- 求償権って何?
- 不倫慰謝料を支払ったら求償権を行使できるって本当?
- 求償権を放棄することで慰謝料を減額できるの?
当然のことですが、不貞行為というのは「不貞配偶者」と「不貞相手」の二人で行うものです。
そして、この二人のうちのどちらか一方のみが慰謝料を支払った場合、慰謝料を支払った当事者はもう片方の当事者に対して、「求償権」という権利を行使することができます。
この「求償権」という言葉をネットなどで調べてご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、その正確な意味について理解している人は少ないでしょう。
ここでは不倫慰謝料の求償権とは何か、またどのような場面で求償権を活かすことができるのかについて解説していきたいと思います。
このページの目次
1 求償権って何?
求償権については、具体例を用いて説明した方がわかりやすいでしょうから、以下では次の事例に沿って説明していきたいと思います。
事例
Xと結婚していたAは、職場の同僚であるY(独身)と不貞行為を行ってしまった。
AとYの不貞行為を知ったXは、Yに対して慰謝料請求を行った。
その結果、YはXに対して慰謝料として100万円を支払うことになった。
なお、この事案における慰謝料の妥当な金額は100万円である。
上記事例においては、A(不貞配偶者)とY(不貞相手)が不貞行為を行っているので、当然、A、Y両方ともXに対して慰謝料を支払うべき義務を負います(法律的にはAとYを「共同不法行為者」などといいます)。
この場合、Xとしては、AとYのいずれか一方のみに慰謝料請求をしてもよいですし、AとYそれぞれに慰謝料を請求することもできます。
この事案における妥当な慰謝料の額は100万円なので、XはAだけから100万円を払ってもらうこともできますし、Yだけから100万円を払ってもらうこともできます。
また、A、Yそれぞれから50万円ずつ払ってもらうことも、Aからは10万円、Yからは90万円を払ってもらうといったことも可能です(AとYがXに対して負うこのような債務のことを連帯債務などといいます)。
Xとしては、二重取りは許されませんが、AとYのどちらからどれだけ回収するのかを自由に決めることができるというわけですね。
そして、上記の事例では、XはYのみから100万円を支払ってもらっています。
上述したように、このようにXがYのみに慰謝料を請求するということは何ら問題のあることではなく、Yとしては請求を受けた以上、本件で妥当な金額とされる100万円を全額支払わなければなりません。
つまりYの立場としては、「自分は50万円だけ払うので、残り50万円はAに請求してくれ」などとは言えないということです。
しかし、これでは本来AとYが二人で負うべき慰謝料債務をYのみが負担していることとなり、AとYの間で不公平が生じてしまいます。
そこで、Yは、Xに慰謝料を支払った後で、Aに対して「本来二人で負担すべきだった慰謝料を自分一人で支払ったのだから、その一部をAにも負担してほしい」と請求することができます。この権利を求償権というわけです。
この事例でAとYの責任割合が等しい(つまり責任割合がA:Y=1:1)とすると、Yは自分がXに支払った慰謝料100万円の半分である50万円を求償権に基づいてAに請求することができる、ということです。
なお、求償権を行使できるのは、実際に慰謝料を支払った場合だけです。単に合意書を交わしただけでまだ慰謝料を支払っていない段階では求償請求を行うことはできません。
2 責任割合は常に1:1ではない
先ほどの事例では、AとYの責任割合が1:1であると仮定しましたが、常にそうなるわけではありません。
不貞行為に至る経緯やAとYの関係性などを踏まえていずれか一方の責任割合が他方よりも大きくなるということはあり得ます。
例えば、不貞関係をいずれか一方のみが積極的に主導していたような場合は、主導していた当事者の方が責任割合が重いと判断される可能性が高いでしょう。
また、一般的な傾向として、裁判例では不貞配偶者(A)の責任は不貞相手(Y)の責任よりも重いと判断されることが多いです。
そして、求償請求できる金額は責任割合によって変わってきます。
先ほどの事例で、Aの責任割合とYの責任割合がA:Y=6:4だったとすれば、YはAに対して60万円の求償請求が可能になるということです。
3 求償権を放棄する代わりに慰謝料を減額してもらうことも
不貞慰謝料を請求されている場合、求償権を放棄することで慰謝料の金額を大幅に減額してもらうことも可能です。
先ほどの事例で、YはXに100万円支払った後、Aに対して50万円の求償請求を行い、Aから50万円支払ってもらったとします。
この場合、XとAの婚姻関係が不貞発覚後も続いていたとすると、XA夫婦はYに100万円支払ったもらった後で、Yに50万円を支払っていることになり、XA夫婦の手元に残るのは50万円だけということになります。
残りの50万円は、XA夫婦とYとの間を行ったり来たりしているだけで、無駄なやり取りである感は否めません。
そこで、Yの立場としては、Xとの慰謝料をめぐる交渉において、最初からAに対する求償権を放棄する代わりに、慰謝料をその分減額してもらうよう交渉することが考えられます。これを求償権の放棄といいます。
Xの立場としても、YがAに対して求償権を行使することで、AとYが再び接触するよりは、求償関係を含めて一括で処理した方が安心かつ簡便といえます。
このようなことから、実際の不倫慰謝料請求の事案においては、求償権放棄を前提として慰謝料を減額してもらうよう交渉することがよくあります。
もっとも、求償権の放棄を前提とした慰謝料の減額に応じるか否かはXの判断に委ねられるので、Yの側から強制することはできません。
また、この求償権放棄が使えるのは、通常、XAの婚姻関係が続いており「夫婦の財布が一つ」といえる場合のみです。
XA夫婦がすでに離婚をしてしまったような場合、Xとしては、YがAに対して求償権を行使しようがどうでもよいと考えるのが通常でしょうから、このような場合に求償権の放棄を前提にした交渉が功を奏することはほとんどありません。
4 求償権の行使や放棄については弁護士にご相談ください
不倫慰謝料と求償権は密接に関わっており、慰謝料を請求された側の立場からすると、この求償権をうまく使ってダメージを最小化するよう立ち回ることが重要といえます。
もっとも、求償権を行使したり、逆に求償権を放棄して慰謝料を減額するよう交渉していくには専門的な知識、経験が不可欠です。
「求償権を行使したい」「求償権を放棄して慰謝料の減額交渉をしたい」とお考えの方は早めに弁護士にご相談ください。