害、後遺障害による逸失利益、通院慰謝料及び後遺症慰謝料が、AとYとの不貞行為との間に相当因果関係がある損害とは認められない。

 ◉解説

治療費等についても肯定例と否定例がありますが、認められることは実務上極めて稀有といえます。

実際にうつ病などの精神疾病を発症したとしても、不貞との因果関係が必ずしも医学的に明らかでないこと、仮に因果関係があったとしても、不貞行為によって通常生じる損害とはいえないことがその理由です。

ただし、精神的な疾病を発症したことは、個別の損害として認められるのは難しくても、慰謝料の増額理由にはなり得るでしょう。

転居費用

自宅が不倫の現場になっていたなどして、転居を余儀なくされた場合、その転居費用を不倫相手に請求できるでしょうか?

これについて肯定した裁判例は見当たりません。

否定した裁判例は以下のとおりです。

【否定する裁判例】

・東京地裁平成28年8月30日

Xは、Y及びAの不貞行為によって引越しをせざるを得なかったとして、引越し費用30万7400円も相当因果関係ある損害として主張している。

しかしながら、Y及びAの不貞行為があったからといって必然的にXが転居しなければならなくなるものとはいえず、Y及びAの不貞行為とXの転居費用との間に相当因果関係があるとはいえない。

◉解説

不貞行為がきっかけで転居することになったとしても、必ずしも不貞行為と因果関係があるとはいえず、転居費用を不倫相手に請求することはできないといえるでしょう。

弁護士費用

不倫相手に慰謝料請求をするにあたり弁護士に依頼をした場合、その弁護士費用は相手に請求できるのでしょうか?

これについて実務の運用はすでに固まっており、訴訟をした場合、弁護士費用以外の損害の1割が不倫と因果関係のある損害として認められるということになります。

ですから、例えば、弁護士費用以外の損害額が200万円として認められた場合、弁護士費用は20万円までがこれと因果関係のある損害として認められ、最終的な認容額は220万円になるということです。

離婚慰謝料

不倫によって離婚をした場合、不倫自体によって発生した慰謝料(不倫自体慰謝料)の他に、離婚したことによって発生した慰謝料(離婚慰謝料)も請求できるのでしょうか?

これについては、最高裁の判例があります。

最高裁の判例は、下級審(地裁や高裁)との裁判例とは格が違い、ある論点について一度最高裁が判例を出した場合、それ以降、実務はその判断に従って運用されることになります。

さて、離婚慰謝料についての判例(最高裁平成31年2月19日)は「夫婦が離婚をするに至るまでの経緯は当該夫婦の諸事情に応じて一様ではないが、協議上の離婚と裁判上の離婚のいずれであっても、離婚による婚姻の解消は、本来、当該夫婦の間で決められるべき事柄である」として、不貞と離婚との因果関係を否定して、離婚慰謝料についての賠償責任を否定しました。

もっとも、最高裁も全ての場合に離婚慰謝料が否定されるとは述べておらず「当該夫婦を離婚させることを意図してその婚姻関係に対する不当な干渉をするなどして当該夫婦の離婚をやむを得なきに至らしめた場合」は、離婚慰謝料を請求できると判示しています。

ただ、このような場合は極めて例外的な場合に限られるであろうと思われます。

このように、現在の実務では、離婚慰謝料を相手に請求することはできないとされています。もっとも、不貞を原因として夫婦が離婚した場合、個別の損害として賠償請求をすることはできないものの、離婚によって精神的苦痛が大きくなったとして不貞自体慰謝料は増額されることになります。

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