Archive for the ‘相続’ Category

代襲相続で孫が相続人になる条件とは?受け取れる相続分も解説

2026-08-06

代襲相続で孫が相続人になる条件とは?受け取れる相続分も解説

祖父母が亡くなったとき、「自分の親がすでに亡くなっているけれど、孫である自分は遺産を受け取れるのだろうか」と疑問に思う方は少なくありません。

このような場合に適用されるのが、「代襲相続(だいしゅうそうぞく)」という制度です。代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人が相続できない事情がある場合に、その子どもが代わりに相続権を引き継ぐ仕組みです。

ただし、孫が必ずしも代襲相続人になれるわけではなく、なれる条件となれないケースがあります。本記事では、孫が代襲相続人になる条件、受け取れる相続分、よくあるトラブルと対策まで、わかりやすく解説します。

代襲相続とは?孫が相続人になる仕組みを解説

代襲相続とは?孫が相続人になる仕組みを解説

代襲相続とは、本来相続人になるはずだった人(被代襲者)が、相続が始まる前に死亡していたり、相続権を失ったりした場合に、その子が代わりに相続人となる制度です(民法第887条)。 たとえば、祖父が亡くなる前に父がすでに亡くなっていた場合、本来は父が相続するはずだった遺産を孫が引き継ぐことができます。 代襲相続が認められる範囲は、相続人の種類によって異なります。被相続人の子が代襲原因に該当した場合は、孫・ひ孫と何世代でも代襲が続く(再代襲)のに対し、兄弟姉妹が代襲原因に該当した場合は、その子(甥・姪)までで止まり、再代襲はできません。

参考:e-Gov法令検索「民法第887条

孫が代襲相続人になれる条件

孫が代襲相続人になれる条件

孫が代襲相続人になるには、民法が定める一定の原因(代襲原因)が必要です。具体的には以下の2つのケースが該当します。

  • 被相続人の子(親)がすでに死亡している場合
  • 被相続人の子(親)が相続欠格・相続廃除となった場合

それぞれ詳しく見ていきましょう。

被相続人の子(親)がすでに死亡している場合

最も多いケースが、被相続人(祖父母)よりも先に、相続人となるはずだった子(親)が亡くなっていた場合です。この場合、親の死亡時期は被相続人より前であること(同時死亡を含む)が要件となります。被相続人より後に死亡した場合は、通常の相続として扱われるため代襲相続にはなりません。 なお、養子の子については注意が必要です。養子縁組の後に生まれた子は代襲相続人になれますが、養子縁組の前に生まれた子は、被相続人との法律上の親族関係がないため、原則として代襲相続人にはなれません。

被相続人の子(親)が相続欠格・相続廃除となった場合

相続欠格とは、相続人が一定の違法行為をした場合に、法律上当然に相続権を失う制度です(民法第891条)。被相続人や他の相続人を故意に死亡させた場合や、詐欺・強迫によって遺言を書かせた場合などが該当します。一方、相続廃除とは、被相続人が家庭裁判所に申し立てることで、虐待や重大な侮辱をした相続人の相続権を失わせる制度です。 欠格や廃除はあくまでも本人への制裁であり、その効果は孫には及びません。そのため、親が欠格・廃除となった場合でも孫は代襲相続人になれます。

孫が代襲相続人になれないケース

孫が代襲相続人になれないケース

代襲相続が発生する条件は限られており、すべての状況で孫が相続人になれるわけではありません。以下の3つのケースでは、孫は代襲相続人にはなれません。

  • 親が相続放棄をした場合
  • 遺言書で孫以外の人に相続させる指定がある場合
  • 孫自身が相続欠格に該当する場合

それぞれ詳しく見ていきましょう。

親が相続放棄をした場合

相続放棄とは、相続人が家庭裁判所に申述することで、相続開始の時点にさかのぼって「最初から相続人ではなかった」とみなされる手続きです。相続放棄は代襲原因に含まれないため、親が放棄した場合に孫が代わって相続することはできません。 「親が放棄したから孫が引き継げる」と誤解されるケースが多いため注意が必要です。相続放棄と代襲相続はまったく別の制度であり、混同しないようにしましょう。

遺言書で孫以外の人に相続させる指定がある場合

遺言による相続の指定(遺贈・相続させる旨の遺言)は、法定相続に優先します。そのため、被相続人が遺言で孫以外の人に財産を渡す旨を記していれば、孫は代襲相続できません。

また、注意が必要なのは「長男〇〇に財産を相続させる」と遺言に書いてあっても、その長男がすでに死亡している場合、遺言のその部分は無効となり、孫が自動的に代わりに受け取れるわけではありません。遺言の効力は被相続人の死亡時点で発生するため、受取人が存在しない遺言は無効として扱われ、残った相続人全員で改めて遺産分割協議を行う必要があります。

ただし、遺言が孫の遺留分(最低限受け取れる取り分)を侵害している場合は、孫が遺留分侵害額請求を行うことで一定額を取り戻すことができます。

孫自身が相続欠格に該当する場合

代襲相続人となる孫自身が相続欠格事由に該当する場合(民法第891条)、孫も相続権を失います。欠格事由とは、被相続人を故意に死亡させた場合や、詐欺・強迫によって遺言を書かせた場合などです。親が欠格でも孫は代襲できますが、孫自身が欠格に当てはまる場合はその限りではありません。 また、被相続人が生前に家庭裁判所へ申し立てて孫を相続廃除した場合も、孫は代襲相続人になれません。廃除は虐待や重大な侮辱など、欠格とは異なる事由が対象です。欠格が法律上当然に効力が生じるのに対し、廃除は被相続人の意思と家庭裁判所の審判が必要という点で異なります。 なお、孫自身が欠格・廃除となっても、孫の子(ひ孫)がいれば、再代襲相続によりひ孫が相続人となる可能性があります。

参考:e-Gov法令検索「民法第891条

代襲相続で孫が受け取れる相続分はどのくらい?

代襲相続で孫が受け取れる相続分はどのくらい?

代襲相続人である孫の法定相続分は、被代襲者(親)が受け取るはずだった相続分をそのまま引き継ぎます(民法第901条)。つまり、孫が親の代わりに相続人になった場合、親が相続すべきだった取り分がそのまま孫に移ります。 具体的な例で確認しましょう。

ケース 相続人の構成 孫の相続分
配偶者+孫1人 配偶者(子が1人で先に死亡) 1/2(親の持分をそのまま引継ぎ)
配偶者+子1人+孫2人 子が2人いたうち1人が先に死亡し、孫2人が代襲 各孫1/8(親の持分1/4を孫2人で均等に分割)

代襲相続人が複数いる場合は、親が本来受け取るはずだった相続分を孫同士で均等に分けます。孫の人数が多いほど一人あたりの取り分は少なくなる点に注意してください。

参考:e-Gov法令検索「民法第901条

代襲相続で孫は遺留分を請求できるのか

代襲相続で孫は遺留分を請求できるのか

遺留分とは、一定の相続人に法律で保障された最低限の取り分のことです。代襲相続人である孫にも、遺留分は認められます(民法第1042条)。孫の遺留分割合は、被代襲者(親)と同じ割合を引き継ぎます。 たとえば、配偶者と子2人が相続人となるケースで、そのうち1人の子が先に亡くなり孫2人が代襲した場合、孫2人の個別的遺留分はそれぞれ「総体的遺留分1/2 × 法定相続分1/4 ÷ 2 = 1/16」となります。 遺留分を侵害された孫は、遺留分侵害額請求によって金銭での支払いを求めることができます。ただし、この請求権は相続の開始および遺留分の侵害を知ったときから1年以内に行使しなければなりません(民法第1048条)。期限を過ぎると権利が消滅するため、早めに確認することが重要です。

孫の代襲相続でよくあるトラブル

孫の代襲相続でよくあるトラブル

代襲相続では、孫が突然相続人となることで様々なトラブルが発生しやすくなります。あらかじめ典型的なケースを把握しておきましょう。

  • 他の相続人から遺産分割協議で不利な扱いを受ける
  • 被相続人の借金などマイナスの財産も引き継いでしまう
  • 他の相続人と疎遠で連絡が取れない

それぞれ詳しく見ていきましょう。

他の相続人から遺産分割協議で不利な扱いを受ける

孫はほとんどの場合、他の相続人(叔父・叔母など)より年齢が若く、相続に関する知識も乏しい傾向にあります。遺産の内容を知らないまま、他の相続人が有利な内容で作成した遺産分割協議書への署名・押印を求められるケースがあります。 遺産分割協議は相続人全員の合意が必要ですが、一度署名・押印してしまうと後から覆すことは困難です。内容をよく確認せずに署名することは避け、不明点は弁護士に相談するようにしましょう。

被相続人の借金などマイナスの財産も引き継いでしまう

代襲相続人は、プラスの財産だけでなく、被相続人の借金などのマイナスの財産も引き継ぎます。祖父母の借金の存在を知らないまま相続手続きを進めてしまい、後から多額の債務が発覚するケースも珍しくありません。 相続後に借金が判明した場合でも、相続の開始を知ったときから3か月以内であれば相続放棄が可能です。また、プラスの財産の範囲でのみ債務を負う「限定承認」という選択肢もあります。不安な場合は早めに財産状況を調査することが重要です。

他の相続人と疎遠で連絡が取れない

代襲相続では、孫と叔父・叔母など、普段ほとんど交流のない親族が同じ相続人となるケースが多くあります。連絡先が不明だったり、遠方に住んでいたりして連絡が取れないと、遺産分割協議が進まず手続きが長期化します。 遺産分割協議は相続人全員の参加と合意が必要なため、一人でも連絡がつかない相続人がいると手続きがストップしてしまいます。期限のある相続税の申告(相続開始を知った翌日から10か月以内)にも影響するため、早期に弁護士への相談を検討しましょう。

孫の代襲相続トラブルを防ぐための対策

孫の代襲相続トラブルを防ぐための対策

代襲相続によるトラブルは、事前の準備と早期の専門家への相談によって多くの場合防ぐことができます。具体的な対策を見ていきましょう。

  • 生前に遺言書や財産目録を作成してもらう
  • 早い段階で弁護士に相談・依頼する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

生前に遺言書や財産目録を作成してもらう

被相続人(祖父母)が生前に公正証書遺言を作成しておくことで、孫への相続分を明確に指定でき、他の相続人との争いを防ぐことができます。自筆証書遺言は形式不備により無効になるリスクがあるため、公証人が関与する公正証書遺言のほうが確実です。 また、財産目録を作成しておくことで、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も事前に把握でき、相続放棄や限定承認の判断を適切に行えます。「何がどれだけあるか」を把握しておくことが、孫を守る最初の一歩です。

早い段階で弁護士に相談・依頼する

代襲相続が発生した時点で弁護士に相談することで、自分の相続分や遺留分を正確に把握したうえで権利を主張できます。他の相続人との交渉や遺産分割協議への代理出席、調停・審判の申立てなど、弁護士に依頼できる範囲は幅広くあります。 特に、他の相続人と顔を合わせることへの不安がある場合や、遺産内容が開示されないと感じている場合は、早めに弁護士への相談を検討しましょう。孫という立場で不利に扱われないためにも、専門家のサポートは大きな力になります。

まとめ

まとめ

代襲相続で孫が相続人になれるのは、親が被相続人より先に死亡していた場合、または親が相続欠格・廃除となった場合に限られ、親が相続放棄をした場合は代襲相続は発生しません。孫が受け取れる相続分は親の持分をそのまま引き継ぎ、遺留分の権利も認められます。

一方で、遺産分割協議での不利な扱いや借金の引き継ぎ、連絡が取れない相続人など特有のトラブルも起こりやすいため、生前の遺言書作成や早めの弁護士相談で備えておくことが大切です。

名古屋H&Y法律事務所は、お客様に「本気で寄り添う」をモットーにする法律事務所です。相続に関するご相談は無料で受け付けております。ウェブ会議や電話会議を利用したリモート相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。

遺産相続の手続きに期限はある?種類別の期限と注意点を解説

2026-08-06

遺産相続の手続きに期限はある?種類別の期限と注意点を解説

遺産相続の手続きには、それぞれ法律で定められた期限があります。期限を知らずに放置してしまうと、税金の軽減制度が使えなくなったり、延滞税や加算税が課されたりするリスクがあるため注意が必要です。

特に相続放棄の3ヶ月、準確定申告の4ヶ月、相続税申告の10ヶ月は短く、亡くなった直後の慌ただしい時期と重なります。「何をいつまでにやればいいのか」を早い段階で把握しておくことが大切です。

この記事では、遺産相続における主な手続きの期限を一覧で整理し、期限を過ぎた場合のリスクや、期限内に終わらせるためのポイントを解説します。

遺産相続の手続きに期限はある?

遺産相続の手続きに期限はある?

遺産相続で必要となる手続きには、法律で期限が設けられているものと、明確な期限がないものがあります。

たとえば、相続放棄は3ヶ月以内、相続税の申告・納付は10ヶ月以内と定められています。一方で、遺産分割協議には法律上の期限がありません。

ただし、期限がないからといって放置してよいわけではありません。期限のある手続きと連動しているため、全体のスケジュールを把握して早めに動くことが重要です。

参考:裁判所「相続の放棄の申述

期限のある遺産相続手続きの一覧

期限のある遺産相続手続きの一覧

遺産相続の手続きのうち、法律で期限が定められている主なものは以下のとおりです。

手続き 期限 届出先
相続放棄・限定承認 3ヶ月以内 家庭裁判所
準確定申告 4ヶ月以内 税務署
相続税の申告・納付 10ヶ月以内 税務署
遺留分侵害額請求 1年以内 相手方へ意思表示
相続税の更正の請求 5年10ヶ月以内 税務署
死亡保険金の請求 3年以内 保険会社
相続登記 3年以内 法務局

いずれも起算日は「相続の開始を知った日の翌日」が基本です。それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続放棄・限定承認(3ヶ月以内)

相続放棄とは、被相続人の財産も負債もすべて引き継がない手続きです。限定承認は、プラスの財産の範囲内でのみ負債を引き継ぐ方法です。

どちらも「自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内」に家庭裁判所へ申述する必要があります(民法第915条)。この3ヶ月間は「熟慮期間」とも呼ばれます。

なお、限定承認は相続人全員で共同して申述しなければなりません。期限が迫っている場合は、家庭裁判所に「期間伸長の申立て」をすることで延長が認められる場合もあります。借金の有無が分からないまま期限を過ぎてしまわないよう、早めに財産調査を始めましょう。

参考:裁判所「相続の放棄の申述

準確定申告(4ヶ月以内)

準確定申告とは、亡くなった方(被相続人)に代わって、相続人が所得税の確定申告を行う手続きです。期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内」と定められています(所得税法第125条)。

たとえば、被相続人が個人事業を営んでいた場合や、不動産収入があった場合、給与収入が2,000万円を超えていた場合などが対象になります。

通常の確定申告と異なり、原則として期限の延長はできません。期限を過ぎると延滞税や無申告加算税の対象になるため、該当するかどうかを早めに確認しましょう。

参考:国税庁「No.2022 納税者が死亡したときの確定申告(準確定申告)

相続税の申告・納付(10ヶ月以内)

相続税の申告と納付は、「被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に行う必要があります(相続税法第27条)。申告先は、被相続人の住所地を管轄する税務署です。

遺産分割協議がまとまっていなくても、いったん法定相続分で申告・納付しなければなりません。分割が確定した後に更正の請求や修正申告で調整する流れになります。

納税資金が不足する場合は、一定の要件のもとで「延納」(分割払い)や「物納」(不動産などで納付)の制度も利用できます。いずれも事前に税務署へ申請が必要です。

参考:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税

遺留分侵害額請求(1年以内)

遺留分とは、配偶者や子どもなどの法定相続人に保障された最低限の取り分のことです。たとえば、遺言で「全財産を長男に相続させる」と書かれていた場合でも、他の相続人は遺留分に相当する金銭を請求できます。

この請求権は、「相続開始と遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことの両方を知った日から1年以内」に行使しなければ時効により消滅します(民法第1048条)。さらに、知らなかった場合でも相続開始から10年が経過すると除斥期間の満了により請求できなくなります。

時効を止めるためには、内容証明郵便で請求の意思表示をしておくことが有効です。期限が短いため、遺留分の侵害に気づいたら早急に弁護士へ相談しましょう。

参考:e-Gov法令検索「民法第1048条

相続税の更正の請求(5年10ヶ月以内)

更正の請求とは、相続税を納めすぎた場合に税務署へ還付を求める手続きです。原則として、法定申告期限から5年以内(被相続人の死亡から5年10ヶ月以内)に請求する必要があります(国税通則法第23条)。

たとえば、申告後に遺産分割がまとまり、配偶者の税額軽減が適用できるようになったケースが代表的です。また、財産の評価額に計算誤りがあった場合も対象になります。

なお、遺産分割の確定など特別な事由がある場合は、相続税法第32条の特則により、事由が生じた日の翌日から4ヶ月以内であれば5年10ヶ月を過ぎても請求できる可能性があります。

参考:国税庁「No.4205 相続税の申告と納税

死亡保険金の請求(3年以内)

生命保険の死亡保険金は、保険法第95条により「権利を行使できる時から3年以内」に請求しなければ、時効によって消滅するとされています。死亡保険金の場合、起算日は被保険者が亡くなった日の翌日が一般的です。

ただし、保険会社が時効を援用しない限り、3年を過ぎても支払いに応じてもらえる場合もあります。とはいえ、確実に受け取るためには早めの請求が大切です。

被相続人がどの保険会社と契約していたか分からない場合は、生命保険協会の「生命保険契約照会制度」を利用することで、契約の有無を確認できます。請求漏れを防ぐためにも、できるだけ早い段階で確認しましょう。

参考:e-Gov法令検索「保険法第95条

相続登記(3年以内)

2024年4月1日から、相続登記の申請が義務化されました。相続によって不動産を取得した相続人は、所有権の取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をしなければなりません。正当な理由なく怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。

2024年4月1日より前に発生した相続についても遡って適用され、2027年3月31日までに登記が必要です。

遺産分割協議がまとまらない場合は、「相続人申告登記」という簡易な手続きで暫定的に義務を果たすこともできます。ただし、正式な相続登記の代わりにはならないため、分割が確定した後は改めて登記が必要です。

参考:法務局「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日制度開始)

参考:政府広報オンライン「不動産の相続登記義務化

期限のない遺産相続手続きとは

期限のない遺産相続手続きとは

遺産相続の手続きのなかには、法律上の期限が定められていないものもあります。代表的なものとして、以下の2つがあります。

  • 遺産分割協議
  • 遺言書の検認

ただし、期限がないからといって後回しにすると、他の手続きの期限に間に合わなくなる恐れがあります。それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続人全員で「誰がどの財産を取得するか」を話し合う手続きです。法律上の期限は定められていません。

しかし、相続税の申告期限(10ヶ月)や相続登記の期限(3年)と密接に関わるため、実質的には早期に着手しなければ他の手続きに支障が出ます。特に、相続税の配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、遺産分割が完了していないと原則として適用できません。

話し合いがまとまらない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。調停でも合意に至らなければ審判へ移行し、裁判所が分割方法を決定します。

参考:裁判所「遺産分割調停

遺言書の検認

遺言書の検認とは、自筆証書遺言の内容を家庭裁判所で確認する手続きです。遺言書の偽造・変造を防ぐために行われます。

法律上の申立期限はありませんが、検認前に遺言書を開封すると5万円以下の過料の対象となるため(民法第1005条)、発見したら速やかに申し立てましょう。

なお、公正証書遺言や、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用して保管された遺言書については、検認は不要です。遺言書の種類を確認したうえで、必要な手続きを判断してください。

参考:裁判所「遺言書の検認

遺産相続手続きの期限を過ぎるとどうなる?

遺産相続手続きの期限を過ぎるとどうなる?

期限内に手続きを終えられなかった場合、税金面・法律面の両方でさまざまなデメリットが生じます。主なリスクとして、以下の3つがあります。

  • 相続税の軽減制度が利用できなくなる
  • 延滞税・加算税が発生する
  • 相続人の状況が変わり手続きが複雑化する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続税の軽減制度が利用できなくなる

相続税には、税額を大幅に減らせる軽減制度があります。代表的なものが「配偶者の税額軽減」と「小規模宅地等の特例」です。

配偶者の税額軽減は、配偶者が取得した財産のうち法定相続分または1億6,000万円のいずれか大きい金額まで相続税がかからない制度です。小規模宅地等の特例は、自宅の土地の評価額を最大80%減額できます。

これらの制度は、原則として期限内に申告書を提出することが適用の要件です。申告が遅れると、本来であれば大幅に軽減できたはずの税額をそのまま支払うことになりかねません。

参考:国税庁「No.4158 配偶者の税額の軽減

参考:国税庁「No.4124 小規模宅地等の特例

延滞税・加算税が発生する

相続税の申告期限を過ぎて申告した場合、本来の税額に加えて「無申告加算税」と「延滞税」が課されます。

ペナルティの種類 税率の目安
無申告加算税 納付税額の15%〜20%
重加算税(悪質な場合) 35%〜40%
延滞税 年率2.4%〜8.7%(時期により変動)

特に注意が必要なのは重加算税です。財産を故意に隠したり、書類を偽装したりした場合には35%〜40%もの税率が課されます。さらに、過去5年以内に無申告加算税や重加算税を課されたことがある場合は10%上乗せされます。

期限に間に合わないと分かった時点で、概算でもよいのでまずは期限内に申告することが重要です。

参考:国税庁「延滞税について

相続人の状況が変わり手続きが複雑化する

手続きを長期間放置している間に、相続人自身に変化が起きることがあります。たとえば、相続人の一人が亡くなると「数次相続」が発生し、その相続人の配偶者や子どもが新たに当事者に加わるため、関係者が一気に増えてしまいます。

また、相続人が認知症を発症すると、本人の判断能力が低下するため遺産分割協議ができなくなります。この場合は、成年後見人の選任が必要になり、手続きに時間と費用がかかります。

こうした事態を避けるためにも、相続が発生したらできるだけ速やかに手続きを進めることが大切です。

遺産相続手続きを期限内に終わらせるためのポイント

遺産相続手続きを期限内に終わらせるためのポイント

期限内にすべての手続きを終えるためには、相続発生直後から計画的に動くことが重要です。押さえておきたいポイントは次の3つです。

  • 遺言書の有無を早めに確認する
  • 相続財産の全体像を早期に把握する
  • 早い段階で専門家に相談する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

遺言書の有無を早めに確認する

遺言書があるかないかで、相続手続きの流れは大きく変わります。遺言書がある場合は原則としてその内容に従い、ない場合は相続人全員で遺産分割協議を行います。

まず確認すべきは、公正証書遺言の有無です。最寄りの公証役場で「遺言検索システム」を利用すれば、全国の公証役場で作成された遺言書を検索できます。また、法務局の「自筆証書遺言書保管制度」に保管されている遺言書の有無も確認しましょう。

自宅の金庫や仏壇の引き出しなどに自筆証書遺言が保管されているケースもあります。遺言書の有無を確認するだけでもその後の段取りが立てやすくなるため、相続が発生したらまず最初に取りかかりましょう。

参考:法務局「自筆証書遺言書保管制度

相続財産の全体像を早期に把握する

預貯金、不動産、有価証券、生命保険、そして借入金やローンなどのマイナスの財産も含めて、相続財産の全体像を早い段階で把握しましょう。

特に重要なのは負債の確認です。マイナスの財産がプラスの財産を上回っている場合は、3ヶ月以内に相続放棄を判断しなければなりません。確認が遅れると、放棄の期限を逃してしまうリスクがあります。

具体的には、被相続人の通帳・不動産の固定資産税通知書・証券会社の取引報告書・借入先の書類などを集めて整理します。不明な借金がないか確認するために、信用情報機関(CIC・JICC・KSC)への照会も有効です。

早い段階で専門家に相談する

相続手続きは、法律・税務・登記など複数の分野にまたがります。それぞれの専門家が対応する領域は以下のとおりです。

専門家 主な対応分野
弁護士 遺産分割の交渉・調停、遺留分請求、相続放棄の判断、相続トラブル全般
税理士 相続税の申告・準確定申告・更正の請求
司法書士 相続登記・不動産の名義変更

法律事務所に相談するメリットは、紛争の予防から解決まで一貫して対応できる点です。税理士や司法書士と連携している事務所であれば、税務申告や登記手続きまでワンストップで進められます。

「まだ揉めていないから弁護士は必要ない」と思われがちですが、相続放棄の3ヶ月や準確定申告の4ヶ月は想像以上に短い期間です。早い段階で専門家に相談しておくことで、期限切れのリスクを減らすことができます。

まとめ

まとめ

遺産相続の手続きには、相続放棄の3ヶ月、準確定申告の4ヶ月、相続税の申告・納付の10ヶ月など、それぞれ法律で定められた期限があります。期限を過ぎると、税額の軽減制度が使えなくなったり、延滞税や加算税が課されたりと、金銭的な不利益が生じます。さらに、手続きを放置すると相続人の状況が変わり、問題がより複雑化する恐れもあります。

まずは遺言書の有無と相続財産の全体像を早めに確認し、必要に応じて弁護士や税理士などの専門家に相談しましょう。

名古屋H&Y法律事務所は、お客様に「本気で寄り添う」をモットーにする法律事務所です。相続に関するご相談は無料で受け付けております。ウェブ会議や電話会議を利用したリモート相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。

遺産相続の弁護士費用は誰が払う?争いの有無別に解説

2026-08-06

遺産相続の弁護士費用は誰が払う?争いの有無別に解説

遺産相続で弁護士への依頼を検討しているものの、「費用は誰が払うのか」「他の相続人と分担できるのか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。

弁護士費用は原則として依頼者本人が負担しますが、相続人同士で争いがない場合は分担する方法もあります。一方、争いがある場合は相手に費用を請求できるのかどうかも気になるところです。

本記事では、遺産相続の弁護士費用を誰が払うのかという基本ルールから、争いの有無別の分担方法、費用を抑えるための具体的な方法まで詳しく解説します。

遺産相続の弁護士費用は誰が払う?原則は「依頼者本人」

遺産相続の弁護士費用は誰が払う?原則は「依頼者本人」

結論から言うと、遺産相続で弁護士に依頼する際、弁護士費用は原則として「弁護士に依頼した本人」が支払います。これは日本の法制度上の基本ルールであり、相続人同士で争っているかどうかにかかわらず同じです。

たとえば、相続人が3人いるケースで、そのうち1人だけが弁護士に依頼した場合、費用を負担するのはその1人です。他の相続人には支払い義務はありません。

なぜこのようなルールになっているかというと、弁護士への依頼はあくまで個人と弁護士の間の委任契約であり、契約当事者である依頼者が費用を負担するのが民法上の原則だからです。

ただし、状況によっては相続人間で費用を分担したり、遺産から支払ったりする方法もあります。以降の見出しで、争いがない場合・ある場合に分けて詳しく解説します。

遺産相続で弁護士に依頼した場合の費用内訳

遺産相続で弁護士に依頼した場合の費用内訳

「誰が払うか」を判断するには、そもそもどのような費用が発生するかを知っておく必要があります。

弁護士費用の主な内訳は以下の4つです。

  • 相談料
  • 着手金
  • 報酬金(成功報酬)
  • 実費・日当

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相談料

相談料とは、弁護士に相続について相談する際にかかる費用です。相場は30分あたり5,000〜1万円程度が一般的で、初回相談を無料としている事務所も多くあります。

相談したからといって必ず依頼しなければならないわけではありません。まずは無料相談を活用し、費用の見通しや解決方針を確認してから依頼するかどうかを判断するとよいでしょう。

着手金

着手金は、弁護士に正式に依頼する際に支払う費用です。案件の結果にかかわらず返金されないのが原則であるため、依頼前に金額をしっかり確認しておきましょう。

相場は20万〜50万円程度ですが、遺産の金額や争いの有無によって変動します。たとえば、争いのない遺産分割協議書の作成のみであれば比較的低額ですが、調停や審判に発展するケースでは高くなる傾向があります。

報酬金(成功報酬)

報酬金は、案件が解決した後に成果に応じて支払う費用です。一般的には、弁護士に依頼したことで得られた「経済的利益」に対して一定のパーセンテージで計算されます。

具体的には、遺産分割で500万円を取得できた場合、その金額を基準に報酬が算出される仕組みです。

なお、以前は日弁連の報酬規程に基づき一律で決まっていましたが、現在は廃止されており、各事務所が自由に報酬を設定しています。そのため、事務所ごとに計算方法が異なる点には注意が必要です。

実費・日当

実費とは、手続きの過程で実際にかかる費用のことです。具体的には、戸籍謄本の取得費用、郵送料、裁判所に納める印紙代、交通費などが含まれます。

また、弁護士が遠方の裁判所へ出張する場合には日当が発生することもあります。日当の相場は1日あたり3万〜5万円程度です。出張がなければ日当は発生しないため、依頼前に弁護士の所在地と管轄裁判所の距離を確認しておくと安心です。

争いがない相続手続きで弁護士費用を分担する方法

争いがない相続手続きで弁護士費用を分担する方法

相続人間で大きな争いがなく、手続きを円滑に進めたい場合は、弁護士費用を分担する方法がいくつかあります。

代表的な方法は次の3つです。

  • 相続人全員で共同依頼する
  • 代表相続人が依頼して後で精算する
  • 遺産(相続財産)から支払う

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続人全員で共同依頼する

争いがない場合、相続人全員で同じ弁護士に依頼すれば、費用を人数で分け合うことができます。

たとえば、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼し、費用が30万円だった場合、相続人3人で依頼すれば1人あたり10万円の負担で済みます。

ただし、相続人間で利益が対立している場合は、同じ弁護士に共同で依頼することはできません。弁護士には「利益相反」を避ける義務があり、対立する双方の代理人を同時に務められないためです。

共同依頼は、遺産の分け方について全員がおおむね合意しているケースで有効な選択肢です。

代表相続人が依頼して後で精算する

相続人のうち1人が代表して弁護士に依頼し、遺産分割が終わった後に費用を相続人間で精算する方法もあります。全員が手続きに関与するのが難しい場合(遠方に住んでいる、仕事が忙しいなど)に選ばれることが多い方法です。

ただし、後から「聞いていなかった」「金額に納得できない」とトラブルになるリスクがあります。依頼前に「誰がいくら負担するか」を書面で取り決めておくことが大切です。口頭での約束だけでは、後から認識の違いが生じやすいため注意しましょう。

遺産(相続財産)から支払う

相続人全員が合意すれば、遺産の中から弁護士費用を支払うことも可能です。たとえば、被相続人の預貯金の一部を弁護士費用に充て、残りを分割するという方法が考えられます。

ただし、遺産分割が完了する前に一部の相続人が勝手に預貯金を引き出すと、他の相続人との間でトラブルになる可能性があります。遺産から費用を支払う場合は、必ず全員の合意を得たうえで、その内容を遺産分割協議書に明記しておきましょう。

争いがある遺産相続で弁護士費用を他の相続人に請求できるか?

争いがある遺産相続で弁護士費用を他の相続人に請求できるか?

「自分は悪くないのに、なぜ弁護士費用を自分で払わなければならないのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、争いがある場合でも、原則として弁護士費用を他の相続人に請求することはできません

日本の法制度では「弁護士費用の敗訴者負担」という仕組みが採用されておらず、裁判や調停になっても弁護士費用は各自の負担となります。裁判の判決文にある「訴訟費用」にも弁護士費用は含まれていないため、「勝てば相手に払わせられる」と考えるのは誤りです。

例外として、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるケースでは、弁護士費用の一部を相手方に請求できる場合があります。ただし、遺産分割の紛争自体は不法行為にあたらないことが一般的であるため、相続に関する争いで弁護士費用を相手に請求できるケースはきわめて限定的です

遺産相続の弁護士費用を抑える方法

遺産相続の弁護士費用を抑える方法

弁護士費用は決して安くありませんが、工夫次第で費用を抑えることは可能です。

ここでは代表的な2つの方法を紹介します。

  • 複数の事務所で見積もりを比較する
  • 法テラスの立替制度を利用する

それぞれ詳しく見ていきましょう。

複数の事務所で見積もりを比較する

弁護士費用は事務所ごとに料金体系が異なるため、必ず複数の事務所から見積もりをとって比較することをおすすめします。初回相談が無料の事務所も多いため、2〜3カ所で相談し、それぞれの見積もりを比較するとよいでしょう。

比較する際は、着手金の金額だけでなく、報酬金の計算方法や実費の範囲まで確認してください。着手金が安くても報酬金が高く設定されていると、トータルの費用ではかえって高くなるケースがあります。総額でいくらになるかを事前に試算しておくことが大切です。

法テラスの立替制度を利用する

経済的に弁護士費用の支払いが難しい方は、法テラス(日本司法支援センター)の「民事法律扶助」を利用する方法があります。これは国が設立した機関で、収入や資産が一定の基準以下であれば、弁護士費用を立て替えてもらえる制度です。

立替制度を利用するには、主に以下の条件を満たす必要があります。

  • 収入・資産が資力基準以下であること
  • 勝訴の見込みがないとはいえないこと
  • 権利の濫用にあたる訴訟でないこと

立て替えてもらった費用は、月々5,000〜1万円程度を目安に分割で返済していきます。通常の弁護士費用と比べて低額に設定されているのもメリットです。

参考:法テラス「民事法律扶助業務

遺産相続で弁護士費用を払ってでも依頼すべきケース

遺産相続で弁護士費用を払ってでも依頼すべきケース

弁護士費用は高額になることもありますが、費用を払ってでも依頼したほうがよい状況もあります。

代表的なケースは次の3つです。

  • 相続人同士の対立が激しい場合
  • 遺産の全容が不明な場合
  • 遺留分侵害額請求を行う・受けた場合

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続人同士の対立が激しい場合

相続人間で感情的な対立が生じていると、当事者同士の話し合いでは解決が難しくなります。特に、遺産の分け方をめぐって意見が対立したまま長期間放置すると、遺産分割の手続きが進まず、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができない状態が続きます

弁護士が第三者として間に入ることで、感情的な衝突を避けながら法的な根拠に基づいた交渉が可能になります。結果として、自力で長引かせるよりもトータルの時間や負担を減らせることが多いです。

遺産の全容が不明な場合

被相続人(亡くなった方)がどのような財産を持っていたか分からないケースは少なくありません。預貯金の口座が複数あったり、不動産が遠方にあったり、負債が隠れていたりすると、相続人だけで全容を把握するのは困難です。

弁護士に依頼すれば、弁護士法に基づく照会制度(弁護士会照会)を使って金融機関や行政機関に情報を請求できます。使途不明金や隠し財産が疑われる場合にも、法的手段を用いた調査が可能なため、遺産の正確な範囲を把握したうえで分割協議に臨めます。

遺留分侵害額請求を行う・受けた場合

遺留分とは、配偶者や子どもなど一定の相続人に法律上保障されている最低限の取り分のことです。遺言によって遺留分が侵害された場合は「遺留分侵害額請求」で金銭を請求できますが、この手続きには複雑な計算が伴います。

たとえば、遺留分を算出するには相続財産の評価額や特別受益(生前贈与)の有無などを正確に把握する必要があり、法的知識がなければ適正な金額を判断するのは難しいでしょう。請求する側・される側のいずれであっても、弁護士に依頼することで不利な条件での合意を避けやすくなります

また、遺留分侵害額請求には「相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年」という時効があるため、早めに弁護士に相談することが重要です。

弁護士費用の分担でトラブルにならないためのポイント

弁護士費用の分担でトラブルにならないためのポイント

弁護士費用の分担をめぐって相続人同士の関係が悪化するケースは珍しくありません。トラブルを防ぐためには、依頼前の段階で以下の点を押さえておくことが大切です。

まず、「誰がいくら負担するか」を書面で明確にしておくことが最も重要です。口頭での約束だけでは、後から「そんな話は聞いていない」と言われるリスクがあります。

また、共同で弁護士に依頼する場合は、委任契約書の内容を相続人全員で確認しましょう。費用の負担割合、支払い時期、追加費用が発生した場合の扱いなどを具体的に決めておくと安心です。

万が一、後から費用分担について争いが生じた場合は、別の弁護士に相談して対処法を検討するのも一つの方法です。

まとめ

まとめ

遺産相続の弁護士費用は、原則として弁護士に依頼した本人が負担します。ただし、争いがない場合は共同依頼や遺産からの支払いなどで分担する方法があり、争いがある場合でも弁護士費用を相手に請求するのは原則として認められていません。費用を少しでも抑えたい方は、複数の事務所で見積もりを比較したり、法テラスの立替制度を検討したりしてみてください。

名古屋H&Y法律事務所は、お客様に「本気で寄り添う」をモットーにする法律事務所です。相続に関するご相談は無料で受け付けております。ウェブ会議や電話会議を利用したリモート相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。

相続放棄と生前贈与の関係は?注意点やリスクを弁護士が解説

2026-08-06

相続放棄と生前贈与の関係は?注意点やリスクを弁護士が解説

「生前贈与を受けているけれど、相続放棄はできるのだろうか」「贈与をもらった後に相続放棄すると、税金やペナルティはどうなるのか」——このような不安を抱えている方は少なくありません。

結論からいえば、生前贈与を受けていても相続放棄は可能です。ただし、詐害行為取消権による贈与の取消しや、贈与税・相続税の課税、遺留分侵害額請求など、見落としがちなリスクがいくつもあります。

本記事では、生前贈与と相続放棄の関係について、法律面・税務面の注意点を弁護士がわかりやすく解説します。

生前贈与を受けていても相続放棄はできる

生前贈与を受けていても相続放棄はできる

結論からいうと、生前贈与を受けていても相続放棄は可能です。相続放棄とは、被相続人(亡くなった方)が残した財産や負債を一切引き継がない手続きのことで、家庭裁判所に申述して行います。

一方、生前贈与は被相続人が生きている間に財産を移転する「贈与契約」にもとづく行為です。つまり、生前贈与と相続はそもそも別の法律行為であり、過去に贈与を受けていたからといって、相続放棄ができなくなるわけではありません。

ただし、生前贈与を受けた後に相続放棄をする場合には、税金面や法律面でいくつかのリスクがあります。以下のセクションで、注意すべきポイントを一つずつ解説していきます。

参考:裁判所「相続の放棄の申述

生前贈与を受けた後に相続放棄する場合の注意点

生前贈与を受けた後に相続放棄する場合の注意点

生前贈与を受けた後に相続放棄を検討するなら、次の3つの注意点を押さえておきましょう。

  • 詐害行為取消権で贈与が取り消されるリスクがある
  • 相続放棄には3ヶ月の期限があり撤回もできない
  • 単純承認とみなされて相続放棄できなくなるケースがある

それぞれ詳しく見ていきましょう。

詐害行為取消権で贈与が取り消されるリスクがある

被相続人に多額の借金があった場合、債権者が「詐害行為取消権」(民法424条)を使って、生前贈与そのものを取り消すよう裁判所に請求できる場合があります。

詐害行為取消権とは、債務者が返済を免れるために財産を親族などに移す行為を、債権者が取り消せる制度です。たとえば、借金を多く抱えた親が、あえて子に不動産を贈与してから亡くなったケースでは、債権者がこの贈与を取り消す裁判を起こし、贈与された財産を返還しなければならなくなる可能性があります

なお、詐害行為取消権には「債権者が贈与を知ったときから2年」「贈与のときから10年」という期間の制限があります(民法426条)。被相続人に借金がある場合は、贈与が取り消されるリスクがないか、事前に弁護士に確認しておくと安心です。

参考:e-Gov法令検索「民法第424条(詐害行為取消請求)

相続放棄には3ヶ月の期限があり撤回もできない

相続放棄には「熟慮期間」と呼ばれる期限があり、自分のために相続が開始したことを知った日から3ヶ月以内に家庭裁判所へ申述しなければなりません(民法915条1項)。多くの場合、被相続人の死亡日が起算点になります。

この期間を過ぎてしまうと、「単純承認をしたもの」とみなされ、借金を含むすべての財産を引き継ぐことになります。生前贈与を受けているからといって期限が延びるわけではないため、早めの判断が重要です。

また、一度家庭裁判所に受理された相続放棄は、原則として撤回できません(民法919条)。「やはり相続したい」と思い直しても後戻りできないため、事前に財産や負債の状況をよく調べたうえで判断しましょう。

参考:法務省「相続放棄等の熟慮期間の延長を希望する方へ

単純承認とみなされて相続放棄できなくなるケースがある

相続放棄の手続きをする前に、遺産を使ったり処分したりすると、「法定単純承認」に該当し、相続放棄ができなくなります(民法921条)。

具体的には、被相続人の預貯金を引き出して使ってしまった場合や、被相続人の所有物を売却・譲渡した場合などが該当します。さらに、相続放棄後であっても遺産を隠したり私的に消費したりすると、単純承認とみなされてしまいます

生前贈与で受け取った財産と相続財産を混同しないよう注意することが大切です。被相続人名義の口座や不動産には手をつけず、まずは弁護士に相談するのが安全な方法です。

参考:e-Gov法令検索「民法第921条(法定単純承認)

相続放棄しても生前贈与の贈与税は課税される

相続放棄しても生前贈与の贈与税は課税される

相続放棄をしたとしても、過去に受けた生前贈与に対する贈与税の納税義務は消えません。贈与税は贈与を受けた時点で発生する税金であり、相続放棄とは無関係だからです。

暦年課税の場合、1年間に贈与を受けた金額の合計が110万円(基礎控除額)を超えると、超えた部分に贈与税がかかります。たとえば、親から500万円の贈与を受けた場合、基礎控除110万円を差し引いた390万円が課税対象となります。

「相続放棄すれば税金がかからない」と誤解される方もいますが、贈与税の申告・納付はすでに済ませておく必要があります。まだ申告をしていない場合は、早急に対応しましょう。

参考:国税庁「No.4402 贈与税がかかる場合

相続時精算課税制度で贈与を受けていた場合の相続税

相続時精算課税制度で贈与を受けていた場合の相続税

相続時精算課税制度とは、60歳以上の親や祖父母から18歳以上の子や孫への贈与について、累計2,500万円まで贈与税を非課税にできる制度です。ただし、贈与者が亡くなったときに、贈与した財産の価額を相続財産に加算して相続税を計算する仕組みになっています。

ここで注意が必要なのは、相続放棄をしても、相続時精算課税制度で受けた贈与財産は「遺贈により取得したもの」とみなされ、相続税の課税対象になる点です。つまり、民法上は相続人ではなくなっても、税法上は課税されてしまいます。

たとえば、相続時精算課税制度を使って親から2,000万円の贈与を受けた後に相続放棄した場合、この2,000万円が他の相続人の遺産と合算され、基礎控除を超えていれば相続税の納税義務が発生します。想定外の税負担が生じることがあるため、事前にシミュレーションしておくことが大切です。

参考:国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択

参考:国税庁「No.4301 相続時精算課税の選択と相続税の申告義務

生命保険金・死亡退職金は相続放棄しても課税対象になる

生命保険金・死亡退職金は相続放棄しても課税対象になる

生命保険金や死亡退職金は、受取人固有の財産です。そのため、相続放棄をしても受け取ること自体は可能です。ただし、税法上は「みなし相続財産」として扱われ、相続税の課税対象になります。

さらに注意すべきは、相続放棄をした人は「相続人」ではなくなるため、生命保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を適用できないという点です。たとえば、法定相続人が3人であれば1,500万円までの非課税枠がありますが、相続放棄した人が受け取った保険金には、この枠が使えず全額が課税対象となります。

生前贈与を受けたうえに生命保険金も受け取ると、合計の課税額が大きくなることがあります。生前贈与と保険金の受取を組み合わせる場合は、税理士を交えてシミュレーションしておきましょう。

参考:国税庁「No.4114 相続税の課税対象になる死亡保険金

相続放棄後に遺留分侵害額請求を受けることはあるのか?

相続放棄後に遺留分侵害額請求を受けることはあるのか?

相続放棄をすると「初めから相続人ではなかった」とみなされるため(民法939条)、原則として遺留分侵害額請求の対象にはなりません。

ただし、例外があります。民法1044条によると、相続開始前1年以内にされた贈与や、当事者双方が遺留分を侵害すると知りながら行った贈与は、遺留分の算定基礎に含まれます。さらに、相続人に対する贈与については、相続開始前10年以内の特別受益(婚姻・生計の資本としての贈与)も対象です。

具体的には、親から高額な不動産を生前贈与され、その後に相続放棄した場合、他の相続人から「遺留分を侵害している」として金銭の支払いを求められる可能性があります。このような請求を受けた場合は、速やかに弁護士に相談することをおすすめします。

参考:e-Gov法令検索「民法第1044条(遺留分を算定するための財産の価額)

相続放棄以外で借金を受け継がせない方法

相続放棄以外で借金を受け継がせない方法

相続放棄は借金を引き継がない有効な手段ですが、それ以外にも方法があります。ここでは代表的な2つの方法を紹介します。

  • 限定承認を行う
  • 生前に債務整理をする

それぞれ詳しく見ていきましょう。

限定承認を行う

限定承認とは、相続したプラスの財産の範囲内でのみ、借金などのマイナスの財産を引き継ぐ制度です(民法922条)。たとえば、プラスの財産が1,000万円で借金が2,000万円だった場合、1,000万円までしか返済義務を負いません。

相続放棄との大きな違いは、プラスの財産が借金を上回っていた場合に、その差額を受け取れる点です。財産と借金のどちらが多いか不明な場合には、限定承認が有効な選択肢になります。

ただし、限定承認は相続人全員が共同で家庭裁判所に申述する必要があるため(民法923条)、一人でも反対する相続人がいると利用できません。また、手続きが煩雑で時間もかかる点もデメリットです。

参考:裁判所「相続の放棄の申述

生前に債務整理をする

被相続人がまだ存命であれば、生前のうちに借金を整理しておくことで、相続人が負債を引き継ぐリスクを減らせます。債務整理には主に「任意整理」「個人再生」「自己破産」の3つの方法があります。

ただし、生前贈与と債務整理を同時に行うと、詐害行為とみなされるリスクがある点に注意が必要です。たとえば、借金があるのに子に財産を贈与してから自己破産すると、債権者から贈与の取消しを求められる可能性があります。

生前贈与と債務整理の両方を検討している場合は、順序やタイミングを誤ると大きなリスクを招きます。早い段階で弁護士に相談し、適切な進め方を確認しておきましょう。

参考:e-Gov法令検索「民法第424条(詐害行為取消請求)

生前贈与と相続放棄に関するよくある質問

生前贈与と相続放棄に関するよくある質問

生前贈与でプラスの財産だけもらい相続放棄するのはあり?

法律上は、生前贈与でプラスの財産を受け取ったうえで、相続開始後に相続放棄をすること自体は可能です。しかし、実際には注意すべき点があります。

被相続人が借金を抱えた状態で財産を贈与していた場合、債権者から「意図的な財産隠し」とみなされ、詐害行為取消権を行使される可能性があります。この場合、贈与された財産を返還しなければなりません。

「プラスだけもらって借金はゼロ」という結果を狙うことは制度上は不可能ではありませんが、リスクをともなう行為です。事前に弁護士へ相談し、リスクの有無を確認しておきましょう。

参考:e-Gov法令検索「民法第424条(詐害行為取消請求)

生前贈与を受けた土地はどうなる?

生前贈与によって取得した土地は、贈与が完了した時点で受贈者(贈与を受けた人)の所有物です。相続財産には含まれないため、相続放棄をしても原則として返還する必要はありません。

ただし、先述のとおり被相続人が債務超過だった場合、債権者から詐害行為取消権を行使され、土地を返還しなければならなくなるリスクがあります

また、生前贈与を受けたにもかかわらず所有権の移転登記が完了していないケースもあります。登記が未了のままだと、第三者に対して所有権を主張できない場合があるため、登記の有無を必ず確認しておきましょう。

参考:e-Gov法令検索「民法第424条(詐害行為取消請求)

複数人が生前贈与を受けて全員が相続放棄した場合は?

相続人全員が相続放棄をした場合、その順位の相続人は初めからいなかったものとして扱われ、次の順位の相続人に相続権が移ります。たとえば、子ども全員が放棄すると、次は被相続人の父母(直系尊属)、さらにその全員が放棄すると兄弟姉妹へと相続権が移行します。

すべての順位の相続人が放棄した場合は、利害関係人の申立てにより家庭裁判所が「相続財産清算人」を選任します。清算人が財産を管理・換価し、債権者への弁済を行ったうえで、残った財産は最終的に国庫に帰属します。

なお、全員が生前贈与を受けたうえで全員が相続放棄をしているケースでは、債権者が各贈与について詐害行為取消権を行使する可能性もあるため、注意が必要です。

参考:裁判所「相続の放棄の申述

まとめ

まとめ

生前贈与を受けていても相続放棄は可能ですが、詐害行為取消権による贈与の取消しや、法定単純承認に該当する行為、3ヶ月の熟慮期間の失念など、法律面のリスクがあります。加えて、相続放棄しても贈与税や相続時精算課税制度による相続税は課税され、生命保険金の非課税枠も使えなくなるなど、税務面の影響も見逃せません。

生前贈与と相続放棄が絡むケースは判断が複雑になりやすいため、早い段階で弁護士に相談し、最適な方法を検討することをおすすめします。

名古屋H&Y法律事務所は、お客様に「本気で寄り添う」をモットーにする法律事務所です。相続に関するご相談は無料で受け付けております。ウェブ会議や電話会議を利用したリモート相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。

司法書士と弁護士の違いは?どちらに頼むべきか解説

2026-07-17

司法書士と弁護士の違いは?どちらに頼むべきか解説

「弁護士と司法書士はどちらも法律の専門家だけど、何が違うの?」と疑問に思う方は多いでしょう。どちらに依頼すべきかは、抱えている問題の内容や金額によって変わります。

本記事では、弁護士と司法書士の業務範囲の違いを明らかにしたうえで、相続・債務整理・不動産登記・交通事故・成年後見といったケース別に、どちらに依頼すべきかを解説します。

弁護士と司法書士の違い

弁護士と司法書士の違い

弁護士と司法書士の最大の違いは、扱える業務の範囲にあります。

弁護士は法律事務全般を扱える資格であるのに対し、司法書士は登記業務を中心とした限定的な範囲を担当する専門家です。以下では、それぞれの業務範囲と、弁護士にしかできないことを具体的に解説します。

弁護士の業務範囲

弁護士は、弁護士法第3条により「訴訟事件、非訟事件その他一般の法律事務を行うことを職務とする」と定められています。つまり、法律に関するあらゆる業務を扱える「万能資格」です。

たとえば、民事裁判や刑事弁護はもちろん、示談交渉や契約書の作成、企業法務のアドバイスまで幅広く対応できます。取り扱える金額にも上限がなく、数百万円から数億円規模の案件まで制限なく代理が可能です。

参考:日本法令外国語訳データベースシステム「弁護士法

司法書士の業務範囲

司法書士の中心業務は、不動産登記や商業登記といった各種登記手続きの代理です。加えて、裁判所に提出する書類の作成も行えます。

さらに、法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」であれば、簡易裁判所における訴額140万円以下の民事事件に限り、訴訟代理や和解交渉が可能です。具体的には、少額の貸金返還請求や敷金返還請求などが対象になります。

ただし、140万円を超える案件や、地方裁判所以上での訴訟には対応できません。業務を進める途中で訴額が140万円を超えた場合も、その時点で弁護士に引き継ぐ必要があります。

弁護士にできて司法書士にできないこと

弁護士と司法書士の違いを明確にするために、弁護士にしかできない業務を整理しておきましょう。

業務内容 弁護士 司法書士
140万円を超える民事事件の代理 ×
地方裁判所以上での訴訟代理 ×
刑事事件の弁護 ×
行政訴訟の代理 ×
紛争相手との交渉(金額制限なし) △(140万円以下のみ)
不動産登記・商業登記

特に重要なのが、「相手方との交渉」を代理できるかどうかです。弁護士法第72条により、弁護士以外の者が報酬を得て法律事件の交渉を代理することは原則禁止されています。認定司法書士は140万円以下の簡裁案件に限って例外的に認められていますが、それ以外の交渉代理は弁護士にしかできません。

参考:第二東京弁護士会「本当に怖い非弁提携

【相続の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

【相続の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

相続では、手続きの内容によって適切な依頼先が変わります。大きく分けると以下の2パターンです。

  • 相続登記(不動産の名義変更)が中心 → 司法書士
  • 相続人間でトラブルがある → 弁護士

それぞれ詳しく見ていきましょう。

相続登記の手続きは司法書士が得意

相続登記とは、亡くなった方の名義になっている不動産を相続人の名義に変更する手続きです。2024年4月から相続登記が義務化され、正当な理由なく3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。

不動産登記は司法書士の専門領域であり、実務経験や対応件数が圧倒的に多い分野です。戸籍の収集や相続関係説明図の作成、争いのない場合の遺産分割協議書の作成補助にも対応できます。

相続人間で揉めごとがなく、不動産の名義変更がメインの手続きであれば、司法書士に依頼するのがスムーズでしょう。

相続トラブルがある場合は弁護士に依頼する

遺産分割の内容で相続人同士が揉めている場合や、遺言書の有効性を争いたい場合は、弁護士に相談してください。交渉や調停・訴訟の代理ができるのは弁護士だけであり、司法書士ではこれらの対応はできません。

たとえば、「特定の相続人が遺産を独占しようとしている」「遺留分を請求したい」「被相続人の預金を生前に使い込んだ疑いがある」といったケースでは、弁護士が依頼者の代理人として他の相続人と交渉し、必要に応じて家庭裁判所での調停・審判に進みます。

参考:兵庫県弁護士会「非弁護士による法律事務取扱等対策委員会

【債務整理の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

【債務整理の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

債務整理を検討する際も、弁護士と司法書士で対応できる範囲が異なります。判断の基準となるのは以下の2点です。

  • 1社あたりの債権額が140万円を超えるかどうか
  • 自己破産・個人再生を選ぶかどうか

それぞれのケースを確認しましょう。

司法書士に依頼できるケース

認定司法書士であれば、1社あたりの債権額が140万円以下の任意整理に対応可能です。なお、140万円の判定は借金の「総額」ではなく「個別の債権ごと」で計算します。たとえば、A社に130万円・B社に70万円の借入がある場合、合計200万円でも各社の債権は140万円以下なので司法書士に依頼できます。

費用面では弁護士より安い傾向がある点もメリットです。ただし、自己破産や個人再生の手続きでは司法書士の業務は書類作成にとどまり、裁判所での代理はできません。裁判所とのやり取りは自分で行う必要がある点に注意してください。

弁護士に依頼すべきケース

1社あたりの債権額が140万円を超える場合は、弁護士に依頼する必要があります。また、自己破産や個人再生は地方裁判所で行う手続きのため、裁判所での代理権を持つ弁護士に依頼するのが安心です。

弁護士であれば、債権者との交渉から裁判所での手続きまで一貫して代理できます。司法書士に依頼した場合、途中で自己破産や個人再生に方針変更が必要になると、改めて弁護士に依頼し直す手間と費用が発生するリスクもあります。借入額が大きい方や手続きの確実性を重視する方は、最初から弁護士への相談をおすすめします。

【不動産登記の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

【不動産登記の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

不動産登記については、実務上は司法書士に依頼するのが一般的です。不動産登記は司法書士の中核業務であり、売買・贈与・相続・抵当権設定など、登記の種類を問わず豊富な経験を持っています。

法律上は弁護士も登記申請の代理が可能です。しかし、登記手続きの実務に日常的に携わっているのは司法書士のほうが圧倒的に多く、不動産売買の決済に立ち会う専門家としても司法書士が指定されるのが通例です。

たとえば、マイホームを購入する際の所有権移転登記や、住宅ローンに伴う抵当権設定登記は、ほぼすべてのケースで司法書士が対応しています。不動産登記だけであれば弁護士に依頼する必要はなく、司法書士に任せるのが費用面でも合理的です。

【交通事故の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

【交通事故の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

交通事故の損害賠償請求では、賠償額が140万円を超えるかどうかが依頼先を分けるポイントになります。それぞれのケースを見ていきましょう。

損害賠償額が140万円以下の場合

物損事故や軽微な人身事故など、損害賠償の請求額が140万円以下であれば、認定司法書士も簡易裁判所での代理や示談交渉に対応できます。

たとえば、追突事故で車の修理費用のみを請求するケースや、軽いむちうちで通院期間が短い場合などが該当します。費用を抑えたい場合は、司法書士への依頼も選択肢の一つです。

ただし、治療が長引いて賠償額が140万円を超える可能性がある場合は、最初から弁護士に相談しておくほうが安心です。

損害賠償額が140万円を超える場合

後遺障害が残るケースでは、慰謝料や逸失利益を含め賠償額が高額になりやすく、弁護士に依頼すべきです。弁護士であれば、保険会社の提示額に対して弁護士基準(裁判基準)で請求でき、賠償額が大幅に増額する可能性があります。

弁護士基準とは、過去の裁判例をもとにした損害算定の基準で、保険会社が用いる「自賠責基準」や「任意保険基準」より高額です。弁護士に交渉を依頼するだけで、賠償額が2倍以上になるケースも珍しくありません。

なお、自動車保険に付帯する「弁護士費用特約」を利用すれば、最大300万円まで弁護士費用を保険会社が負担してくれます。自己負担なく弁護士に依頼できるため、特約がある場合は積極的に活用しましょう。

【成年後見の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

【成年後見の場合】弁護士と司法書士の違いを踏まえどちらに依頼すべき?

成年後見制度の利用にあたっては、弁護士と司法書士のどちらにも関わりがあります。家庭裁判所への申立書類の作成は司法書士が対応でき、申立ての代理は弁護士が行えます。

注目すべきは、後見人に司法書士が選任されるケースが多いという点です。「公益社団法人 成年後見センター・リーガルサポート」には全国の司法書士の約3分の1にあたる7,000人以上が登録しており、第三者後見人として家庭裁判所から選任される実績が豊富です。リーガルサポートでは裁判所への報告に加え、半年に1度の業務報告が義務づけられており、二重チェック体制がとられています。

一方、将来的に親族間の紛争が見込まれる場合は弁護士が安心です。後見人として選任された後に相続トラブルや財産の使い込みが発覚した場合、弁護士であれば法的手続きにも一貫して対応できます。

参考:公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート「リーガルサポートって?

参考:厚生労働省「法定後見制度における成年後見人等選任方法

弁護士と司法書士の費用相場の違い

弁護士と司法書士の費用相場の違い

依頼先を選ぶうえで、費用は気になるポイントでしょう。弁護士と司法書士では、料金体系に大きな違いがあります。

費用項目 弁護士 司法書士
相談料 30分5,000円〜1万円

(初回無料の事務所も多い)

30分5,000円前後

(初回無料の事務所も多い)

料金体系 着手金+報酬金が基本

(旧日弁連報酬基準が目安)

定額報酬型が多い
着手金の目安 10万〜50万円程度 なし(報酬に含まれることが多い)

一般的に、弁護士のほうが費用は高くなる傾向があります。これは弁護士が対応できる業務範囲の広さや、交渉・訴訟の代理といった高度な業務を含むためです。

一方、司法書士は登記など定型的な業務を定額で引き受けるケースが多く、費用の見通しが立てやすいメリットがあります。ただし、費用の安さだけで依頼先を選ぶと、途中でトラブルが発生した場合に弁護士へ依頼し直す二重コストが生じるリスクもあります。「何をどこまで任せたいか」で判断することが大切です。

弁護士と司法書士の違いに迷ったら、まず弁護士に相談すべき理由

弁護士と司法書士の違いに迷ったら、まず弁護士に相談すべき理由

「自分のケースは弁護士と司法書士のどちらに頼めばいいか判断できない」という場合は、まず弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士は業務範囲に制限がないため、どのような案件であっても対応できます。

相談の結果、登記だけで済む案件であれば「この件は司法書士に依頼したほうがよいですよ」と案内してもらえることもあります。最初の入口として弁護士を選んでおけば、適切な専門家に最短でたどり着けるのです。

近年は初回相談を無料としている法律事務所も増えています。費用をかけずに専門家の見解を聞けるため、「まずは話を聞いてほしい」という段階でも気軽に利用できます。

まとめ

まとめ

弁護士は法律事務全般を扱える万能型の専門家で、交渉・訴訟の代理に金額の制限がありません。一方、司法書士は登記業務のエキスパートであり、認定司法書士であれば140万円以下の簡裁案件にも対応可能です。依頼先を選ぶ際は「紛争性があるかどうか」「金額が140万円を超えるかどうか」「手続きの種類は何か」の3つを判断基準にしてください。迷った場合は業務範囲に制限のない弁護士にまず相談することで、自分に合った専門家にスムーズにたどり着けます。

名古屋H&Y法律事務所は、お客様に「本気で寄り添う」をモットーにする法律事務所です。不貞慰謝料・相続・刑事事件に関するご相談は無料で受け付けております。ウェブ会議や電話会議を利用したリモート相談にも対応しておりますので、お気軽にご連絡ください。

不動産を相続した場合の登記ってどうすればいいの?―相続登記について弁護士がわかりやすく解説します

2024-05-04

そもそも「登記」って何?

不動産の「登記」とは、不動産の状況や権利関係を公に示すために、公的な帳簿である不動産登記簿にそれらの情報を記録し、公開する制度のことです。

よく不動産の「名義」という言葉をお聞きになることがあるかと思いますが、そこでいう「名義」とはこの登記の名義のことを指しています。

不動産登記簿は法務局で調整、管理されており、全国の不動産に関する情報を誰でも見ることが可能です。

登記がなぜ必要か?

なぜ不動産を登記する必要があるかというと、登記をしておかないと不動産に対する権利を第三者に対抗することができないからです。

どういうことかというと、例えばAさんがBさんから甲不動産を購入したとします。しかし、Aさんは甲不動産の所有権取得について登記をしていませんでした。

そうしたところ、Bさんが別のCさんに甲不動産を売ってしまい(二重売買)、Cさんは甲不動産の所有権取得を登記しました。

この場合、Aさんは最初に甲不動産を購入し、Bさんに購入代金を支払っているにもかかわらず、甲不動産の所有権を取得できず、甲不動産はCさんのものとなってしまうのです。

このように不動産に対する権利を保全するためには登記をしなければならず、これをしておかないと、知らぬ間に自分の権利を失ってしまうおそれがあるのです。

そして、これは遺産分割によって不動産を取得した場合も同様です。

後述するように昨今になって相続登記は義務化されていますが、それは別にしても不動産を相続によって取得した場合は必ず登記をするようにしましょう。

相続登記はどうすればいいの?

不動産登記は、登記申請書に必要書類を添付して法務局に提出することで行います。

もっとも、相続登記は、①遺産分割による相続登記、②法定相続分による共同相続登記、③共同相続登記後の遺産分割に基づく登記、④(相続人への)遺贈による登記などのパターンが考えられ、そのいずれであるかよって申請書の記載事項や必要書類などが異なります。

以下でそれぞれのパターンごとに解説していきたいと思います。

①遺産分割による相続登記

・申請人

通常、相続登記は登記権利者(権利を取得した人)と登記義務者(権利を譲渡した人)の共同で申請しなければなりません。

例えば、不動産の売買だと、売主と買主が共同で申請する必要があります。

しかし、遺産分割による相続登記の場合は、不動産を取得した相続人が単独で所有権移転登記を申請することができます(不動産登記法63条2項)。

・日付及び登記原因

登記申請書には登記原因(登記をする理由となった法的な原因)とその日付を記載しなければなりません。

遺産分割によって不動産を取得した場合、相続開始時に遡って不動産を取得するとみなされるため(民法909条)、申請書に記載する登記原因日付は相続開始日になります。

また、登記原因は「相続」です。

・登録免許税

固定資産税評価額の0.4%

・管轄法務局

不動産の所在地を管轄する法務局に申請書を提出しなければなりません。

・添付書類

ⅰ 登記原因証明情報

不動産登記の申請をする際は、登記原因の存在を証明する資料を添付資料として提出しなければなりません。

遺産分割による相続登記の場合は、被相続人との相続関係を示すために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等と相続人の現在の戸籍謄本が必要になります。

なお、法務局で承認を受けた法定相続情報一覧図を戸籍一式に代えることも可能です。

以上に加えて、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書も登記原因証明情報として提出する必要があります。

なお、調停や審判による分割の場合は、調停調書や審判書を提出しなければなりませんが、この場合は、戸籍一式や相続人の印鑑登録証明書は基本的に不要となります。

ⅱ 住所証明書

不動産取得者である相続人の住民票を提出します。

ⅲ 委任状

司法書士等に登記申請を委任した場合は、委任状を添付しなければなりません。

ⅳ その他

その他、不動産の固定資産税評価額がわかる資料と被相続人の本籍地の記載のある住民票の除票を添付するのが登記実務となっています。

前者は登録免許税の計算をするため、後者は被相続人と登記名義人の同一性を確認するために必要であるといわれています。

②法定相続分による共同相続登記

・申請人

被相続人の死亡により相続は開始したものの遺産分割はまだ成立していないという段階において、不動産を含む遺産は相続人たちが法定相続分に応じて共有していることになります。

この共有状態について登記するのが「法定相続分による共同相続登記」です。

この登記は各相続人が単独で申請することが可能です。

・日付及び登記原因

登記原因の日付は相続開始日、登記原因は「相続」となります。

・添付書類、登録免許税、管轄法務局

添付資料は①で挙げたものから遺産分割協議書(または調停調書、審判書)と印鑑登録証明書を除いたものです。

登録免許税、管轄法務局は①と同じです。

③共同相続登記後の遺産分割に基づく登記

・意義

②の登記をした後で遺産分割が成立したことによって不動産を取得した場合の登記のことを指します。

・申請人

従来、不動産を取得した相続人と他の相続人が共同で「持分全部移転登記」を申請する必要があるとされていましたが、法改正により令和5年4月1日からは単独での「所有権更正登記」が可能になりました。

したがって、同日以降は、不動産を取得した相続人が単独で登記申請をすることができます。

・日付及び登記原因

登記原因の日付は遺産分割の成立日、登記原因は「遺産分割」となります。

・添付資料

ⅰ 登記原因証明情報

 遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書が必要になります。

 なお、調停や審判による分割の場合は、調停調書、審判書を提出しますが、その際は印鑑登録証明書の提出は不要です。

ⅱ 住所証明書

申請者の住民票を提出します。

ⅲ 委任状

司法書士等に登記申請を依頼する場合は、委任状が必要です。

・登録免許税

不動産の個数×1000円

・管轄法務局

管轄の法務局は①、②と同じで不動産の所在地を管轄する法務局です。

④(相続人への)遺贈による登記

・申請者

従来、遺贈の場合については、受遺者と他の相続人との共同申請が必要とされていましたが、法改正により、令和5年4月1日以降は、相続人への登記の場合は受遺者による単独登記が可能になりました。

・日付及び登記原因

登記原因の日付は遺言者が死亡した日です。また、登記原因は「遺贈」となります。

・添付資料

ⅰ 登記原因証明情報

まず、遺言書が必要になります。

公正証書遺言や遺言書保管制度によって法務局で保管されていた遺言書を除いて、家庭裁判所での検認を経ているものでなければなりません。

また、死亡の事実の記載のある遺言者の戸籍謄本等及び受遺者の戸籍謄本等も登記原因証明情報として必要になります。

ⅱ住所証明書

受遺者の住民票の写しを提出します。

ⅲ 委任状

司法書士等に登記申請を依頼する場合は、委任状が必要です。

ⅳ その他

その他、不動産の固定資産税評価額がわかる資料と被相続人の本籍地の記載のある住民票の除票を添付するのが登記実務となっています。

不動産登記の義務化

令和6年4月1日から不動産登記の義務化制度がスタートしました。

これにより、相続によって不動産を取得した人は、相続開始があったことを知り、かつ、不動産を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転登記の申請をしなければならなくなりました。

正当な理由がないのに登記を怠った場合は10万円以下の過料に処せられます。

なお、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で登記申請ができない場合は、登記名義人について相続が開始した旨と自身がその相続人である旨を法務局に申し出ることによって、登記申請の義務を履行したものと扱われます(相続人申告登記制度)。

その後、遺産分割協議が成立した場合は、成立の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければなりません。

司法書士との連携態勢

不動産登記は司法書士の守備範囲であり、弁護士が登記手続きについて隅々まで知識を有しているわけではありません。

もっとも、遺産の中に不動産が含まれている場合、遺産分割や遺言書の作成をするにあたっては、常にその後の登記手続きのことも視野に入れておく必要があります。

そこで、登記のことも踏まえながら遺産分割や遺言書の作成を適切に行うためには、弁護士と司法書士の協力関係が必須です。

名古屋H&Y法律事務所では登記の専門家である司法書士をご紹介させていただくとともに、司法書士との密な連携体制に基づくリーガルサービスを提供させていただきます。

遺産相続や遺言書の作成のことでお困りの際はぜひお気軽にお声がけください。

相続税ってどうやって計算するの?申告はどうすればいい?

2024-04-12
  • 親の遺産を相続することになったけど、相続税がどれくらいになるのか不安
  • 相続税の申告はいつまでにどうやってするの?
  • 遺産分割が申告期限に間に合わない場合はどうすればいいの?

親族の遺産を相続した場合につきまとってくる問題が相続税についてです。ここでは、相続税の基本的な計算方法について解説していきたいと思います。

相続税の計算手順

相続税を計算する際の手順は以下のとおりです。

 ① 各相続人の「課税価格」(課税対象となる財産の価格)と呼ばれる金額を計算し、これを合計する

 ② ①で求めた合計額から基礎控除額を控除して課税遺産総額を計算する

 ③ ②で求めた課税遺産総額を各相続人が法定相続分で取得したと仮定した場合の取得額(仮の取得額)を計算する

 ④ ③で求めた各相続人の仮の取得額に対する税額を計算し、これを合計する

 ⑤ ④で求めた合計額を、各相続人が実際に取得した遺産の額で按分して、各相続人の税額を計算する

 ⑥ ⑤で求めた税額に加算や控除がある場合は、これを行なって最終的な税額を計算する。

と、これだけいわれてもなかなか難しいかと思いますので、以下で順番に解説していきます。

「課税価格」の計算方法(①)

課税価格は、以下の計算式によって計算します。

 (ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産 

+(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)

―(ⅲ)非課税財産

+(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産

―(ⅴ)相続債務及び葬儀費用

+(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産

(ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産

(ⅰ)は、本来の相続財産のことであり、被相続人が死亡時に有していた経済的価値のある財産のことを指しています。

(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)

(ⅱ)についてですが、みなし相続財産の主なものとしては以下の二つがあります。

 ア 被相続人の死亡により受け取った死亡保険金のうち、被相続人が保険料を負担していた部分の金額。

 イ 被相続人の死亡により遺族等が受け取った死亡退職金

本来、死亡保険金や死亡退職金は相続財産に含まれないのですが、相続税の関係では、相続財産とみなして計算することになります。

ちなみに、アの金額は以下の計算式によって計算します。

  死亡保険金額 × (被相続人が負担した保険料 ÷ 被相続人が死亡するまでに支払われた保険料総額)

また、相続人が受け取ったア、イの金額のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額までは非課税となります。

もっとも、法定相続人の数え方に関して、養子がいる場合や相続放棄がされている場合は注意が必要です。すなわち、養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとし、相続放棄があった場合は、放棄がなかったものとした場合の相続人の数となります。

(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産

(ⅳ)の相続時清算課税制度とは、原則として60歳以上の親または祖父母から、贈与の年の1月1日において18歳(令和4年3月31日以前の贈与については20歳)以上の子または孫に贈与する場合の課税関係について、贈与税として支払うか相続開始時の相続税として精算するかを選べる制度です。

贈与税を選択した場合は、通常どおりに贈与税を申告納税しなければなりません。

他方、相続時の精算を選択した場合、贈与税は課されず、相続開始時に相続財産として相続税が課されることになります(ただし、相続時清算課税を選択できる贈与は総額で2500万円までであり、これを超えると一律20%の贈与税が課されることになります)。

相続税は基礎控除の額が大きく、税率も贈与税より低くなっているので、節税効果を期待して相続時清算課税を選択する人も多いです。

生前贈与された財産について相続時清算課税制度を選んだ場合は、その財産の価額が相続財産に加算されることになります。

(ⅴ)相続債務及び葬儀費用

(ⅴ)の相続債務は、相続開始時点において存在し、履行が確実に義務付けられているものに限ります。

例えば、保証債務などは、履行が確実とはいえないので相続財産から控除することができません。

相続債務として控除できるのは、借入金や未払いの医療費、固定資産税、準確定申告により相続人が納付すべき被相続人の所得税などが含まれます。

(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産

相続などにより財産を取得した人が被相続人から相続開始前3年以内に生前贈与を受けた財産がある場合、その財産の価格についても、相続税の課税価格に加算されます。

なお、その生前贈与についてすでに贈与税を支払済みである場合、支払済みの贈与税額が相続税から控除されますが、控除しきれない金額がある場合も還付を受けることはできません。

課税遺産総額の計算方法(②)

2で求めた「課税価格」から基礎控除額を控除して課税遺産総額を求めます。

基礎控除額は、以下の計算式により、計算できます。

  基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)

この計算式を見て「被相続人が生前に養子縁組の届出をたくさんしておけば、基礎控除の額が上がって相続税を減らせるのでは?なんなら相続税をゼロにすることもできちゃうのでは?」という悪知恵が働く人もいるかもしれません(現に私も最初はそう考えました)。

しかし、その辺は国も抜かりがなく、法定相続人の数に算入できる養子の数は相続税法15条で制限されています。

すなわち、(先ほども少し触れましたが)養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしか法定相続人にカウントすることができなくなっています。

例えば、相続人に妻W、実子A、実子B、養子C、養子Dがいたとして、Wが1億円、Aが8000万円、Bが4000万円、Cが3000万円、Dが6000万円の遺産を取得したとします。

基礎控除額を計算するに当たっては、実子がいるので養子は一人分までしか法定相続人の数にカウントできません。

したがって、基礎控除額は、

   3000万円+(600万円×4)=5400万円となります。

他方、遺産総額は3億1000万円なので、課税遺産総額は

   3億1000万円 ― 5400万円 = 2億5600万円となります。

仮の取得額の計算方法(③)

 3で求めた課税遺産総額に各相続人の法定相続分割合をかけて仮の取得額を計算します。

 先程の例で計算すると以下のようになります。

 W   : 2億5600万円×1/2 = 1億2800万円

 A〜D : 2億5600万円×1/8 =    3200万円ずつ

相続税の合計額の計算方法(④)

4で求めた仮の取得額に以下の税率と控除額を当てはめて相続税の金額を計算し、それを合計します。

法定相続分に応ずる取得金額税率控除額
1000万円以下10%
1000万円超〜3000万円以下15%50万円
3000万円超〜5000万円以下20%200万円
5000万円超〜1億円以下30%700万円
1億円超〜2億円以下40%1700万円
2億円超〜3億円以下45%2700万円
3億円超〜6億円以下50%4200万円
6億円超55%7200万円

先程の例で計算すると以下のようになります。

 W    : 1億2800万円 × 30% ー 1700万円 = 2140万円

 A〜D : 3200万円 ×20% ー 200万円 = 440万円ずつ

 したがって、税額の合計は2140万円×(440万円×4)=3900万円

各相続人の税額の計算

5で税額の総額を求めることができたので、これを各相続人の実際の遺産の取得額に応じて按分していきます。

 W : 3900万円×(1億円/3億1000万円)=1258万0645円

 A : 3900万円×(8000万円/3億1000万円)=1006万4516円

 B : 3900万円×(4000万円/3億1000万円)=503万2258円

 C : 3900万円×(3000万円/3億1000万円)=377万4193円

 D : 3900万円×(6000万円/3億1000万円)=754万8387円

加算、控除による最終的な税額の確定

6で求めた税額に対して、加算や控除がある場合は、その処理をして最終的な税額を計算します。

例えば、配偶者であれば配偶者控除を受けることができます。配偶者控除の上限額は1億6000万円までですが、1億6000万円を超えても法定相続分までであれば、控除されます。

したがって、上の例でいえば、Wの取得額は1億円であり、控除の上限を下回っているので全額が税額控除されることになります。

その結果、Wの相続税額は0円になります。

また、例えば、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の相続人の場合、相続税額が2割加算されることになります。

養子も一親等の親族に該当するので、上の例では全員が配偶者か一親等内の親族ということになり、この2割加算の該当者はいないということになります(ただし、二親等以上離れた親族を養子にした場合(例えば孫養子の場合など)は、この2割加算の対象となります)。

相続税の申告はどうすればいいの?

相続税の基本的な計算方法は以上のとおりです。

これを踏まえて、次は相続税の申告について解説していきたいと思います。

相続税の申告をしないといけないのはどんなとき?

相続等により取得した財産の価格(課税価格)の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告・納税をしなければなりません。

未成年控除等の適用を受けて納付すべき相続税額が0円となる場合は申告不要ですが、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用を受けるためには、申告することが条件となるので、相続税額が0円でも申告が必要です。

なお、同じ被相続人の相続税の申告については、共同相続人の連名で申告書を提出することも可能です。

告の期限は?期限までに遺産分割が間に合わない場合はどうすればいい?

申告の期限は、相続開始(被相続人の死亡)を知った日から10か月以内です(この期限の最終日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合は、これらの日の翌日が期限の最終日となります)。

この期限内に申告をしないと無申告加算税を課されることになってしまうので、申告が必要な方は必ず申告するようにしましょう。

なお、期限が10か月と比較的短く設定されていることから、期限までに遺産分割協議が終わらないというケースも往々にしてありうるところです。

そのような場合は、一旦、各相続人が法定相続分に従って遺産を相続したと仮定して、期限内に申告(未分割申告)をしておき、遺産分割が終わった後であらためて修正申告または更正の請求を行います。

また、未分割申告の場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けることができません。

しかし、未分割申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を提出しておくことで、遺産分割後の修正申告や更正請求の際にこれらの特例の適用を受けることが可能になります。

申告書の提出先は?

申告書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。

相続税の納付方法は?

相続税の納付は現金一括で行うのが原則です。

もっとも、遺産のほとんどが不動産である場合など、金銭による納付が困難であることも考えられます。

そのような場合は、延納(分割払い)や物納(現物による納付)を検討することになります。

延納や物納を希望する場合は、申告書の提出期限までに税務署に申請書類等を提出して、税務署長の許可を受ける必要があります。

遺産分割と相続税

相続税は税理士の守備範囲であり、弁護士が相続税について隅々まで知識を有しているわけではありません。

もっとも、遺産分割は相続税の問題と切っても切り離せないものであり、遺産分割を進めていくにあたっては、相続税のことも常に視野に入れておく必要があります。

そこで、税金のことも踏まえながら遺産分割を適切に進めていくためには、弁護士と税理士の協力関係が必須です。

名古屋H&Y法律事務所では、相続税に強い税理士をご紹介することが可能であり、税理士との密な協力関係に基づくリーガルサービスを提供させていただきます。

遺産相続のことでお困りの際はぜひお気軽にお声がけください。

相続放棄の流れと放棄後の注意点

2024-04-10
  • 家族の借金を相続することになってしまった!相続放棄ってできるの?
  • 相続放棄をしたいけど、手続きの仕方がわからない
  • 相続放棄をするとどうなるの?
  • 相続人が全員相続放棄をした場合はどうなるの?

遺産相続の場面において、遺産の中に多額の借金が含まれており、それが預貯金や不動産といったプラスの遺産を上回っているということは実際によくあることです。

そのような場合に相続人が借金の返済義務を免れるための方法として、相続放棄というものがあります。

ここでは、相続放棄をするための条件や相続放棄の手続きについて解説したあとで、相続放棄をした後に注意しなければならないことついても併せて説明していきたいと思います。

そもそも相続放棄とは?

相続放棄とは、文字どおり遺産の相続を放棄することです。

もう少し詳しくいうと、本来、被相続人の遺産を相続する地位にあった相続人が、相続人としての地位そのものを放棄し、一切の遺産を受け継がないことを意味します。

相続放棄をした場合、その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。

「初めから」というのは、相続開始の当初から、すなわち被相続人が亡くなった時点からということです。

したがって、相続放棄をした人は、「被相続人が亡くなったときから相続人ではなかった」と扱われることになるわけですから、当然、被相続人の遺産を引き継ぐことはありません。

その結果、被相続人の借金や負債を背負う必要は一切なくなります。

他方で、被相続人に不動産や預貯金などのプラスの財産があった場合も、それらを引き継ぐことはできなくなります。

なお、「初めから」相続人ではなかったとみなされるため、放棄者に子がいる場合でも代襲相続されることはありません。この点は後で詳しく説明します。

「相続分放棄」との違いは?

相続放棄と似た言葉に「相続分放棄」というものがあります。

これは、相続人としての地位そのもの放棄するのではなく、相続人が持っている相続分のみを放棄するということです。

例えば、遺産分割がまだ終わっていない段階で、ある相続人が遺産全体の3分の1の相続分を持っているとした場合、その3分の1の相続分を放棄するということです。

後述するように、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要になりますが、相続分放棄は他の相続人に意思表示をするだけでOKです。

「だったら相続放棄なんて面倒なことをせずに、相続分放棄でいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、相続分放棄をしても基本的には相続債務を免れることができません。

すなわち、相続分放棄というのは基本的にはプラスの財産のみについての放棄であり、マイナスの財産も合わせて放棄するということはできないものと考えていただいて差し支えありません(ただし、債権者が同意した場合は別です)。

 ですので、被相続人の借金を相続したくないという人は「相続分放棄」ではなく「相続放棄」をすべきでしょう。

相続放棄が可能な条件は?

残念ながら、相続放棄はいつでもどのような場合でもできるというわけではありません。

相続放棄をするためには以下の条件を満たしている必要があります。

 ⑴自己のために相続が開始されたことを知ってから3か月以内であること

 ⑵単純承認限定承認をしていないこと

以下で、順番に解説していきたいと思います。

⑴自己のために相続が開始されたことを知ってから3か月以内であること(熟慮期間)

熟慮期間の起算点

まず、⑴ですが、この3か月の期間制限のことを熟慮期間などといいます文字どおり、相続放棄をするか否か熟慮するための期間ということです。

そして、この熟慮期間は「自己のために相続が開始されたこと知った」ときからカウントされます。

「自己のために相続が開始されたこと知った」というのは、①被相続人が死亡したことと、②その被相続人と自分が相続関係にあることのいずれをも知った場合のことを意味します。

ですので、被相続人がすでに死亡していたとしても、その人と疎遠であるなどして、死亡の事実(①)を知らなければ、何年経っても熟慮期間はスタートしません。

また、被相続人と自分が相続関係にあること(②)も知っている必要があります。

したがって、死亡した被相続人と自分が親族関係にあることを知らなかったような場合や、先順位の相続人が全員相続放棄をして自分が相続人になったものの、その事実を知らなかったような場合もその間は熟慮期間がスタートしません。

熟慮期間の延長

なお、この熟慮期間については、裁判所に請求することで延長してもらえることがあります(民法915条1項ただし書)。財産が多くて調査に時間がかかるような場合であれば基本的には延長が認められることが多いでしょう。

とはいっても、絶対に延長が認められるわけではありませんので、相続放棄の準備は早めにしておくに越したことはありません。

なお、延長の請求は熟慮期間内にする必要があるので、熟慮期間が経過してしまった場合は延長の請求をしても却下されます。

⑵単純承認や限定承認をしていないこと

次に、相続放棄の条件⑵「単純承認や限定承認をしていないこと」についてです。

単純承認とは?

単純承認というのは、無条件で相続を承認することです。

一度単純承認をしてしまうと、それ以降相続放棄をすることはできません。

ここでいう「承認」というのは「認める」ということです。

ですので、「自分が相続することを認めます」と他の相続人などに表明した場合、これは当然単純承認にあたります。

しかし、実際にはそのよう形で単純承認が認められるパターンは実務上ほとんどありません。

実務において問題になるのは、ほとんどが法定単純承認といわれるものです。

法定単純承認とは、一定の場合に単純承認をしたとみなす制度

法定単純承認とは何かというと、民法では「こういうことをしたら、単純承認をしたとみなしますよ」という事柄がいくつか定められており、それに該当する行為をした場合に単純承認とみなされて相続放棄ができなくなってしまうという制度のことです。

では、どのようなことをすれば法定単純承認に該当してしまうのかというと、民法では以下のような事由が挙げられています。

⑴相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。

⑵相続人が、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私(ひそか)にこれを消費したとき。

このように「処分」「隠匿」「私に消費」が法定単純承認事由として挙げられています。

以下で順番に見ていきましょう。

「処分」にあたるのはどんな場合?

処分というのは、遺産を売却したり贈与したりする法律上の処分行為に加えて、遺産に属する物を破損したり破棄したり、その状態に変更を加えるといった事実上の処分行為も含みます。

もっとも、形式上は処分行為に該当する行為であったとしても、損傷箇所を修繕するなど財産の現状を維持するための行為(保存行為)であれば、「処分」に当たらないとされています。

具体例としては、遺産である不動産を第三者に売却したり、不動産に抵当権を設定する行為は「処分」にあたるでしょう。

預貯金を引き出す行為も「処分」にあたり得ます。

また、遺産である建物を取り壊す行為も、特段の事情がない限りは「処分」にあたるでしょう。

以上に対して、遺産である建物が雨漏りをしているので、これを修繕したような場合であれば「保存行為」として「処分」にはあたりません。

葬儀費用や埋葬費用などを被相続人の預貯金から支払った場合でも相続放棄はできる?

ここで問題になってくるのは、例えば被相続人の預貯金を引き出して葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用などを支払った場合、これが「処分」にあたるのかという点です。

これについては、裁判例(大阪高裁平成14年7月3日)があり、葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用は、社会的な必要性が高く、不相当に高額といえない限りは「処分」にあたらないと判断されています。

したがって、被相続人の預貯金から葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用を支出したとしても、それが不相当に高額といえない限りは、依然として相続放棄をすることができるということになります。

「隠匿」にあたるのはどんな場合?

隠匿とは、文字どおり隠すことです。積極的に隠す場合だけではなく、遺産の存在を知りながらこれを告げないことも含まれます。

例えば、被相続人の預金通帳を発見したのに、これを他の相続人に告げずに独り占めしたような場合は「隠匿」にあたると考えられます。

「私に消費」にあたるのはどんな場合?

「私(ひそか)に」というのは、「私的に」くらいに意味合いだと考えていただければ大丈夫です。特に重要な意味を持つ文言ではありません。

消費というのも、文字どおりであり、相続財産を使ってなくすことです。「処分」にあたる行為は多くが「消費」にもあたると思われます。

限定承認とは?

限定承認をした場合も、相続放棄はできなくなります。

限定承認とは、プラスの相続財産の限度でマイナスの相続財産(債務、遺贈)を弁済するという条件付きで相続の承認をすることです。

限定承認をすれば、プラスの財産以上にマイナスの財産があったとしても、プラスの財産の範囲でだけそれを弁済すればよいということになります。

このように聞くと「お、限定承認いいじゃないか」と思われるかもしれませんが、限定承認は共同相続人全員でしなければならなかったり、財産目録の作成や相続債権者への配当(清算手続)を決められた期間内(それも極めて短期間)に行わなければならないなど、非常に手続きが煩雑で使い勝手の悪い制度です。

実際、限定承認がされることは実務上ほとんどありません。

ひとまずは「限定承認をした場合も相続放棄はできなくなる」ということだけ抑えていただければ十分かと思いますので、ここでは限定承認についての詳細な解説は割愛させていただきます。

相続放棄の手続きはどうすればよいか?

以上で述べてきたとおり、自己のために相続が開始したことを知ってから3か月以内であり、かつ、単純承認(法定単純承認を含む)も限定承認もしてない場合は、相続放棄をすることが可能です。

それでは、相続放棄をするためにはどのような手続きが必要でしょうか?

相続放棄の申述書と添付書類の提出

相続放棄をするためには、家庭裁判所で「放棄の申述」をする必要があります。

「申述」といっても、裁判所に行って裁判官の前で何か言わないといけないというわけではなく、基本的には相続放棄申述書という書面に必要書類を添付して管轄の裁判所に提出するだけです。

相続放棄申述書の書式は以下の裁判所のページからダウンロードすることができますし、各家庭裁判所に紙ベースの雛形が備え付けられているので、そちらで入手することも可能です。

相続放棄申述書の書式

また、申述書に添付する書類は、被相続人の住民票の除票、被相続人の死亡の記載のある戸籍・除籍謄本、申述人の現在の戸籍謄本などですが、被相続人との関係により必要な書類が区々に分かれています。

以下の裁判所のページにまとめられていますのでそちらをご参照ください。

相続放棄の必要書類

相続放棄の申述書はどこの裁判所に出すの?

相続放棄申述書を提出すべき裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所です。

例えば、最後の住所地が愛知県名古屋市であれば名古屋家庭裁判所の本庁が管轄裁判所になりますし、愛知県大府市であれば名古屋家庭裁判所半田支部、三重県伊賀市であれば津家庭裁判所伊賀支部、岐阜県関市であれば岐阜家庭裁判所本庁が管轄裁判所になります。

管轄区域については、各家庭裁判所のホームページに掲載されておりますので、そちらをご参照ください。

東海3県については、以下にリンクを掲載しておきます。

なお、最後の住所地は、被相続人の住民票の除票を取得することで調べることができます。

相続放棄申述書を提出した後の流れは?

相続放棄の申述書を提出した後は、基本的に待つだけです。

被相続人が亡くなってから3か月以内に申述書を提出した場合であれば、特に何もなく申述が受理されて手続きが終了することが多いです。

もっとも、申述者の年齢や申述した時期、相続財産の状況、申述者と被相続人との関係性などの事情によっては、家庭裁判所から「相続放棄照会書」という書面が届き、相続放棄をするに至った経緯や理由などを尋ねられることもあります。相続放棄照会書が届いた場合は、添付の回答書に照会事項を記入して返送する必要があります。

その後、家庭裁判所において特に問題なく相続放棄の申述書を受理した場合は、「相続放棄申述受理通知書」が郵送されてきますので、これをもって相続放棄の手続きは全て完了したことになります。

相続放棄をするとどうなるのか?

先程も説明したとおり、相続放棄をすると「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。

その結果、プラスの財産もマイナスの財産も被相続人から引き継ぐことはありません。この点も先程すでにご説明差し上げたとおりです。

また、一部の相続人のみが相続放棄をした場合、他の相続人の相続分がどうなるかというと、初めから放棄をした相続人がいなかったものとして(つまり初めから他の相続人のみであったとして)考えることになります。

例えば、妻Wと子A、Bが相続人になっている場合、本来であればそれぞれの相続分はWが1/2、A、Bが1/4ずつになります。

ここでAのみが相続放棄をしたとすると、W、Bの相続分については、初めからW、Bのみが相続人であったものとして考えることになるので、Wが1/2、Bも1/2となります。

なお、相続放棄の場合、放棄をした人に子などの直系卑属がいた場合でも代襲相続はされません。

先ほどの事例でAに子Cがいたとしても、Aが相続放棄をすることで代わりにCが相続人になるということはありません。

さらに、同順位の相続人全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人が相続することになります。

例えば、Xには子A、B、Cと両親D、E、兄弟姉妹F、Gがいたとします。

ここでA、B、Cが全員相続放棄をしたとすると、今度はD、Eが相続人になります。そして、D、Eも相続放棄をしたとするとF、Gが相続人となります。

では「F、Gも相続放棄をしてしまったらどうなるんだ?」というのは当然の疑問ですよね。それについては、次の項目で解説します。

全員が相続放棄をするとどうなるの?

相続人となるべき人が全員相続放棄をしてしまった場合、相続人がいない(不存在)ということになります。

相続人不存在の場合にどうなるかという点については民法に規定があり、以下のように進んでいくことになります。

① 利害関係人が相続財産清算人の選任を申立てる

→相続放棄をした者は利害関係人として相続財産清算人の選任を家庭裁判所に請求することができます。

他に選任請求が可能なのは、相続債権者、相続債務者、受遺者、特別縁故者として遺産の分与を申し立てる者、所在不明土地につき国の行政機関の長などが考えられるところです。

② 家庭裁判所が相続財産清算人を選任する

→請求を受けた家庭裁判所は、弁護士などの中から相続財産清算人を選任します。

③ 家庭裁判所が相続財産清算人選任と相続人捜索の広告をする

→相続財産清算人を選任した家庭裁判所は、その旨と相続人がいるならば一定期間内(6か月以上)にその権利を主張すべき旨を広告します。この期間内に誰も相続人が名乗り出なければ、相続人の不存在が確定します。

④ 相続財産清算人が相続債権者や受遺者に請求申出を促す広告をする

→③の広告があった場合、相続財産清算人は、すべての相続剤権者と受遺者に対して、2か月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申し出をすべき旨の広告をしなければなりません。また、既に判明している相続債権者と受遺者に対しては、個別の債権の申し出をするよう催告しなければなりません。

⑤ 相続財産の清算

→相続財産清算人は期限内に申し出たか、既に判明している相続債権者及び受遺者に対して弁済の配当をします。

⑥ 国庫への帰属or特別縁故者への分与

→⑤の生産後にプラスの財産が残っている場合、その財産は国庫に帰属することになります。

もっとも、被相続人の内縁の配偶者や被相続人の介護に務めた人など、被相続人と「特別の縁故」を有する人(特別縁故者)が遺産の分与を請求した場合、家庭裁判所は相続財産の全部または一部を与えることができます。

特別縁故者に財産を与えるか否か、与えるとして何をどれだけ与えるかは家庭裁判所の裁量によって判断されます。

「相続放棄をしたからあとは知らない」はダメ?放棄者の財産管理義務

くどいようですが、相続放棄をした場合、「初めから相続人でなかった」ものとみなされます。

「ということは、放棄をした後で相続財産の管理なんかする必要もないのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。

民法には次のような規定があります。

904条1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

つまり、相続放棄をした時点で相続財産を占有している人は、放棄後の新しい相続人か相続財産清算人に財産を引き渡すまでは、その財産を管理しなければなりません。

ただし、管理の程度は「自己の財産におけるのと同一の注意」ですので、要は自分の財産と同じように管理すれば良いということになります(とはいっても、無闇に破損したりすると管理責任を問われるので注意しましょう)。

なお、管理義務を負っているのは、相続放棄の時点で財産を占有している人だけですので、そうでない場合に管理義務は発生しません。

例えば、相続放棄をした時点で相続財産である不動産に居住している人はその不動産について管理義務を負うことになりますが、別の離れたところにある不動産の居住しているのであれば管理義務を負うことはないといえるでしょう。

keyboard_arrow_up

0522537288 問い合わせバナー 法律相談について