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保釈が認められるのはどんな場合?―保釈制度について弁護士がわかりやすく解説します
・保釈ってなに?釈放とは違うの?
・保釈が認められるのはどういう場合?
・保釈で身柄を解放してもらうにはどうすればいい?
そもそも「保釈」とは?
保釈は「身柄事件」の「公判段階」においてのみ適用される制度
「保釈」とは、起訴された被告人が勾留によって身体を拘束されている場合に、一定の金銭(保釈保証金)を裁判所に預けることで、身体拘束から解放してもらう制度のことをいいます。
刑事事件は、通常、捜査段階→公判段階という流れで進んでいきます(刑事事件一般の流れについては「刑事事件はどのように進んでいくの?」というコラムで詳細に解説しておりますので、そちらもご参照ください)。
つまり、おおまかにいえば、①警察が事件を捜査をして、検察官が起訴or不起訴の判断をするまでの段階を捜査段階、②検察官が起訴した後、裁判所で行われる裁判手続きのことを公判段階といいます。
そして、捜査段階で犯罪の嫌疑を受けて捜査の対象となっている人のことを「被疑者」、公判段階で事件について審判の対象となっている人のことを「被告人」といいます(捜査段階=被疑者、公判段階=被告人ということです)。
上述のとおり、保釈は「起訴された被告人」について認められる制度なので、起訴後の公判段階においてのみ適用されます。したがって、捜査段階での保釈というのはありません。
また、保釈は身体拘束からの解放を目的とした制度なので、当然ですが、本人の身柄が拘束されている事件(=身柄事件)であることが前提となります(身柄事件に対して、本人の身柄が拘束されていない事件のことを「在宅事件」といいます)。
身柄事件も在宅事件も捜査段階と公判段階がありますが、保釈は身柄事件の公判段階においてのみ適用されうる制度であるということです。
保釈が必要になる場面とは?
以上を前提にもう少し詳しく説明すると、身柄事件においては、捜査段階で最長23日間身柄を拘束されることになります(身柄拘束されている刑事事件の流れについては「ご家族が逮捕された方へ」というコラムでも詳細に解説しておりますので、そちらもご参照ください)。
そして、この最長23日間の間に警察は事件について捜査を進め、最終的に検察官が起訴にするか不起訴にするかを判断します(繰り返しになりますが、この捜査段階での身体拘束について「保釈」を求めることはできません。捜査段階での身体拘束については、別の手続き(勾留準抗告や勾留取消請求等)によって身柄の解放を求めていくことになります)。
捜査終了後、検察官が不起訴にすると判断すれば、そこで事件は終了するのですぐに身柄が釈放されます。当然、この場合は保釈は不要です。
また、起訴の場合でも「略式起訴」といって、軽微な事件について書面審査だけで罰金に処する簡易的な手続きが選ばれた場合も、必ず罰金になるので身柄はすぐに釈放されます。この場合も保釈は不要です。
これに対して、不起訴でも略式起訴でもなく、正式起訴という手続きが選ばれた場合は、正式な刑事裁判手続きを行うことになるので、最終的に判決が出るまでの間、身体拘束(勾留)が続くことになってしまいます。
しかし、判決が出るまでの数か月(下手をすれば数年)もの間、身柄拘束が続くのは被告人にとって極めて負担が大きいといえます。
そこで、一定の金銭(保釈保証金)をいわば人質代わりに裁判所に収めることで、身柄を解放してもらうのが保釈という制度になります。
保釈保証金は、保釈の際に出される条件(保釈条件)を守っていれば、裁判が終わった時点で全額戻ってきます。
他方、逃亡や証拠隠滅を図るなどして保釈条件を破ってしまった場合は、保釈保証金の全部または一部が没収されます。そしてこの場合、保釈も取り消しとなって再び収監されることになってしまいます。
「保釈」と「釈放」はどう違う?
なお、「保釈」とよく混同される用語として「釈放」があります。
「釈放」とは、身体拘束から身柄を解放してもらうこと全般のことを意味しています。
保釈によらなくても、例えば、不起訴処分となって身柄が解放されることも「釈放」といいます。
これに対して、「保釈」は刑事訴訟法88条〜94条によって定められている上記のような制度(お金を納めて身柄を解放してもらう制度)のことをいうのであり、身体拘束からの解放全般を指す「釈放」とは意味が異なります。
保釈の重要性
保釈によって身体拘束からの解放を得ることは極めて重要です。
すでに説明したとおり、保釈はすでに起訴され、裁判を控えている人が身柄を解放してもらう制度です。
ですので、来たる裁判の期日に備えて弁護人と密に打ち合わせなどをしていかなければならない状況にあります。
しかし、身体拘束が続いている状態では、拘置所や留置場の面会室でしか打ち合わせをすることができず、これでは刑事裁判に向けて必ずしも十分な準備ができるとはいえません。
他方、保釈によって身柄拘束から解放された場合、もとの生活を送りながら裁判に対応することが可能となり、時間や場所の制限を受けず、十分に記録を検討しながら、弁護人と密に連絡をとりながら裁判に向けて準備を進めることができるようになります。
このように保釈制度は、刑事裁判に向けて充実した準備を進める前提として非常に重要な意味を持っているといえるでしょう。
保釈はどういう場合に認められる?
全ての事件において保釈が必ず認められるわけではありません。では、保釈はどのような場合に認められるのでしょうか?
保釈が認められるための条件を定めた規定としては、刑事訴訟法89条と90条があります。
89条は、いわゆる「権利保釈」について定めた規定であり、保釈の請求があった場合は、同条1号から6号までに定める事由(除外事由)がある場合を除いて、保釈を認めなければならないという規定です。
つまり、「保釈の請求があった場合は、原則として保釈を認めないといけないけど、1号〜6号までの事情に当てはまる場合は例外ね」ということです。条文は以下のとおりです(条文の内容は後で詳しく説明します)。
第八十九条 保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
これに対して、90条は、いわゆる「裁量保釈」について定めた規定であり、89条1号から6号に該当する事由があり、権利保釈が認められない場合であっても、裁判所が様々な事情を考慮して裁量によって保釈を認めることができるという規定です。条文は以下のとおりです。
第九十条 裁判所は、保釈された場合に被告人が逃亡し又は罪証を隠滅するおそれの程度のほか、身体の拘束の継続により被告人が受ける健康上、経済上、社会生活上又は防御の準備上の不利益の程度その他の事情を考慮し、適当と認めるときは、職権で保釈を許すことができる。
まとめると、保釈の可否判断は、①保釈請求があれば、原則として、保釈(=権利保釈)を認めないといけない→②ただし、例外的に89条1号〜6号に該当する事由(除外事由)がある場合は、権利保釈を認めない→③除外事由があって権利保釈が認められない場合でも、裁量保釈を認めることはできる、という3段構造になっているということです。
そこで、以下では権利保釈と裁量保釈についてみていきましょう。
権利保釈
上述のとおり、89条1号から6号に定める除外事由がない限り、裁判所は権利保釈を認めなければなりません。
したがって、権利保釈が認められるか否かは、89条1号から6号に定める除外事由に該当するか否かによって全てが決まります。
以下で除外事由について一つずつ見ていきましょう。
89条1号
一 被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
これは、起訴された罪の法定刑に死刑もしくは無期刑、又は、短期1年以上の懲役、禁錮刑が含まれている場合のことです。
このような重罪事件については重い刑罰が科される可能性が高く、類型的に逃亡するおそれが高いと考えられるため、権利保釈の除外事由とされています。
例えば、殺人罪は、法定刑の中に死刑または無期刑が含まれているので、これに該当します。
また、強盗罪は、死刑や無期刑は定められていないものの、短期5年以上の有期懲役が法定刑となっているので、これに該当します。
したがって、殺人罪や強盗罪では権利保釈が認められることはありません。
89条2号
二 被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。
これは保釈決定時を基準として、それ以前に死刑や無期刑、長期10年を超える懲役、禁錮に当たる罪について有罪判決を受けたことがある場合のことを指します。
過去に一定以上の重大犯罪について有罪判決を受けたことがある場合、今回の裁判でも重い刑罰となることが予想されるところ、類型的に逃亡のおそれが高いと考えられるため、権利保釈の除外事由とされています。
「死刑や無期刑、長期10年を超える懲役、禁錮に当たる罪について」とされているので、実際に過去に受けた判決が死刑や無期刑、長期10年以上の懲役、禁錮である必要はありません。
例えば、過去に殺人罪について懲役8年の懲役刑を言い渡されたことがある場合でも、殺人罪は法定刑に死刑や無期刑が含まれた犯罪なので、89条2号に該当することになります。
なお、有罪の宣告を受けていれば足り、判決が確定していることは不要ですし、ここでいう有罪の宣告には、執行猶予が付されていた場合も含みますので注意が必要です。
89条3号
三 被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。
「常習として」とは、同種・同質の犯罪事実を繰り返し行なっていたことが認められる場合のことを指します。
これが権利保釈の除外事由とされているのは、1号、2号と同じ趣旨であり、重い刑が科される可能性が高いので、定型的に逃亡のおそれが高いと考えられるからです。
必ずしも起訴された事実だけに限らず、余罪として繰り返し行なっていたと認められる場合もこれに含まれます。
例えば、1件の窃盗(長期10年)で起訴された場合でも、起訴はされていない余罪として複数回に渡って窃盗を繰り返し行なっていたことが証拠上認められる場合は、89条3号に該当し、権利保釈は認められないことになります。
89条4号
四 被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
現在、権利保釈を却下する理由として一番多いのがこの要件です。
罪証を隠滅するおそれがある否かは、犯罪事実の軽重、罪を認めているか否か、証拠の隠滅が客観的に可能か否か、可能であるとすればその証拠はどの程度重要なものであるか、適切な身柄引受人がいるか否か、などの事情によって判断されます。
なお、89条4号にいう「罪証」とは、物証や書証のみならず、人証も含みます。
例えば、証人予定者が被告人と面識のある人物である場合、被告人が容易に接触することができるため、罪証を隠滅するおそれがあると判断される可能性が高まるといえるでしょう。
89条5号
五 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏い怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。
これは被害者や証人等に対する いわゆる「お礼参り」を防止するために設けられた規定です。
これに該当するか否かは、被告人の属性(反社会的勢力に所属していないか否か等)や過去の言動、被害者等との関係性などによって判断されます。
89条6号
六 被告人の氏名又は住居が分からないとき。
氏名や住所が不明な場合は逃亡のおそれが類型的に高いと考えられるため、権利保釈の除外事由とされています。
「氏名又は住所」と定められているとおり、氏名と住所のいずれかが不明であれば、89条6号に当てはまります。
裁量保釈
権利保釈が認められない場合でも、裁判所は職権で裁量保釈を認めることができます。
実際、権利保釈の除外事由に該当する事件でも、裁量保釈で保釈される事案はたくさんあります。
裁量保釈は、逃亡や証拠隠滅の防止という勾留を継続することによるメリットと、健康上、経済上、社会生活条の不利益等勾留を継続することによるデメリットを比較衡量して判断されます。
健康上の不利益に関する事情としては、例えば、被告人が持病を抱えており、長期間の身体拘束が原因で健康が害されるおそれが高い場合などが考えられます。
経済上の不利益に関する事情としては、例えば、身体拘束の長期化により会社を解雇される危険が高いこと、収入が途絶えて家族の生活費が工面できなくなっていること、自営業者における顧客や取引先の消失等の事情が考えられるところです。
社会生活条の不利益に関する事情としては、例えば、学生である被告人が退学処分を受ける可能性があることなどが考えられます。
保釈の手続きはどうすればいい?
保釈を求めるためには、保釈請求書を裁判所に提出しなければなりません。
保釈請求書には、保釈を認めるべき理由を記載するとともにそれを裏付ける資料を添付します。また、保釈が認められた場合に生活の拠点となる場所(制限住居)も記載しなければなりません。
なお、保釈が認められるためには、親族等の適切な身柄引受人がいることが必須ですので、保釈請求書には必ず身柄引受書を添付しなければなりません。
裁判所は保釈請求書の内容や事件記録を検討し、検察官の意見も聴取した上で、保釈を認めるか否かを判断します。
裁判所が保釈を認めると判断した場合は、保釈決定が出されます。
保釈決定には、保釈中に守らなければならない条件(保釈条件)や制限住居、保釈保証金の額が定められます。
保釈決定で定められた保釈保証金を裁判所に納付すれば、晴れて釈放されることになります(通常は、保釈保証金を納付したその日のうちに釈放されます)。
なお、保釈決定で定められた保釈条件を破った場合は、保釈が取り消されて再度収監されるとともに、保釈保証金の全部又は一部が没収されてしまいます。
また、保釈期間中に制限住居が変更になる場合は、裁判所の許可を得なければなりませんので、保釈期間中の引越しや旅行の際には注意が必要です。
保釈保証金の額はどのように決まる?用意できない場合は?
保釈保証金の額は、起訴された犯罪事実の重大性や逃亡、証拠隠滅のおそれの程度、本人の経済力などによって判断されます。
要するに、本人にとって逃亡や証拠隠滅を抑止するのに十分な金額がいくらであるかという判断になりますので、カルロス・ゴーンやホリエモンなどの大富豪の場合は億単位の保釈保証金が設定されることもありますが、そうではない一般市民の場合は数百万円(概ね100万円〜300万円)になることがほとんどです。
なお、保釈保証金は必ずしも本人が用意する必要はなく、親族などに用意してもらうことなども勿論可能です。
保釈保証金を用意できない場合、一定の手数料はかかってしまいますが、日本保釈保証支援協会(https://www.hosyaku.gr.jp/)という機関が保釈保証金を立て替えてくれる制度がありますので、こちらの利用を検討すべきでしょう(なお、立て替えには審査があります)。
まとめ
以上、保釈制度について解説してきましたが、保釈を獲得するためには、保釈の要件や手続き等に関する専門的な知識を前提に、裁判官を説得するための技量と経験が非常に重要になってきます。
名古屋H&Y法律事務所では、豊富な知識と経験に基づき、あなたのご家族が保釈されるために尽力いたします。
ご家族の保釈獲得をご希望の場合は、ぜひお早めにご相談ください。