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遺産が使い込まれていた場合の対処法について弁護士が解説します
相続事案でよくトラブルになるのが、親族による遺産の使い込みが疑われる場合です。
遺産が使い込まれていた場合、その返還を求めることは可能でしょうか?
ここでは、遺産の使い込みが疑われる場合に取るべき対処法について解説していきたいと思います。
遺産の使い込みとは?
遺産の使い込みとは、被相続人の預貯金などの相続財産が相続人らによって勝手に引き出されたり、使われてしまっていた場合のことです。
よくあるのが被相続人の預貯金から不自然な出金(いわゆる使途不明金)が見つかったというケースであり、このような場合では被相続人と同居していた親族などによる使い込みなどが疑われるところです。
なお、遺産の使い込みという場合、通常は被相続人の生前に無断で遺産を勝手に食い潰していたというケースが想定されますが、被相続人の死後、口座の凍結前に遺産を勝手に引き出す行為なども問題となり得ます。
遺産の使い込みが問題になる事案のほとんどが預貯金に使途不明金が見つかったというケースなので、以下では預貯金の使い込みに絞って解説していきます。
使途不明金の有無を調べるには?
取引履歴の取り寄せ
遺産の使い込みがないかどうかを調べるためには、まず被相続人が持っていた預金口座の取引履歴を取り寄せるところから始めます。
戸籍謄本などによって被相続人が死亡したことと開示請求者がその相続人であることを証明できれば、金融機関は被相続人の預金口座に関する取引履歴を開示してくれます。
開示には戸籍謄本のほかに開示請求者の実印や印鑑証明も必要になるので準備しておきましょう。
なお、金融機関では、通常、過去10年分の取引履歴を保管しているので、多少費用はかかるかもしれませんが、過去10年分全ての取引履歴を取り寄せるべきでしょう。
不自然な出金がないか調べる
取引履歴を取り寄せたら、その内容を精査して不自然な出金がないか調べます。
例えば、一度に多額の出金がされている場合や、ATMの出金限度額ピッタリの出金が連続して行われている場合などは不自然な出金であり、使途不明金にあたるといえるでしょう。
口座間の資金の動きなども使途不明金の有無を見分ける重要なヒントになります。
この辺りは、プロの弁護士でないと判断が難しいでしょうから、使途不明金が疑われる場合は、弁護士に相談されることをお勧めします。
使途不明金が見つかったら?
使途不明な出金が見つかったからといってそれだけですぐにお金を返すように請求できるわけではありません。
お金を返すよう求めるためには、相手が被相続人に無断でお金を引き出したことを証明する必要があり、そのハードルは高いといわざるを得ません。
そこで重要になってくるのが、どのような証拠があるかです。
例えば、出金された当時、被相続人の認知症がかなり進行しており、被相続人が自分の意思をきちんと表示できないような状態であれば、同居している親族らによる無断での引き出しが強く疑われます。そこで、出金当時の被相続人の健康状態などを調査する必要があるかもしれません。
また、被相続人が老人ホームに入居しているにもかかわらず、そこから離れた自宅近くの支店で頻繁に出金されている場合は、少なくとも本人以外の人が引き出している(本人以外が通帳を管理している)可能性が高いといえます。そこで、その出金がどの支店で行われていたのかも重要なヒントになります。
このように遺産の使い込みを証明するためには、預金の取引履歴に集約された情報をさまざまな角度から検討し、必要に応じて追加の証拠を収集するといった作業が必要になるのであり、この作業を適切に行うのは経験のある弁護士でないとなかなか難しいといえるでしょう。
相手が通帳を管理していた場合
相手による無断の出金であることを証明するのは実際ハードルが高いです。
しかし、相手がその預金通帳を管理していたことが判明している場合は、少し様相は変わってきます。
例えば、相手が通帳を管理していた事実を認めている場合や(なお、管理していたこと自体は認めてくれることが意外に多いです)、認めていなくても、入出金の状況(先ほども例に挙げた、被相続人が老人ホームに入居しているのに、自宅近くの支店で頻繁に入出金がされているなど)から相手が通帳を管理していたことが強く疑われるケースなどです。
この場合、通帳を管理していたのは相手なので、相手は使途不明になっている出金について、相手はその使途について合理的な説明ができるはずです。
例えば、被相続人の指示にしたがって家のリフォーム代を引き出したとか、老人ホームの入居費用を引き出したなどの事情があったのであれば、それを証明するための資料(契約書、請求書、領収書等)を提示することが可能なはずです。
しかし、預金通帳を管理したいたことまでは明らかになっているにもかかわらず、出金の使途について合理的な説明、証明ができないということであれば、いよいよ遺産の使い込みの可能性が高くなるといえるでしょう。
使い込まれたお金の返還を求めるには?
相手と交渉する
使い込まれた遺産の返還を求めるためには、まず相手と交渉し、使い込んだお金を任意に返すよう求めていきます。
相手が遺産の使い込みを否定してきた場合は、その使途が何であったのか説明を求めていきます。
相手が納得できる説明もせずに、遺産の使い込みを否定して返還を拒否する場合は、訴訟を提起することになります。
訴訟を提起する
交渉で解決しない場合は、訴訟を提起せざるを得ません。
その場合、相手による無断の出金であることをこちらで証明しなければなりませんが、出金された時期に明らかに被相続人に判断力がなかった場合などを除けば、そのハードルはなかなかに高いです。
もっとも、先ほども説明したとおり、相手が預金通帳を管理していたことまでは明らかになっていれば、相手の方でその出金の使途について合理的な説明ができない限り、裁判所が遺産の使い込みについて肯定的な心証を抱いてくれる可能性は高まるといえるでしょう。
請求に期間制限はあるのか?
遺産の使い込みについて返還請求を求める場合、法律的には不当利得返還請求を行うことになります。
相手の遺産の使い込みが不当な利得だから、それを返還するよう請求するということです。
不当利得返還請求には時効があり、使い込みを知ったときから5年、(知っていたか否かによらず)使い込みのときから10年以内に請求をしなければなりません。
遺産の使い込みが疑われる場合はすぐに弁護士に相談を
遺産の使い込みが疑われる場合、その証明をするのはかなり大変です。また、当人同士で話し合っても返還を拒否されることが多いでしょう。
そこで、弁護士がプロの視点から適切な情報や証拠を集め、相手と交渉し、場合によっては訴訟を提起するといった対応が必要になります。
遺産の使い込みでお困りの方は、早めのご相談をお勧めします。