執行猶予がつくのはどんな場合?

執行猶予について弁護士がわかりやすく解説します

「裁判で執行猶予をつけるためにはどうすればいいのか」

「実刑になって刑務所に行くことを避けたい」

ここでは、そのようなお悩みを持つ人のために、執行猶予という制度について、弁護士がわかりやすく解説します。

執行猶予とは?

皆さんもテレビや新聞などのニュースで「懲役○年執行猶予×年」などという言葉を聞いたことがあると思います。ここでいう執行猶予とはどういう意味なのでしょうか?

執行猶予という制度を少し難しい言葉で説明すると「有罪判決による刑罰の執行を一定期間猶予すること」をいいます。

どういうことかというと、例えば「懲役1年」などの有罪判決を受けた場合、原則として、1年間刑務所に入らなければなりません。これを「刑の執行」といいます。

執行猶予というのは、文字どおり、この刑の執行を猶予することをいいます。

ですので、例えば「懲役1年執行猶予3年」などという形で、懲役刑に執行猶予がつけられた場合、刑が執行されることはありませんので、刑務所に入る必要がなくなるということになります

もっとも、あくまで執行の「猶予」であり、「免除」ではありませんので、執行猶予期間中にさらに罪を犯すなどした場合は、執行猶予が取り消され、刑に服する可能性が極めて高くなります。

執行猶予は何のためにある制度?

そもそも執行猶予とは何のためにある制度なのでしょうか?

一言でいえば、社会の中で自力で更生させるための制度であるということができます。

刑務所に入って一定期間社会から隔絶されるというのは、その人にとって非常に大きな不利益になります。間違いなくその人の人生そのものに重大な影響を及ぼしてしまうことになるでしょう。

ですので、犯罪を犯してしまった全ての人にそのような不利益を与えるというのは必ずしも適切ではありません。

執行猶予とは、過ちを犯してしまった人でも、すぐに刑務所に入れるのではなく、「また同じようなことをしたら刑務所に行くことになる」という条件のもとで社会生活を送らせることにより、社会の中でその人が自力で更生していくことを期待した制度であるといえるでしょう。

執行猶予期間を無事終えたらどうなる?

執行猶予期間を無事終えたらどうなるのでしょうか?

例えば「懲役1年執行猶予3年」という判決を受けた場合、執行猶予期間である3年間何も犯罪をせず無事に過ごせば、有罪判決の言い渡しは効力が無くなります。この「効力が無くなる」という点が重要です

したがって、当然、その判決に基づいて刑務所に入るという心配はなくなります

また「効力が無くなる」ので、有罪判決を受けたことが職業や資格の欠格事由となっている場合でも、猶予期間の終了によってその欠格事由は消滅します

執行猶予つきの判決も前科にはなる?

このように執行猶予期間を無事満了することで、有罪判決の言い渡しは効力が無くなり、刑務所に行かずに済んだり、職業や資格の制限を免れたりします。

ですが、「効力が無くなる」といっても、それはあくまで法律上の効力が無くなるということを意味するに過ぎず、有罪判決を受けたことがあるという過去の事実まで消し去ることはできません

したがって、執行猶予つきの判決であっても、前科という形で記録は残り続けることになります。ですので、執行猶予期間が終了した後であっても、また同じような犯罪を犯してしまった場合は、前のときより重く処罰されることになります。

執行猶予がつく条件は?

執行猶予がつく条件は、執行猶予期間中にまた罪を犯してしまった場合(再度目の執行猶予の場合)とそれ以外の場合(初度目の執行猶予の場合)で異なるので、別々に見ていきたいと思います。まずは初度目の執行猶予の場合からです。

初度目の執行猶予の場合

刑法の条文では以下のように定められています。

第二十五条

次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。

一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

まとめると、以下の①〜③の3つを満たす必要があるということになります。

  1. 以下のⅰかⅱのいずれかを満たすこと

    ⅰ前に禁錮以上の刑に処せられたことがないこと
    ⅱ前に禁錮以上の刑に処されたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処されたことがないこと

  2. 3年以下の懲役・禁錮又は50万円以下の罰金の言い渡しを受ける場合であること

  3. 相当な情状があること

一つずつ説明していきます。

①の条件について

まず、①の条件ですが、①を満たす場合を列挙すると以下のようになります。

①を満たす場合

ア 過去に有罪判決を受けたことがないか、受けたことがあっても罰金や科料である(ⅰ)

イ 過去に懲役や禁錮の有罪判決を受けたことがあるが執行猶予付きのものであり、かつ、その執行猶予を取り消されることなく満了した(ⅰ)

ウ 過去に懲役や禁錮の実刑判決を受けて刑務所で服役していたが、刑期満了による出所から5年以内に有罪判決を受けたことがないか、受けたことがあっても罰金や科料である(ⅱ)

エ 過去に懲役や禁錮の実刑判決を受けて刑務所で服役していたが、仮釈放によって釈放されたのち刑期の満了によって残りの刑が免除され、そこから5年以内に有罪判決を受けたことがないか、受けたことがあっても罰金や科料である(ⅱ)

オ 過去に懲役や禁錮の有罪判決を受けたが何らかの理由で刑が免除され、そこから5年以内に有罪判決を受けたことがないか、受けたことがあっても罰金や科料である(ⅱ)

ですので、以上のア〜オのいずれかに該当し、かつ②、③を満たす場合は執行猶予を受けられるということになります。

少し解説を加えておきたいと思います。この部分はやや専門的な内容になるので、必要ない方は②の解説パートまで読み飛ばしていただいても差し支えはありません。

まず、イについてですが、先ほども説明したとおり、執行猶予期間を無事満了すると有罪判決の言い渡しは効力が無くなります。ですので、執行猶予期間を無事満了した場合は、ⅰの「前に禁錮以上の刑に処されたことがない」場合に当たります

よく、イの場合について、ⅱの「刑の免除を得た」の方にあたると解説されていることがありますが、それは誤りということです。

ですので、執行猶予期間を無事満了すれば、それから5年経過しなくても、①の条件に当てはまることになります。

また、エの仮釈放によって出所したパターンですが、仮釈放によって出所しても、刑期を満了するまでは受刑者であることに変わりはありません。ですので、仮釈放された日からではなく、刑期を満了して残りの刑が免除された日から5年以内に禁錮や懲役の判決を受けていないことが必要になります

なお、オですが、刑法上、親族間の窃盗の場合(親族相盗例)の場合などに刑の免除の判決がなされることになっておりますが、実務上これに当てはまることはほとんどないと思われます。

②の条件について

次に②ですが、実際に言い渡される判決が3年を超える懲役・禁錮の場合や50万円を超える罰金の場合には執行猶予をつけることができないということです。

ですので、例えば「懲役4年、執行猶予5年」などという判決はあり得ないということになります。

③の条件について

最後に③ですが、執行猶予をつけるか否かは、①、②が満たされることを前提に、さまざまな情状面を考慮して裁判所が裁量によって判断することになります。

「情状」とは、犯罪そのものの情状(どのような理由で犯罪を行なってしまったのか、行為がどの程度悪質なのか、結果がどの程度重大なのか等)のほか、犯罪後の状況も考慮されます。

ですので、被害者と示談が成立しているか否か、自分のしたことをきちんと反省しているか否か、具体的な再犯防止策を講じているか否か、適切な監督者がいるか否か等の事情も執行猶予をつけるためには非常に重要になってきます

再度目の執行猶予の場合

再度目の執行猶予の場合、つまり執行猶予期間中にさらに罪を犯した場合はどうなるのでしょうか?

この場合も絶対に執行猶予がつかないというわけではありませんが、当然ながら1回目の執行猶予の場合よりも条件はかなり厳しくなります。

条文を見てみましょう。

第二十五条

2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

2回目以降の執行猶予の条件をまとめると、①1年以下の懲役又は禁錮の言い渡しを受ける場合であること、②情状に特に酌量すべきものがあることが必要になるということです

②の条件が認められることは稀有であり、軽微な過失犯などの場合であれば、再度の執行猶予の可能性もありうるところでしょうが、実際にこれらの要件を満たすとして再度の執行猶予がつけられる事案は全体の0.1%以下の割合となっており、現実はかなりハードルが高いといえるでしょう。

なお、上記①、②の条件を満たす場合であっても、前回の執行猶予に保護観察がつけられていた場合は、再度の執行猶予をつけることができません

執行猶予は取り消されることがある?

一定の場合には執行猶予が取り消されることがあります。執行猶予の取消しには、必ず取り消さなければならない必要的取消しと裁量によって取り消すこととする裁量的取消しがあります。

必要的取消し

必要的取消しには、以下の3つがあります。

  1. 執行猶予の期間内にさらに罪を犯して禁錮以上の刑に処され、その刑について執行猶予の言渡ししがないとき

  2. 執行猶予の言渡し前に犯した他の罪につき禁錮以上の刑に処され、その刑につき執行猶予の言い渡しがないとき

  3. 執行猶予の言渡し前に他の罪につき禁錮以上の刑に処されたことが発覚したとき

以上のうち、重要なのは①です。つまり執行猶予期間中にさらに犯罪を犯してしまい、再度の執行猶予の条件も満たさなかった場合は、必ず執行猶予が取り消され、前の判決の刑期と新たな判決の刑期を合わせた期間服役しなければならなくなるということです

裁量的取消し

裁量的取消しには、以下の3つがあります。

  1. 執行猶予の期間内にさらに罪を犯し罰金に処されたとき

  2. 保護観察に付された者が遵守事項を遵守せず、その情状が重いとき

  3. 執行猶予の言渡し前、他の罪につき禁錮以上の刑に処されその執行を猶予されたことが発覚したとき

①についてですが、執行猶予期間中に罪を犯して禁錮以上の刑になった場合は、必要的取消しになりますが、罰金だった場合は裁量的取り消しになり、取り消されるかどうかは裁判所の判断になります。

もっとも、実際に取り消されることはあまり多くなく、略式裁判による罰金の場合は、ほとんどの場合、取り消されることはありません。

先ほども解決したとおり、執行猶予期間中の犯罪に対して禁錮以上の刑が科される場合、再度の執行猶予のハードルは極めて高いので、執行猶予の取消しを防ぐためには、まず罰金を選択してもらうよう検察官や裁判所を説得していくという作業が重要でしょう

一部執行猶予とは?

執行猶予には、刑の全部を猶予する全部猶予の他に刑の一部のみを猶予する一部猶予という制度もあります。

一部猶予といっても実刑判決であることに変わりはありませんので、猶予されなかった刑期についてまず服役しなければなりません。

例えば、「懲役3年のうちその一部である1年については4年間その執行を猶予する」といった判決の場合、猶予されていない2年間は刑務所に入ることになります。

ですが、その期間の服役を終えると残り1年分の刑期については、4年間執行が猶予されるので、4年間何も罪を犯さずに過ごせば、服役する必要がありません。

一部執行猶予の条件は、以下のとおりです。

  1. 三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受ける場合であること

  2. 犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められる場合であること

  3. 以下のいずれかに該当する者であること

    ⅰ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
    ⅱ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
    ⅲ 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

執行猶予をつけるためにはどうすればいい?弁護士に依頼するメリット

すでに説明してきたとおり、1回目の執行猶予であっても2回目以降の執行猶予であっても、裁判所は犯罪行為をめぐるさまざまな情状を考慮して執行猶予をつけるかどうかを判断します。

情状とは、具体的には、犯罪行為がどの程度悪質であるのか、発生した結果がどの程度重大であるのか、犯行に至る動機に酌量の余地があるのか、などの犯罪そのものに関する情状のほか、被害者と示談が成立しているかどうか、きちんと反省しているかどうか、適切な監督者がいるかどうか、再犯防止措置を講じているかどうか、など犯罪後の事情も含まれます。

ですので、執行猶予を獲得するためには、こちらに有利な情状事情を可能な限り収集した上で、裁判所に対してそれらを説得的に伝えていくことが極めて重要になります。

執行猶予を獲得し実刑を回避するためには、刑事事件について豊富な経験を有する弁護士に早期に依頼をされることをお勧めします

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