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不動産を相続した場合の登記ってどうすればいいの?―相続登記について弁護士がわかりやすく解説します
そもそも「登記」って何?
不動産の「登記」とは、不動産の状況や権利関係を公に示すために、公的な帳簿である不動産登記簿にそれらの情報を記録し、公開する制度のことです。
よく不動産の「名義」という言葉をお聞きになることがあるかと思いますが、そこでいう「名義」とはこの登記の名義のことを指しています。
不動産登記簿は法務局で調整、管理されており、全国の不動産に関する情報を誰でも見ることが可能です。
登記がなぜ必要か?
なぜ不動産を登記する必要があるかというと、登記をしておかないと不動産に対する権利を第三者に対抗することができないからです。
どういうことかというと、例えばAさんがBさんから甲不動産を購入したとします。しかし、Aさんは甲不動産の所有権取得について登記をしていませんでした。
そうしたところ、Bさんが別のCさんに甲不動産を売ってしまい(二重売買)、Cさんは甲不動産の所有権取得を登記しました。
この場合、Aさんは最初に甲不動産を購入し、Bさんに購入代金を支払っているにもかかわらず、甲不動産の所有権を取得できず、甲不動産はCさんのものとなってしまうのです。
このように不動産に対する権利を保全するためには登記をしなければならず、これをしておかないと、知らぬ間に自分の権利を失ってしまうおそれがあるのです。
そして、これは遺産分割によって不動産を取得した場合も同様です。
後述するように昨今になって相続登記は義務化されていますが、それは別にしても不動産を相続によって取得した場合は必ず登記をするようにしましょう。
相続登記はどうすればいいの?
不動産登記は、登記申請書に必要書類を添付して法務局に提出することで行います。
もっとも、相続登記は、①遺産分割による相続登記、②法定相続分による共同相続登記、③共同相続登記後の遺産分割に基づく登記、④(相続人への)遺贈による登記などのパターンが考えられ、そのいずれであるかよって申請書の記載事項や必要書類などが異なります。
以下でそれぞれのパターンごとに解説していきたいと思います。
①遺産分割による相続登記
・申請人
通常、相続登記は登記権利者(権利を取得した人)と登記義務者(権利を譲渡した人)の共同で申請しなければなりません。
例えば、不動産の売買だと、売主と買主が共同で申請する必要があります。
しかし、遺産分割による相続登記の場合は、不動産を取得した相続人が単独で所有権移転登記を申請することができます(不動産登記法63条2項)。
・日付及び登記原因
登記申請書には登記原因(登記をする理由となった法的な原因)とその日付を記載しなければなりません。
遺産分割によって不動産を取得した場合、相続開始時に遡って不動産を取得するとみなされるため(民法909条)、申請書に記載する登記原因日付は相続開始日になります。
また、登記原因は「相続」です。
・登録免許税
固定資産税評価額の0.4%
・管轄法務局
不動産の所在地を管轄する法務局に申請書を提出しなければなりません。
・添付書類
ⅰ 登記原因証明情報
不動産登記の申請をする際は、登記原因の存在を証明する資料を添付資料として提出しなければなりません。
遺産分割による相続登記の場合は、被相続人との相続関係を示すために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本等と相続人の現在の戸籍謄本が必要になります。
なお、法務局で承認を受けた法定相続情報一覧図を戸籍一式に代えることも可能です。
以上に加えて、遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書も登記原因証明情報として提出する必要があります。
なお、調停や審判による分割の場合は、調停調書や審判書を提出しなければなりませんが、この場合は、戸籍一式や相続人の印鑑登録証明書は基本的に不要となります。
ⅱ 住所証明書
不動産取得者である相続人の住民票を提出します。
ⅲ 委任状
司法書士等に登記申請を委任した場合は、委任状を添付しなければなりません。
ⅳ その他
その他、不動産の固定資産税評価額がわかる資料と被相続人の本籍地の記載のある住民票の除票を添付するのが登記実務となっています。
前者は登録免許税の計算をするため、後者は被相続人と登記名義人の同一性を確認するために必要であるといわれています。
②法定相続分による共同相続登記
・申請人
被相続人の死亡により相続は開始したものの遺産分割はまだ成立していないという段階において、不動産を含む遺産は相続人たちが法定相続分に応じて共有していることになります。
この共有状態について登記するのが「法定相続分による共同相続登記」です。
この登記は各相続人が単独で申請することが可能です。
・日付及び登記原因
登記原因の日付は相続開始日、登記原因は「相続」となります。
・添付書類、登録免許税、管轄法務局
添付資料は①で挙げたものから遺産分割協議書(または調停調書、審判書)と印鑑登録証明書を除いたものです。
登録免許税、管轄法務局は①と同じです。
③共同相続登記後の遺産分割に基づく登記
・意義
②の登記をした後で遺産分割が成立したことによって不動産を取得した場合の登記のことを指します。
・申請人
従来、不動産を取得した相続人と他の相続人が共同で「持分全部移転登記」を申請する必要があるとされていましたが、法改正により令和5年4月1日からは単独での「所有権更正登記」が可能になりました。
したがって、同日以降は、不動産を取得した相続人が単独で登記申請をすることができます。
・日付及び登記原因
登記原因の日付は遺産分割の成立日、登記原因は「遺産分割」となります。
・添付資料
ⅰ 登記原因証明情報
遺産分割協議書と相続人全員の印鑑登録証明書が必要になります。
なお、調停や審判による分割の場合は、調停調書、審判書を提出しますが、その際は印鑑登録証明書の提出は不要です。
ⅱ 住所証明書
申請者の住民票を提出します。
ⅲ 委任状
司法書士等に登記申請を依頼する場合は、委任状が必要です。
・登録免許税
不動産の個数×1000円
・管轄法務局
管轄の法務局は①、②と同じで不動産の所在地を管轄する法務局です。
④(相続人への)遺贈による登記
・申請者
従来、遺贈の場合については、受遺者と他の相続人との共同申請が必要とされていましたが、法改正により、令和5年4月1日以降は、相続人への登記の場合は受遺者による単独登記が可能になりました。
・日付及び登記原因
登記原因の日付は遺言者が死亡した日です。また、登記原因は「遺贈」となります。
・添付資料
ⅰ 登記原因証明情報
まず、遺言書が必要になります。
公正証書遺言や遺言書保管制度によって法務局で保管されていた遺言書を除いて、家庭裁判所での検認を経ているものでなければなりません。
また、死亡の事実の記載のある遺言者の戸籍謄本等及び受遺者の戸籍謄本等も登記原因証明情報として必要になります。
ⅱ住所証明書
受遺者の住民票の写しを提出します。
ⅲ 委任状
司法書士等に登記申請を依頼する場合は、委任状が必要です。
ⅳ その他
その他、不動産の固定資産税評価額がわかる資料と被相続人の本籍地の記載のある住民票の除票を添付するのが登記実務となっています。
不動産登記の義務化
令和6年4月1日から不動産登記の義務化制度がスタートしました。
これにより、相続によって不動産を取得した人は、相続開始があったことを知り、かつ、不動産を取得したことを知った日から3年以内に所有権移転登記の申請をしなければならなくなりました。
正当な理由がないのに登記を怠った場合は10万円以下の過料に処せられます。
なお、遺産分割協議がまとまらないなどの理由で登記申請ができない場合は、登記名義人について相続が開始した旨と自身がその相続人である旨を法務局に申し出ることによって、登記申請の義務を履行したものと扱われます(相続人申告登記制度)。
その後、遺産分割協議が成立した場合は、成立の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければなりません。
司法書士との連携態勢
不動産登記は司法書士の守備範囲であり、弁護士が登記手続きについて隅々まで知識を有しているわけではありません。
もっとも、遺産の中に不動産が含まれている場合、遺産分割や遺言書の作成をするにあたっては、常にその後の登記手続きのことも視野に入れておく必要があります。
そこで、登記のことも踏まえながら遺産分割や遺言書の作成を適切に行うためには、弁護士と司法書士の協力関係が必須です。
名古屋H&Y法律事務所では登記の専門家である司法書士をご紹介させていただくとともに、司法書士との密な連携体制に基づくリーガルサービスを提供させていただきます。
遺産相続や遺言書の作成のことでお困りの際はぜひお気軽にお声がけください。
相続税ってどうやって計算するの?申告はどうすればいい?
- 親の遺産を相続することになったけど、相続税がどれくらいになるのか不安
- 相続税の申告はいつまでにどうやってするの?
- 遺産分割が申告期限に間に合わない場合はどうすればいいの?
親族の遺産を相続した場合につきまとってくる問題が相続税についてです。ここでは、相続税の基本的な計算方法について解説していきたいと思います。
相続税の計算手順
相続税を計算する際の手順は以下のとおりです。
① 各相続人の「課税価格」(課税対象となる財産の価格)と呼ばれる金額を計算し、これを合計する
② ①で求めた合計額から基礎控除額を控除して課税遺産総額を計算する
③ ②で求めた課税遺産総額を各相続人が法定相続分で取得したと仮定した場合の取得額(仮の取得額)を計算する
④ ③で求めた各相続人の仮の取得額に対する税額を計算し、これを合計する
⑤ ④で求めた合計額を、各相続人が実際に取得した遺産の額で按分して、各相続人の税額を計算する
⑥ ⑤で求めた税額に加算や控除がある場合は、これを行なって最終的な税額を計算する。
と、これだけいわれてもなかなか難しいかと思いますので、以下で順番に解説していきます。
「課税価格」の計算方法(①)
課税価格は、以下の計算式によって計算します。
(ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産
+(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)
―(ⅲ)非課税財産
+(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産
―(ⅴ)相続債務及び葬儀費用
+(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産
(ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産
(ⅰ)は、本来の相続財産のことであり、被相続人が死亡時に有していた経済的価値のある財産のことを指しています。
(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)
(ⅱ)についてですが、みなし相続財産の主なものとしては以下の二つがあります。
ア 被相続人の死亡により受け取った死亡保険金のうち、被相続人が保険料を負担していた部分の金額。
イ 被相続人の死亡により遺族等が受け取った死亡退職金
本来、死亡保険金や死亡退職金は相続財産に含まれないのですが、相続税の関係では、相続財産とみなして計算することになります。
ちなみに、アの金額は以下の計算式によって計算します。
死亡保険金額 × (被相続人が負担した保険料 ÷ 被相続人が死亡するまでに支払われた保険料総額)
また、相続人が受け取ったア、イの金額のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額までは非課税となります。
もっとも、法定相続人の数え方に関して、養子がいる場合や相続放棄がされている場合は注意が必要です。すなわち、養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとし、相続放棄があった場合は、放棄がなかったものとした場合の相続人の数となります。
(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産
(ⅳ)の相続時清算課税制度とは、原則として60歳以上の親または祖父母から、贈与の年の1月1日において18歳(令和4年3月31日以前の贈与については20歳)以上の子または孫に贈与する場合の課税関係について、贈与税として支払うか相続開始時の相続税として精算するかを選べる制度です。
贈与税を選択した場合は、通常どおりに贈与税を申告納税しなければなりません。
他方、相続時の精算を選択した場合、贈与税は課されず、相続開始時に相続財産として相続税が課されることになります(ただし、相続時清算課税を選択できる贈与は総額で2500万円までであり、これを超えると一律20%の贈与税が課されることになります)。
相続税は基礎控除の額が大きく、税率も贈与税より低くなっているので、節税効果を期待して相続時清算課税を選択する人も多いです。
生前贈与された財産について相続時清算課税制度を選んだ場合は、その財産の価額が相続財産に加算されることになります。
(ⅴ)相続債務及び葬儀費用
(ⅴ)の相続債務は、相続開始時点において存在し、履行が確実に義務付けられているものに限ります。
例えば、保証債務などは、履行が確実とはいえないので相続財産から控除することができません。
相続債務として控除できるのは、借入金や未払いの医療費、固定資産税、準確定申告により相続人が納付すべき被相続人の所得税などが含まれます。
(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産
相続などにより財産を取得した人が被相続人から相続開始前3年以内に生前贈与を受けた財産がある場合、その財産の価格についても、相続税の課税価格に加算されます。
なお、その生前贈与についてすでに贈与税を支払済みである場合、支払済みの贈与税額が相続税から控除されますが、控除しきれない金額がある場合も還付を受けることはできません。
課税遺産総額の計算方法(②)
2で求めた「課税価格」から基礎控除額を控除して課税遺産総額を求めます。
基礎控除額は、以下の計算式により、計算できます。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
この計算式を見て「被相続人が生前に養子縁組の届出をたくさんしておけば、基礎控除の額が上がって相続税を減らせるのでは?なんなら相続税をゼロにすることもできちゃうのでは?」という悪知恵が働く人もいるかもしれません(現に私も最初はそう考えました)。
しかし、その辺は国も抜かりがなく、法定相続人の数に算入できる養子の数は相続税法15条で制限されています。
すなわち、(先ほども少し触れましたが)養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしか法定相続人にカウントすることができなくなっています。
例えば、相続人に妻W、実子A、実子B、養子C、養子Dがいたとして、Wが1億円、Aが8000万円、Bが4000万円、Cが3000万円、Dが6000万円の遺産を取得したとします。
基礎控除額を計算するに当たっては、実子がいるので養子は一人分までしか法定相続人の数にカウントできません。
したがって、基礎控除額は、
3000万円+(600万円×4)=5400万円となります。
他方、遺産総額は3億1000万円なので、課税遺産総額は
3億1000万円 ― 5400万円 = 2億5600万円となります。
仮の取得額の計算方法(③)
3で求めた課税遺産総額に各相続人の法定相続分割合をかけて仮の取得額を計算します。
先程の例で計算すると以下のようになります。
W : 2億5600万円×1/2 = 1億2800万円
A〜D : 2億5600万円×1/8 = 3200万円ずつ
相続税の合計額の計算方法(④)
4で求めた仮の取得額に以下の税率と控除額を当てはめて相続税の金額を計算し、それを合計します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | ― |
1000万円超〜3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超〜5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超〜2億円以下 | 40% | 1700万円 |
2億円超〜3億円以下 | 45% | 2700万円 |
3億円超〜6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
先程の例で計算すると以下のようになります。
W : 1億2800万円 × 30% ー 1700万円 = 2140万円
A〜D : 3200万円 ×20% ー 200万円 = 440万円ずつ
したがって、税額の合計は2140万円×(440万円×4)=3900万円
各相続人の税額の計算
5で税額の総額を求めることができたので、これを各相続人の実際の遺産の取得額に応じて按分していきます。
W : 3900万円×(1億円/3億1000万円)=1258万0645円
A : 3900万円×(8000万円/3億1000万円)=1006万4516円
B : 3900万円×(4000万円/3億1000万円)=503万2258円
C : 3900万円×(3000万円/3億1000万円)=377万4193円
D : 3900万円×(6000万円/3億1000万円)=754万8387円
加算、控除による最終的な税額の確定
6で求めた税額に対して、加算や控除がある場合は、その処理をして最終的な税額を計算します。
例えば、配偶者であれば配偶者控除を受けることができます。配偶者控除の上限額は1億6000万円までですが、1億6000万円を超えても法定相続分までであれば、控除されます。
したがって、上の例でいえば、Wの取得額は1億円であり、控除の上限を下回っているので全額が税額控除されることになります。
その結果、Wの相続税額は0円になります。
また、例えば、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の相続人の場合、相続税額が2割加算されることになります。
養子も一親等の親族に該当するので、上の例では全員が配偶者か一親等内の親族ということになり、この2割加算の該当者はいないということになります(ただし、二親等以上離れた親族を養子にした場合(例えば孫養子の場合など)は、この2割加算の対象となります)。
相続税の申告はどうすればいいの?
相続税の基本的な計算方法は以上のとおりです。
これを踏まえて、次は相続税の申告について解説していきたいと思います。
相続税の申告をしないといけないのはどんなとき?
相続等により取得した財産の価格(課税価格)の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告・納税をしなければなりません。
未成年控除等の適用を受けて納付すべき相続税額が0円となる場合は申告不要ですが、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用を受けるためには、申告することが条件となるので、相続税額が0円でも申告が必要です。
なお、同じ被相続人の相続税の申告については、共同相続人の連名で申告書を提出することも可能です。
告の期限は?期限までに遺産分割が間に合わない場合はどうすればいい?
申告の期限は、相続開始(被相続人の死亡)を知った日から10か月以内です(この期限の最終日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合は、これらの日の翌日が期限の最終日となります)。
この期限内に申告をしないと無申告加算税を課されることになってしまうので、申告が必要な方は必ず申告するようにしましょう。
なお、期限が10か月と比較的短く設定されていることから、期限までに遺産分割協議が終わらないというケースも往々にしてありうるところです。
そのような場合は、一旦、各相続人が法定相続分に従って遺産を相続したと仮定して、期限内に申告(未分割申告)をしておき、遺産分割が終わった後であらためて修正申告または更正の請求を行います。
また、未分割申告の場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けることができません。
しかし、未分割申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を提出しておくことで、遺産分割後の修正申告や更正請求の際にこれらの特例の適用を受けることが可能になります。
申告書の提出先は?
申告書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
相続税の納付方法は?
相続税の納付は現金一括で行うのが原則です。
もっとも、遺産のほとんどが不動産である場合など、金銭による納付が困難であることも考えられます。
そのような場合は、延納(分割払い)や物納(現物による納付)を検討することになります。
延納や物納を希望する場合は、申告書の提出期限までに税務署に申請書類等を提出して、税務署長の許可を受ける必要があります。
遺産分割と相続税
相続税は税理士の守備範囲であり、弁護士が相続税について隅々まで知識を有しているわけではありません。
もっとも、遺産分割は相続税の問題と切っても切り離せないものであり、遺産分割を進めていくにあたっては、相続税のことも常に視野に入れておく必要があります。
そこで、税金のことも踏まえながら遺産分割を適切に進めていくためには、弁護士と税理士の協力関係が必須です。
名古屋H&Y法律事務所では、相続税に強い税理士をご紹介することが可能であり、税理士との密な協力関係に基づくリーガルサービスを提供させていただきます。
遺産相続のことでお困りの際はぜひお気軽にお声がけください。
相続放棄の流れと放棄後の注意点
- 家族の借金を相続することになってしまった!相続放棄ってできるの?
- 相続放棄をしたいけど、手続きの仕方がわからない
- 相続放棄をするとどうなるの?
- 相続人が全員相続放棄をした場合はどうなるの?
遺産相続の場面において、遺産の中に多額の借金が含まれており、それが預貯金や不動産といったプラスの遺産を上回っているということは実際によくあることです。
そのような場合に相続人が借金の返済義務を免れるための方法として、相続放棄というものがあります。
ここでは、相続放棄をするための条件や相続放棄の手続きについて解説したあとで、相続放棄をした後に注意しなければならないことついても併せて説明していきたいと思います。
そもそも相続放棄とは?
相続放棄とは、文字どおり遺産の相続を放棄することです。
もう少し詳しくいうと、本来、被相続人の遺産を相続する地位にあった相続人が、相続人としての地位そのものを放棄し、一切の遺産を受け継がないことを意味します。
相続放棄をした場合、その相続人は初めから相続人ではなかったものとみなされます(民法939条)。
「初めから」というのは、相続開始の当初から、すなわち被相続人が亡くなった時点からということです。
したがって、相続放棄をした人は、「被相続人が亡くなったときから相続人ではなかった」と扱われることになるわけですから、当然、被相続人の遺産を引き継ぐことはありません。
その結果、被相続人の借金や負債を背負う必要は一切なくなります。
他方で、被相続人に不動産や預貯金などのプラスの財産があった場合も、それらを引き継ぐことはできなくなります。
なお、「初めから」相続人ではなかったとみなされるため、放棄者に子がいる場合でも代襲相続されることはありません。この点は後で詳しく説明します。
「相続分放棄」との違いは?
相続放棄と似た言葉に「相続分放棄」というものがあります。
これは、相続人としての地位そのもの放棄するのではなく、相続人が持っている相続分のみを放棄するということです。
例えば、遺産分割がまだ終わっていない段階で、ある相続人が遺産全体の3分の1の相続分を持っているとした場合、その3分の1の相続分を放棄するということです。
後述するように、相続放棄は家庭裁判所での手続きが必要になりますが、相続分放棄は他の相続人に意思表示をするだけでOKです。
「だったら相続放棄なんて面倒なことをせずに、相続分放棄でいいじゃないか」と思われるかもしれませんが、相続分放棄をしても基本的には相続債務を免れることができません。
すなわち、相続分放棄というのは基本的にはプラスの財産のみについての放棄であり、マイナスの財産も合わせて放棄するということはできないものと考えていただいて差し支えありません(ただし、債権者が同意した場合は別です)。
ですので、被相続人の借金を相続したくないという人は「相続分放棄」ではなく「相続放棄」をすべきでしょう。
相続放棄が可能な条件は?
残念ながら、相続放棄はいつでもどのような場合でもできるというわけではありません。
相続放棄をするためには以下の条件を満たしている必要があります。
⑴自己のために相続が開始されたことを知ってから3か月以内であること
⑵単純承認や限定承認をしていないこと
以下で、順番に解説していきたいと思います。
⑴自己のために相続が開始されたことを知ってから3か月以内であること(熟慮期間)
熟慮期間の起算点
まず、⑴ですが、この3か月の期間制限のことを熟慮期間などといいます。文字どおり、相続放棄をするか否か熟慮するための期間ということです。
そして、この熟慮期間は「自己のために相続が開始されたこと知った」ときからカウントされます。
「自己のために相続が開始されたこと知った」というのは、①被相続人が死亡したことと、②その被相続人と自分が相続関係にあることのいずれをも知った場合のことを意味します。
ですので、被相続人がすでに死亡していたとしても、その人と疎遠であるなどして、死亡の事実(①)を知らなければ、何年経っても熟慮期間はスタートしません。
また、被相続人と自分が相続関係にあること(②)も知っている必要があります。
したがって、死亡した被相続人と自分が親族関係にあることを知らなかったような場合や、先順位の相続人が全員相続放棄をして自分が相続人になったものの、その事実を知らなかったような場合もその間は熟慮期間がスタートしません。
熟慮期間の延長
なお、この熟慮期間については、裁判所に請求することで延長してもらえることがあります(民法915条1項ただし書)。財産が多くて調査に時間がかかるような場合であれば基本的には延長が認められることが多いでしょう。
とはいっても、絶対に延長が認められるわけではありませんので、相続放棄の準備は早めにしておくに越したことはありません。
なお、延長の請求は熟慮期間内にする必要があるので、熟慮期間が経過してしまった場合は延長の請求をしても却下されます。
⑵単純承認や限定承認をしていないこと
次に、相続放棄の条件⑵「単純承認や限定承認をしていないこと」についてです。
単純承認とは?
単純承認というのは、無条件で相続を承認することです。
一度単純承認をしてしまうと、それ以降相続放棄をすることはできません。
ここでいう「承認」というのは「認める」ということです。
ですので、「自分が相続することを認めます」と他の相続人などに表明した場合、これは当然単純承認にあたります。
しかし、実際にはそのよう形で単純承認が認められるパターンは実務上ほとんどありません。
実務において問題になるのは、ほとんどが法定単純承認といわれるものです。
法定単純承認とは、一定の場合に単純承認をしたとみなす制度
法定単純承認とは何かというと、民法では「こういうことをしたら、単純承認をしたとみなしますよ」という事柄がいくつか定められており、それに該当する行為をした場合に単純承認とみなされて相続放棄ができなくなってしまうという制度のことです。
では、どのようなことをすれば法定単純承認に該当してしまうのかというと、民法では以下のような事由が挙げられています。
⑴相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。
⑵相続人が、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私(ひそか)にこれを消費したとき。
このように「処分」「隠匿」「私に消費」が法定単純承認事由として挙げられています。
以下で順番に見ていきましょう。
「処分」にあたるのはどんな場合?
処分というのは、遺産を売却したり贈与したりする法律上の処分行為に加えて、遺産に属する物を破損したり破棄したり、その状態に変更を加えるといった事実上の処分行為も含みます。
もっとも、形式上は処分行為に該当する行為であったとしても、損傷箇所を修繕するなど財産の現状を維持するための行為(保存行為)であれば、「処分」に当たらないとされています。
具体例としては、遺産である不動産を第三者に売却したり、不動産に抵当権を設定する行為は「処分」にあたるでしょう。
預貯金を引き出す行為も「処分」にあたり得ます。
また、遺産である建物を取り壊す行為も、特段の事情がない限りは「処分」にあたるでしょう。
以上に対して、遺産である建物が雨漏りをしているので、これを修繕したような場合であれば「保存行為」として「処分」にはあたりません。
葬儀費用や埋葬費用などを被相続人の預貯金から支払った場合でも相続放棄はできる?
ここで問題になってくるのは、例えば被相続人の預貯金を引き出して葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用などを支払った場合、これが「処分」にあたるのかという点です。
これについては、裁判例(大阪高裁平成14年7月3日)があり、葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用は、社会的な必要性が高く、不相当に高額といえない限りは「処分」にあたらないと判断されています。
したがって、被相続人の預貯金から葬儀費用や仏壇、墓石の購入費用を支出したとしても、それが不相当に高額といえない限りは、依然として相続放棄をすることができるということになります。
「隠匿」にあたるのはどんな場合?
隠匿とは、文字どおり隠すことです。積極的に隠す場合だけではなく、遺産の存在を知りながらこれを告げないことも含まれます。
例えば、被相続人の預金通帳を発見したのに、これを他の相続人に告げずに独り占めしたような場合は「隠匿」にあたると考えられます。
「私に消費」にあたるのはどんな場合?
「私(ひそか)に」というのは、「私的に」くらいに意味合いだと考えていただければ大丈夫です。特に重要な意味を持つ文言ではありません。
消費というのも、文字どおりであり、相続財産を使ってなくすことです。「処分」にあたる行為は多くが「消費」にもあたると思われます。
限定承認とは?
限定承認をした場合も、相続放棄はできなくなります。
限定承認とは、プラスの相続財産の限度でマイナスの相続財産(債務、遺贈)を弁済するという条件付きで相続の承認をすることです。
限定承認をすれば、プラスの財産以上にマイナスの財産があったとしても、プラスの財産の範囲でだけそれを弁済すればよいということになります。
このように聞くと「お、限定承認いいじゃないか」と思われるかもしれませんが、限定承認は共同相続人全員でしなければならなかったり、財産目録の作成や相続債権者への配当(清算手続)を決められた期間内(それも極めて短期間)に行わなければならないなど、非常に手続きが煩雑で使い勝手の悪い制度です。
実際、限定承認がされることは実務上ほとんどありません。
ひとまずは「限定承認をした場合も相続放棄はできなくなる」ということだけ抑えていただければ十分かと思いますので、ここでは限定承認についての詳細な解説は割愛させていただきます。
相続放棄の手続きはどうすればよいか?
以上で述べてきたとおり、自己のために相続が開始したことを知ってから3か月以内であり、かつ、単純承認(法定単純承認を含む)も限定承認もしてない場合は、相続放棄をすることが可能です。
それでは、相続放棄をするためにはどのような手続きが必要でしょうか?
相続放棄の申述書と添付書類の提出
相続放棄をするためには、家庭裁判所で「放棄の申述」をする必要があります。
「申述」といっても、裁判所に行って裁判官の前で何か言わないといけないというわけではなく、基本的には相続放棄申述書という書面に必要書類を添付して管轄の裁判所に提出するだけです。
相続放棄申述書の書式は以下の裁判所のページからダウンロードすることができますし、各家庭裁判所に紙ベースの雛形が備え付けられているので、そちらで入手することも可能です。
また、申述書に添付する書類は、被相続人の住民票の除票、被相続人の死亡の記載のある戸籍・除籍謄本、申述人の現在の戸籍謄本などですが、被相続人との関係により必要な書類が区々に分かれています。
以下の裁判所のページにまとめられていますのでそちらをご参照ください。
相続放棄の申述書はどこの裁判所に出すの?
相続放棄申述書を提出すべき裁判所は、被相続人の最後の住所地を管轄している家庭裁判所です。
例えば、最後の住所地が愛知県名古屋市であれば名古屋家庭裁判所の本庁が管轄裁判所になりますし、愛知県大府市であれば名古屋家庭裁判所半田支部、三重県伊賀市であれば津家庭裁判所伊賀支部、岐阜県関市であれば岐阜家庭裁判所本庁が管轄裁判所になります。
管轄区域については、各家庭裁判所のホームページに掲載されておりますので、そちらをご参照ください。
東海3県については、以下にリンクを掲載しておきます。
なお、最後の住所地は、被相続人の住民票の除票を取得することで調べることができます。
相続放棄申述書を提出した後の流れは?
相続放棄の申述書を提出した後は、基本的に待つだけです。
被相続人が亡くなってから3か月以内に申述書を提出した場合であれば、特に何もなく申述が受理されて手続きが終了することが多いです。
もっとも、申述者の年齢や申述した時期、相続財産の状況、申述者と被相続人との関係性などの事情によっては、家庭裁判所から「相続放棄照会書」という書面が届き、相続放棄をするに至った経緯や理由などを尋ねられることもあります。相続放棄照会書が届いた場合は、添付の回答書に照会事項を記入して返送する必要があります。
その後、家庭裁判所において特に問題なく相続放棄の申述書を受理した場合は、「相続放棄申述受理通知書」が郵送されてきますので、これをもって相続放棄の手続きは全て完了したことになります。
相続放棄をするとどうなるのか?
先程も説明したとおり、相続放棄をすると「初めから相続人でなかったもの」とみなされます。
その結果、プラスの財産もマイナスの財産も被相続人から引き継ぐことはありません。この点も先程すでにご説明差し上げたとおりです。
また、一部の相続人のみが相続放棄をした場合、他の相続人の相続分がどうなるかというと、初めから放棄をした相続人がいなかったものとして(つまり初めから他の相続人のみであったとして)考えることになります。
例えば、妻Wと子A、Bが相続人になっている場合、本来であればそれぞれの相続分はWが1/2、A、Bが1/4ずつになります。
ここでAのみが相続放棄をしたとすると、W、Bの相続分については、初めからW、Bのみが相続人であったものとして考えることになるので、Wが1/2、Bも1/2となります。
なお、相続放棄の場合、放棄をした人に子などの直系卑属がいた場合でも代襲相続はされません。
先ほどの事例でAに子Cがいたとしても、Aが相続放棄をすることで代わりにCが相続人になるということはありません。
さらに、同順位の相続人全員が相続放棄をした場合、次順位の相続人が相続することになります。
例えば、Xには子A、B、Cと両親D、E、兄弟姉妹F、Gがいたとします。
ここでA、B、Cが全員相続放棄をしたとすると、今度はD、Eが相続人になります。そして、D、Eも相続放棄をしたとするとF、Gが相続人となります。
では「F、Gも相続放棄をしてしまったらどうなるんだ?」というのは当然の疑問ですよね。それについては、次の項目で解説します。
全員が相続放棄をするとどうなるの?
相続人となるべき人が全員相続放棄をしてしまった場合、相続人がいない(不存在)ということになります。
相続人不存在の場合にどうなるかという点については民法に規定があり、以下のように進んでいくことになります。
① 利害関係人が相続財産清算人の選任を申立てる
→相続放棄をした者は利害関係人として相続財産清算人の選任を家庭裁判所に請求することができます。
他に選任請求が可能なのは、相続債権者、相続債務者、受遺者、特別縁故者として遺産の分与を申し立てる者、所在不明土地につき国の行政機関の長などが考えられるところです。
② 家庭裁判所が相続財産清算人を選任する
→請求を受けた家庭裁判所は、弁護士などの中から相続財産清算人を選任します。
③ 家庭裁判所が相続財産清算人選任と相続人捜索の広告をする
→相続財産清算人を選任した家庭裁判所は、その旨と相続人がいるならば一定期間内(6か月以上)にその権利を主張すべき旨を広告します。この期間内に誰も相続人が名乗り出なければ、相続人の不存在が確定します。
④ 相続財産清算人が相続債権者や受遺者に請求申出を促す広告をする
→③の広告があった場合、相続財産清算人は、すべての相続剤権者と受遺者に対して、2か月以上の期間を定めて、その期間内にその請求の申し出をすべき旨の広告をしなければなりません。また、既に判明している相続債権者と受遺者に対しては、個別の債権の申し出をするよう催告しなければなりません。
⑤ 相続財産の清算
→相続財産清算人は期限内に申し出たか、既に判明している相続債権者及び受遺者に対して弁済の配当をします。
⑥ 国庫への帰属or特別縁故者への分与
→⑤の生産後にプラスの財産が残っている場合、その財産は国庫に帰属することになります。
もっとも、被相続人の内縁の配偶者や被相続人の介護に務めた人など、被相続人と「特別の縁故」を有する人(特別縁故者)が遺産の分与を請求した場合、家庭裁判所は相続財産の全部または一部を与えることができます。
特別縁故者に財産を与えるか否か、与えるとして何をどれだけ与えるかは家庭裁判所の裁量によって判断されます。
「相続放棄をしたからあとは知らない」はダメ?放棄者の財産管理義務
くどいようですが、相続放棄をした場合、「初めから相続人でなかった」ものとみなされます。
「ということは、放棄をした後で相続財産の管理なんかする必要もないのではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。
民法には次のような規定があります。
904条1項 相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。
つまり、相続放棄をした時点で相続財産を占有している人は、放棄後の新しい相続人か相続財産清算人に財産を引き渡すまでは、その財産を管理しなければなりません。
ただし、管理の程度は「自己の財産におけるのと同一の注意」ですので、要は自分の財産と同じように管理すれば良いということになります(とはいっても、無闇に破損したりすると管理責任を問われるので注意しましょう)。
なお、管理義務を負っているのは、相続放棄の時点で財産を占有している人だけですので、そうでない場合に管理義務は発生しません。
例えば、相続放棄をした時点で相続財産である不動産に居住している人はその不動産について管理義務を負うことになりますが、別の離れたところにある不動産の居住しているのであれば管理義務を負うことはないといえるでしょう。