性犯罪を起こしてしまったらどうすべきか?

性犯罪について弁護士が解説します

「電車の中で女性のお尻を触った」

 「駅のエスカレーターで女性のスカートを盗撮した」

 「路上ですれ違いざまに女性の胸を触った」

このような痴漢や盗撮行為をしてしまった場合、どのような犯罪が成立し、また、どのように対応をとるべきでしょうか?ここでは、不同意わいせつ罪や撮影罪などの性犯罪について詳しく解説していきたいと思います。

痴漢は「不同意わいせつ罪」か「迷惑防止条例違反」か?

痴漢で成立する可能性のある犯罪とは?

電車や駅、路上などで痴漢行為を犯してしまった場合、どのような犯罪が成立するのでしょうか?

考えられるのは、刑法176条の不同意わいせつ罪か各都道府県が定めている迷惑防止条例違反の2つです。

以下では、「そもそもどちらが適用されるかでどのような違いがあるのか?」「それぞれの罪名がどのような場合に成立するのか?」「痴漢の場合はいずれが適用されるのか?」などの疑問にお答えしていきたいとおもいます。

不同意わいせつ罪と迷惑防止条例違反の違いとは?

不同意わいせつ罪が適用される場合と迷惑防止条例違反が適用される場合でそもそもどのような違いがあるのでしょうか?考えられる主な違いは以下の3つです。

① 刑罰の重さ

まず、挙げられるのは、刑罰(法定刑)の重さの違いです。

つまり、不同意わいせつ罪では、懲役6か月以上10年以下の拘禁刑とされているのに対して、迷惑防止条例の場合は、愛知県を含む多くの都道府県で1年以下の懲役又は100万円以下の罰金と定められています。

つまり、刑罰の期間の長さや罰金が選択肢に入っているか否かといった点で不同意わいせつ罪の方が重いといえます。

② 裁判手続き

次に、裁判手続きの違いが挙げられます。

先ほど説明したとおり、迷惑防止条例の場合は、罰金刑が選択肢に入っており、実際にも罰金刑が適用されることがほとんどです。そして、罰金の場合は、ほとんどが略式裁判という簡単な書類審査のみでその金額が決められます。ですので、裁判所に行って公開の法廷で裁判を受けることはありません。

他方、不同意わいせつの場合は、罰金が選択肢に入っていないので、正式裁判といって、実際に裁判所にいって公開の法廷で裁判を受けることになってしまいます。

このように裁判手続きの面でも違いがあります。

③ 身柄拘束の可能性

最後に身柄拘束される可能性の違いです。

不同意わいせつ罪でも迷惑防止条例違反でも、逮捕される可能性は否定できませんが、以上のとおり、不同意わいせつ罪の方がより重い犯罪になっていることから、逮捕の可能性がより高いと考えられます。

不同意わいせつ罪(刑法176条)とは?

それぞれの違いがわかったところで、以下ではそれらがどのような場合に成立するのかを見ていきましょう。まずは、不同意わいせつ罪からです。

不同意わいせつ罪は、言葉のとおり「相手の同意がない状態でわいせつな行為をすること」です。ここでいう「わいせつな行為」とは、性的な部位を触る、キスをするなど性的羞恥心を害する行為のことです。

令和5年(2023年)6月に刑法が改正される前までは、「暴行または脅迫」を用いてわいせつ行為をした場合にのみこの犯罪が成立すると定められており、罪名も「強制わいせつ罪」と呼ばれていました。

「暴行又は脅迫」が必要であるため、痴漢の場合に強制わいせつ罪が適用されることはあまりありませんでした。

しかし、改正後は暴行、脅迫を用いる場合以外にも適用範囲が拡大され、罪名も「不同意わいせつ罪」に改められました。その結果、痴漢の場合も不同意わいせつ罪が適用される件数が徐々に増えています。

刑法176条では、同意がない場合をいくつかパターン化して列挙していますが(被害者に心身の障害がある場合やアルコール・薬物の影響がある場合等)、要するに「相手の同意がないのにわいせつ行為をした場合に成立するものだ」と理解していただければ十分かと思います。

なお、痴漢の場合でいうと、改正後の176条のうち「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがない」場合(1項5号)に該当することが多いと思われます。

迷惑防止条例違反とは?

各都道府県では、他人に迷惑をかける行為を禁止した迷惑防止条例が定められています。なお、この条例は都道府県によって名称がさまざまで、愛知県と岐阜県の場合は「迷惑行為防止条例」、三重県の場合は「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」などと名付けられています。

さて、前述のとおり、刑法改正前までは、痴漢で強制わいせつ罪が適用されることがあまりなかったので、この迷惑防止条例違反で検挙されることがほとんどでした。

つまり、愛知県の迷惑行為防止条例を例にとると、「正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、人の身体に、直接又は衣服その他の身に着ける物の上から触れること」が禁止されており、痴漢はこれにあたると判断されていたわけです。

しかし、刑法改正で不同意わいせつ罪に変わったことで、現在では、迷惑防止条例ではなく、不同意わいせつ罪が適用されることも徐々に増えてきている状況です。

結局どちらが適用されるのか?

さて、以上のように、痴漢は、不同意わいせつ罪と迷惑防止条例違反のいずれにも該当する可能性のある行為であり、そのいずれかが適用されることになるわけですが、それはどのように判断されているのでしょうか?

今のところ、明確な判断基準があるわけではありませんが、概ね、①触った部位、②触った時間や触り方、③被害者の年齢などを考慮して決められることになるでしょう。

① 触った部位

まず、触った部位が臀部(おしり)や太ももの場合は、迷惑防止条例が適用される可能性が高い一方、陰部や胸の場合は、不同意わいせつ罪が成立する可能性が高くなります。

② 触った時間や触り方

触っていた時間が長い(数十秒〜数分程度)場合、服の上から触るだけではなく、服の中に手を入れて触った場合、強く揉んだりした場合は、迷惑防止条例ではなく不同意わいせつ罪で立件される可能性が高いでしょう。

③ 被害者の年齢

刑法176条では、16歳未満の被害者に対してわいせつ行為をした場合には不同意わいせつ罪が成立すると定められているので、被害者が16歳未満の場合は、不同意わいせつ罪で立件される可能性が高くなるといえるでしょう。

痴漢の量刑相場は?

迷惑防止条例違反が適用される場合は、初犯であれば、罰金30万円〜50万円が相場です

他方、不同意わいせつ罪が適用される場合は、初犯の場合で6か月〜1年の拘禁刑に執行猶予が付けられることになるでしょう。

もっとも、前科や前歴の件数によっては、実刑判決など、これより重い刑罰になる可能性はあります。

また、被害者との示談が成立した場合は、ほとんどのケースで不起訴になります。早期に弁護士に依頼して被害者と示談交渉をすべきといえます

盗撮の場合、何罪が成立する?

盗撮で成立する可能性のある犯罪は? 

駅や電車、ショッピングセンターでスカートの中を盗撮したり、風俗店でのサービス中に黙ってスマホで撮影したりした場合にどのような犯罪が成立するのでしょうか?

ここでも、考えられるのは2つで、1つは性的姿態等撮影罪(いわゆる撮影罪)、もう1つは各都道府県の迷惑防止条例違反です。

撮影罪も迷惑防止条例もほぼ同じような内容であり、要は他人の性的な部位や下着、性行為の様子などをこっそり撮影した場合に成立する犯罪です。

撮影罪は、令和5年7月13日から新たに施行されている法律であり、それまで各都道府県の迷惑防止条例で処罰されていた盗撮行為を新たに法律によって全国一律で禁止するために定められたものです。

どちらが適用される?

では、どちらが適用されるのかというと、令和5年7月13日以降の事件については、主に撮影罪で立件されることになるでしょう。

もっとも、今後も、令和5年7月13日以前の事件や、撮影罪の条件を満たさない盗撮行為については、迷惑防止条例違反で立件される可能性も残ります。

盗撮をした場合の刑罰は?

撮影罪が適用された場合は3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金になります。迷惑防止条例の場合は、多くの都道府県で1年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金とされているので、撮影罪の方が法定刑が重いということになります。

盗撮の量刑相場は?

前述のように、法律では撮影罪の方が刑は重く定められていますが、量刑の相場は、撮影罪の場合も迷惑防止条例違反の場合も、大きな違いはなく、初犯であれば30万円〜50万円の罰金になる可能性が高いでしょう。

なお、初犯の場合は、略式裁判といって、書面審査だけで罰金刑になることがほとんどなので、実際に裁判所で公開の裁判(正式裁判)を受けることはほとんどありません。

もっとも、前科や前歴の件数が多い場合は、正式裁判によって執行猶予付きの懲役刑となったり、場合によっては実刑で刑務所に行かなければならないということもあり得るところです。

他方、盗撮は、被害者と示談をすることで、不起訴になる可能性がかなり高まるので、盗撮をしてしまった場合は、早急に弁護士を入れて被害者と示談交渉をすべきでしょう

盗撮した動画や画像を販売したり送信した場合はどうなる?

盗撮したデータを特定の誰かに販売した場合は、提供罪となり、3年以下の拘禁刑又は300万円以下の罰金となります。

また、インターンネットを通じて盗撮したデータを不特定多数人に送信した場合は、送信罪となり、5年以下の拘禁刑又は500万円以下の罰金になります。

痴漢、盗撮以外の性犯罪について

不同意わいせつ罪、不同意わいせつ致傷罪

痴漢の項目でも説明したとおり、不同意わいせつ罪(刑法176条)は、「相手の同意がない状態でわいせつな行為をすること」です。

相手の同意がない状態」とは、例えば、暴行や脅迫によって相手が怯えている場合、相手がお酒や薬の影響で酩酊しているような場合、同意する間もなくわいせつ行為をする場合(すれ違いざまに突然胸を触るなど)、社会的・経済的な地位を不当に利用する場合などが挙げられます。また、相手が16歳未満である場合は、たとえ同意があって不同意わいせつ罪が成立します。

また、「わいせつ行為」とは、相手の性的羞恥心を害する行為とされており、具体的には、陰部や胸、お尻を触る、キスをする、服を脱がせるなどの行為が該当します。

不同意わいせつ罪の刑罰は、6か月以上10年以下の拘禁刑とされています。

また、不同意わいせつの結果、被害者が死傷した場合は、無期又は3年以上の懲役になります。

不同意わいせつ罪は、初犯であっても、被害者と示談をしていない場合は、実刑になる可能性があります。早急に弁護士に相談すべきでしょう

不同意性交罪

不同意性交罪は「相手の同意がない状態で性交などを行うこと」です。

「相手の同意がない状態」については、不同意わいせつ罪の場合と同じです。相手が16歳未満であれば、たとえ同意があっても不同意性交罪が成立する点も同様です。

また、「性交など」とは、膣性交だけではなく、肛門性交や口腔性交も含みます。また、陰茎を挿入する行為だけではなく、指や物を挿入する行為も含みます

不同意性交罪の刑罰は、5年以上の有期拘禁刑と重く、特に相手が死傷した場合は、無期又は6年以上の懲役に処されます。

不同意性交罪は、被害者と示談をしていない限り、初犯であっても実刑になる可能性が高い類型といえます。早急に弁護士に相談すべきでしょう

青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)違反

各都道府県では、18歳未満の青少年の健全な育成を害する行為を処罰する条例として、青少年保護育成条例(いわゆる淫行条例)が定められています。

青少年保護育成条例では、18歳未満の青少年との淫行やわいせつ行為を処罰しており、愛知県を含む多くの都道府県では、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金とされています。

なお、18歳未満と知っていた場合だけではなく、18歳未満だとは知らなくても、その者の言動や見た目、行為前のやり取りなどから18歳未満と認識できたような場合(つまり過失がある場合)は、この条例が適用されてしまいます。

他方、たとえ18歳未満の者と性交渉を持った場合でも、真摯な交際関係に基づく場合は、処罰の対象になりません。真摯な交際関係か否かは、双方の年齢差や関係を持った経緯、交際の期間などによって判断されますが、実際に真摯な交際関係であったと認められることはあまりありません。

青少年保護育成条例の場合、初犯であれば、50万円前後の罰金になることが多いですが、被害者と示談をすることで不起訴になる可能性が高いといえます。早急に弁護士を入れて被害者と示談交渉をすることをお勧めします

児童買春

18歳未満の児童に対価を渡して性交渉を行った場合、児童買春に該当し、青少年保護育成条例違反の場合よりも重く処罰されます。具体的には、5年以下の懲役又は300万円以下の罰金とされています。

なお、「対価」とは金銭に限らず、性交渉をする代わりに、物を買ってあげる、宿泊場所の代金を負担してあげる、食事を奢ってあげる、といった行為も「対価」当てはまります。

児童買春の場合も、初犯であれば、罰金になることが多いですが、被害者と示談をすることで不起訴になる可能性が高いです。弁護士を入れて早急に被害者との示談交渉を行うべきといえるでしょう

性犯罪を起こしてしまった場合に不起訴や執行猶予のためにすべきことは?

痴漢や盗撮、不同意わいせつ、青少年保護育成条例違反、児童買春の場合は、被害者と示談をすることで、不起訴処分になる可能性が非常に高い一方、示談をしていない場合は、起訴される可能性が高い類型といえます。

また、不同意性交などの重たい罪の場合でも、被害者と示談をすることで、不起訴処分になったり、起訴された場合でも執行猶予がつけられる可能性が高くなります。

このように、性犯罪では、被害者との示談が非常に重要です。もしも、性犯罪を起こしてしまった場合は、早期に弁護士に依頼して被害者と示談交渉を行うことをお勧めします

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