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Q1 相続分はどのように決まっているのですか?
相続分には① 法定相続分、② 指定相続分、③ 具体的相続分の3種類があります。それぞれどのように決まっているのかが異なります。
- 法定相続分は、民法で定められた一般的な相続分のことです。→Q2
- 指定相続分は、遺言書がある場合に、遺言によって指定された相続分です。→Q3
- 具体的相続分は、特別受益(生前贈与、遺贈等)や寄与分などがある場合に、法定相続分や指定相続分を具体的な事案に応じて修正した相続分のことです。→Q4〜7
Q2 法定相続分の割合はどのように定められていますか?
まず、配偶者以外の相続人(血族相続人)は、子→直系尊属(父母等)→兄弟姉妹の優先順位で相続人になることができます。
配偶者がいなければ、この順番で遺産を全て相続し、同順位の相続人が複数いる場合は、頭数で等分します。
例えば、配偶者がおらず子がX、Y、Zがいる場合は、X、Y、Zで遺産を3分の1ずつに分割します。この場合、直系尊属や兄弟姉妹に相続資格はありません。
他方、配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人となります。そして、血族相続人は先ほどと同じく、子→直系尊属→兄弟姉妹の優先順位で相続人となり配偶者と遺産を分け合います。
その場合の相続分は、以下のとおりです。なお、同順位の血族相続人が複数いる場合に頭数で等分するのは上記と同様です。
配偶者と子が相続人になる場合 → 配偶者:子=1:1
配偶者と直系尊属が相続人になる場合 → 配偶者:直系尊属=2:1
配偶者と兄弟姉妹が相続人になる場合 → 配偶者:兄弟姉妹=3:1
※ ただし、半血の兄弟姉妹(両親のうちどちらかが被相続人と異なる兄弟姉妹)の場合は、全血の兄弟姉妹(両親が二人とも被相続人と同じ兄弟姉妹)の2分の1になります。
例えば、配偶者Wと子X、Y、Zが相続人の場合、Wが2分1、X、Y、Zが6分の1ずつ遺産を相続します。
また、この事例でX、Y、Zが兄弟姉妹(ただし、X、Yは全血、Zは半血)の場合、Wが4分の3、X、Yが10分の1ずつ、Zが20分の1となります。
Q3 指定相続分とは何ですか?
指定相続分とは、遺言書によって遺言者が指定した相続分のことです。指定相続分がある場合は、法定相続分ではなく指定相続分にしたがって遺産を分けることになります。
Q4 特別受益がある場合の具体的相続分はどのように計算するのですか?
特定の相続人が特別受益を得ていた場合、法定相続分や指定相続分のまま遺産を分けるとすると不公平になるので、一定の修正を加える必要があります。
特別受益とは、① 遺贈や② 婚姻、養子縁組のため、または生計の資本として被相続人から相続人の贈与された財貨のことをいいます。
特別受益がある場合の具体的な計算は、以下の手順で行います。
ⅰ 「みなし相続財産」の確定
死亡時の遺産額に生前贈与を加算して「みなし相続財産」を求める(この加算することを「持戻し」といいます。なお、遺贈は持戻しません)
ⅱ 「一応の相続分」の確定
「みなし相続財産」を法定相続分や指定相続分にしたがって各相続人に割り当てて「一応の相続分」を確定する
ⅲ 具体的相続分の確定
「一応の相続分」から遺贈や生前贈与などの特別受益を控除して具体的相続分を確定する
ⅳ 各相続人の取り分の確定
死亡時の遺産の価格から遺贈の額を控除した額を具体的相続分に応じて按分して各相続人の取り分を確定する
なお、贈与された財貨の金額は、贈与された時点ではなく相続開始時点を基準としてその評価額を求めるので、注意が必要です。
具体例を挙げておきましょう。
【具体例】
Aが2億1000万円の遺産を残して死亡し、妻Wと子X、Y、Zが相続人になった。Aは、生前500万円の不動産(相続開始時点で3000万円)をXに贈与している。また、Aは遺言で2000万円の預貯金をWに遺贈している。
ⅰ この場合、「みなし相続財産」は、死亡時の遺産2億1000万円に3000万円の贈与を加算して2億4000万円になります(加算するのは生前贈与のみであり、遺贈は加算しません)。
ⅱ 「一応の相続分」は、これに法定相続分をかけて、Wが1億2000万円、X、Y、Zは4000万円ずつになります。
ⅲ Wは2000万円の遺贈を受けているので、1億2000万円からこれを控除して1億円になります。
また、Xは3000万円の生前贈与を受けているので、4000万円からこれらを控除して1000万円になります。
したがって、具体的相続分は、
W:X:Y:Z=1億円:1000万円:4000万円:4000万円
=10:1:4:4
となります。
ⅳ 死亡時の遺産2億1000万円から遺贈された2000万円を引くと1億9000万円になります。これを上記の具体的相続分に応じて按分します。
その結果、Wが1億円、Xが1000万円、YとZが4000万円ずつとなります。
Q5 持戻しは必ずしないといけないのですか?
被相続人が明示または黙示に持戻しをしない意思表示(持戻し免除の意思表示)をしていた場合は、Q4のような計算をする必要はありません。
なお、指定相続分が遺言書で定められていた場合は、それ自体が持戻し免除の意思表示であると解釈される可能性があります。
また、婚姻期間が20年以上の夫婦の一方が他方に、居住用不動産を贈与または遺贈した場合は、持戻し免除の意思表示があったものと推定されます(民法903条4項)。
Q6 具体的相続分がマイナスになる場合はどうするのですか?
なお、特定の相続人への贈与や遺贈が多額になる場合、具体的相続分がマイナスになることもあります。そのような相続人のことを超過特別受益者などといいます。
超過特別受益者がいる場合、その人の具体的相続分はゼロとみなし、残りの相続人の具体的相続分で相続財産の共有割合を決定することになります。したがって、超過特別受益者もマイナス分を自分の財産から持ち出す必要などはありません。
Q7 寄与分がある場合の具体的相続分はどのように計算するのですか?
寄与分とは被相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人に与えられる特別の持分のことをいいます。
例えば、被相続人の個人事業を従事して事業拡大に貢献した(労務提供型)、自分でお金を出して被相続人の住宅を全面回収した(財産出資型)、被相続人につきっきりで介護した(療養看護型)、被相続人の生活支援のために生活費を渡していた(扶養型)などの場合です。
もっとも、寄与分が認められるのは、親族間で通常期待される相互扶助を超える「特別な寄与」がある場合のみであり、とりわけ療養看護型や扶養型の寄与が問題とされた事案では、寄与分の主張をしても認められないことが多いのが現状です。
寄与分がある場合の具体的な計算は、以下の手順で行います。イメージとしては特別受益がある場合の逆の計算を行う感じです。
ⅰ 「みなし相続財産」の確定
死亡時の遺産額から寄与分を控除して「みなし相続財産」を求める
ⅱ 「一応の相続分」の確定
「みなし相続財産」を法定相続分や指定相続分にしたがって各相続人に割り当てて「一応の相続分」を確定する
ⅲ 具体的相続分の確定
「一応の相続分」に寄与分を加算して具体的相続分を確定する
ⅳ 各相続人の取り分の確定
死亡時の遺産の価格から遺贈の額を控除した額を具体的相続分に応じて按分して各相続人の取り分を確定する
Q8 位牌や仏壇、墓跡、遺骨などは誰が引き継ぐのですか?
位牌や仏壇などの祭具、墳墓、遺骨などの「祭祀財産」の承継については、遺産の相続とは全く異なるルールが設けられています。
具体的には、祭祀財産は「祭祀主宰者」が引き継ぐとされています。
そして、祭祀主宰者は、被相続人の指定がある場合は、その指定によって定められます。被相続人が遺言などで「祭祀主宰者は長男とする」と定めていた場合は、長男が祭祀財産を引き継ぐということです。
被相続人の指定がない場合は、慣習によって決められます。もっとも、慣習といっても何が慣習なのかはっきりしないこともあるでしょうし、そもそも慣習などないことも多いでしょう。
その場合は、家庭裁判所の審判によって祭祀主催者が定められることになります。
Q9 相続人の中に判断力が十分でない人がいる場合はどうすればいいですか?
高齢による認知症の進行や精神障害などにより、相続人の中に判断能力が十分でない人がいる場合もあります。
そのような人がそのまま遺産分割協議に参加することはできませんし、仮に参加したとしても、その遺産分割協議は無効です。
したがって、判断能力が十分でない人が相続人の中にいる場合は、その人について後見開始の審判を家庭裁判所に申立て、後見人を選任してもらった上で、後見人が遺産分割協議に参加する必要があります。
なお、後見申立の理由が遺産分割協議の場合、選任される後見人は親族などではなく、司法書士や弁護士などの専門家から選任されることになります。
他方、すでに後見人が選任されているものの、被後見人と後見人が遺産相続において利益相反関係にある場合(例えば、Aが死亡し、その妻Wと娘Bが相続人となっている事案で、BがWの後見人となっている場合など)は、裁判所に被後見人の特別代理人を選任するよう申し立てる必要があります。
Q10 不動産を相続した場合、登記しないといけないのですか?
令和6年4月1日から相続登記の義務化がスタートします。
その結果、遺産分割によって不動産を取得した場合、遺産分割から3年以内に登記をしなければならなくなります。
また、遺産分割を行う予定がない場合や相続人間で争いがあり遺産分割がまとまらない場合も、相続(遺贈を含みます)により不動産を取得したことを知ったときから3年以内に相続人申告登記をしなければなりません。
正当な理由なくこれらの登記を怠った場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
なお、相続登記の義務化は令和6年4月1日以前に相続が開始している場合にも適用されます。その場合は、制度開始から3年以内(つまり令和9年3月31日まで)に遺産分割に基づく登記か相続人申告登記をしなければならないので注意が必要です。
Q11 相続人以外にも遺産を与えることはできますか?
できます。
具体的には、遺言書で相続人以外の人にも財産を与える(遺贈する)ことが可能です。
もっとも、相続人には遺留分という最低限の持分が保障されているので、遺留分を侵害する遺贈をした場合、相続人から受遺者に対して遺留分侵害額請求をされる可能性があります。
遺留分については、以下の関連記事で詳しく解説しているので、そちらをご参照ください。
関連記事:「遺留分を請求したい人へ」
Q12 遺産の中に貸マンションがある場合、相続開始後の賃料はどうなりますか?
遺産の中に貸物件がある場合、被相続人が死亡してから遺産分割協議が終わるまでの間にも毎月の賃料債権が発生することになります。
この賃料債権はどのように扱われるのでしょうか?
判例によれば、相続開始から遺産分割までの間に発生した賃料債権は、遺産とは別個の財産であって、各相続人がその相続分に応じて確定的に取得するとされています。
したがって、相続人は、遺産分割協議などを経ずに、当然に相続分に応じた割合の賃料を取得することができるということになります。
Q13 遺産分割において不動産の価格はどのように評価するのですか?
遺産分割では不動産の価格をどのように評価すべきかで揉めることがままあります。
不動産の評価方法としては、①不動産会社の査定による方法、②固定資産税評価額による方法、③相続税評価額による方法、④不動産鑑定士の鑑定による方法などがあり、事案に応じて適切な方法を選択することになります。
①は簡便で費用もかからない反面、不動産会社によって評価が大きく異なることがあります。
②は固定資産税賦課のために各市町村が評価している固定資産税評価額を基準とする方法です。建物についてはこの方法によって評価額を決めることが多いといえます。
なお、固定資産税評価額は、実勢価格より低くなる(実勢価格の6〜7割)傾向にあるといわれています。
③は路線価方式と倍率方式があります。
路線価方式とは、その土地が面している道路に割り振られた土地1平方メートルあたりの価格にその土地の面積を乗じて求められる不動産の価格です(もっとも、その土地の特性に応じて一定の補正率を乗じることもあります)。毎年国税庁が路線価図を公表しており、これに基づいて計算します。
倍率方式は、路線価が公表されていない地域における評価方法であり、固定資産税評価額に一定の倍率をかけて評価額を求める方法です。この倍率も国税庁が公表しています。
④は最も確実な方法ですが、不動産鑑定人に支払う報酬(20〜30万円程度)などの費用が発生してしまいます。
Q14 遺産分割協議がまとまらない場合はどうすればいいのですか?
相続人間での遺産分割協議がまとまらない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てる必要があります。なお、調停もあくまで話し合いなので、合意に至らない場合は、不成立になりますが、不成立になると自動的に審判という手続きに移行し、最終的には裁判所が審判(判決のようなものです)により遺産分割についての判断を示してくれます。
Q15 葬儀費用を負担したのですが、他の相続人に相続分に応じて払ってもらうよう求めることはできますか?
葬儀費用は遺産には含まれないので、遺産分割の対象にはなりません。
したがって、当然には他の相続人に対して相続分に応じた負担を求めることはできません。
もっとも、実際の遺産分割協議においては、葬儀費用の負担も考慮して協議をすることがほとんどですし、法律上は被相続人との委任契約や事務管理に基づく事務処理費用償還請求・代弁済請求として他の相続人に請求できる可能性もあるでしょう。
Q16 遺言書が複数ある場合はどうなるのですか?
遺言者は自由に遺言を撤回することができるので、後の遺言書の中に前の遺言書を撤回する旨の記載がある場合、前の遺言は無効になります。
撤回する旨明記されていない場合でも、前の遺言と後の遺言の内容が矛盾衝突する場合は、その限りにおいて前の遺言が撤回されたものとみなされます。他方、矛盾衝突していない部分については、前の遺言も有効なものと扱われます。
Q17 親族が生死不明の場合、相続を開始させることはできますか?
①不在者の生死が7年間明らかでない場合、または、②死亡の原因となる危難(戦争、災害、船舶の沈没等)に遭遇した者の生死がその危難の去った後1年間明らかでない場合、利害関係人は家庭裁判所に失踪宣告を申し立てることができ、失踪宣告が認められると、その人は法律上死亡したものと扱われます。
親族の生死が不明な場合でも、この失踪宣告により相続を開始することが可能です。
なお、失踪宣告とは異なるのですが、戸籍法上の制度として、認定死亡と呼ばれる制度があります。
これは水難や災害その他の事変によって、死亡したことが確実視される場合に、死体の確認に至らなくても、市町村が戸籍に死亡の記載をするという制度(戸籍法89条本文)であり、認定死亡が認められた場合は、死亡についての推定力があるとされています(最判昭和28年4月23日)。
したがって、この認定死亡によっても相続を開始することが可能です。