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薬物事件について弁護士が解説します
ここでは、薬物の所持や使用で逮捕されたり、実刑になったりしないか不安な方たちのために、薬物事件について弁護士がわかりやすく解説したいと思います。
大麻
罰則の内容は?
大麻に関する罰則の内容をまとめると以下の表のようになります
なお、令和5年12月16日に法律が改正され、「使用罪」が新たに設けられるなど、大麻に関する罰則の内容が大きく変更されることとなりました。改正法は令和6年中に施行される予定ですが、具体的な施行日は未定です。そこで以下では、改正前の罰則と改正後の罰則を両方とも掲載しておきます。
令和5年改正前
所持・譲渡・譲受 | 使用 | 輸出、輸入、栽培 | ||
非営利目的 | 営利目的 | 非営利目的 | 営利目的 | |
5年以下の懲役 | 5年以下の懲役又はこれに200万円以下の罰金を併科 | 処罰規定なし (不可罰) |
7年以下の懲役 | 10年以下の懲役又はこれに300万円以下の罰金を併科 |
令和5年改正後
所持・譲渡・譲受 | 使用 | 輸出、輸入、栽培 | ||
非営利目的 | 営利目的 | 非営利目的 | 営利目的 | |
7年以下の懲役 | 1年以上10年以下の懲役又はこれに300万円以下の罰金を併科 | 7年以下の懲役 | 1年以上10年以下の懲役 | 1年以上20年以下の懲役又はこれに500万円以下の罰金を併科 |
そもそも「大麻」とは?THCリキッドは大麻に含まれる?
「大麻」の定義も法律の改正により若干変更されることになりました。ざっくりと表にまとめると以下のようになります。(なお、法改正については次の項目で詳しく解説していますので、必要な方はそちらもお目通しください)。
改正前 |
定義:大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。 ↓ ・THCも「大麻の製品」として大麻に含まれる。 |
改正後 |
定義:大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。 ↓ ・THCは「大麻草としての形状を有しない」ので大麻に含まれないが、大麻とは別の麻薬として所持や使用が禁止される(刑の重さは大麻と同じ)。 |
改正前の定義では、「『大麻』とは大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。」とされていました。
「大麻の製品」も大麻に含まれるので、大麻由来の成分であり、大麻の精神作用の原因物質であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)のリキッドも改正前の定義では基本的に「大麻」に含まれることになります。
他方、改正後は、「『大麻』とは、大麻草(その種子及び成熟した茎を除く。)及びその製品(大麻草としての形状を有しないものを除く。)をいう。」と定義されることになりました。
大麻草としての形状を有しないものが「大麻」から除かれることになった結果、THCのリキッドは大麻に含まれないことになります。
では、THCが合法化されるのかといえば、当然そうではなく、THCは大麻とは別の麻薬としてその所持や使用等が禁止されることになります。もっとも、別の麻薬とはいっても、罰則の重さは大麻草と全く一緒です。
なお、同じく大麻成分であるCBD(カンナビジオール)は、種子や成熟した茎を原料に抽出されており、THCのような薬理作用もないので、所持や使用が処罰されることは基本的にありません。
他方、THCに類似した薬理作用を有するHHCやTHCH、THCOなどは、大麻やTHCと異なり、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(通称「薬機法」)で所持、製造、譲渡、譲受、使用などが禁止されており、これに違反した場合は「3年以下の懲役、もしくは300万円以下の罰金、またはこれらを併科」されることになります(業として禁止行為を行った場合は「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、またはこれらを併科」されます)。
法改正について
(この項目はやや専門的な内容になるので、必要ない人は読み飛ばしていただいて構いません)
一般的には大麻も麻薬の一種と考えられていますが、これまで大麻とそれ以外の麻薬はそれぞれ別の法律が規制を取り扱っていました。具体的には、大麻は「大麻取締法」に、大麻以外の麻薬は「麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」といいます)」によって規制がされていました。
そして、大麻取締法には、使用罪がなかったので、大麻の使用は処罰されないこと(不可罰)になっていました。
しかし、令和5年12月6日に成立した改正法により、大麻やその成分であるTHC(テトラヒドロカンナビノール)についても、麻向法に定める「麻薬」に含まれることになりました。したがって、今後、大麻やTHCに関する処罰規定は、麻向法に統一されることになり、改正法施行後は、大麻やTHCの使用についても、処罰されることになります。
合わせて、所持、譲渡、譲受、輸出、輸入、栽培についても法改正によって法定刑が重くなっており、全体的に厳罰化の傾向にあるといえます。
なお、大麻取締法は、「大麻草の栽培の規制に関する法律」という名前に改められ、今後は、大麻草の栽培に関する規制のみを取り扱う法律になります(栽培罪はこちらの法律で規定されています)。
逮捕、勾留される?
大麻で検挙されるケースとしては、⑴ 街中での職務質問がきっかけで所持が発覚するパターン、⑵ 売人や大麻仲間が検挙されたことから家宅捜索を受け、所持が発覚するパターン、⑶ 家族や同居人が通報の通報により家宅捜索を受け、所持が発覚するパターンなどが多いと思われます。
警察官が職務質問などで大麻らしきもの発見した場合、通常、その場で簡易検査を行いますが、最近は簡易検査で陽性になってもすぐに現行犯逮捕されることはあまり多くありません。簡易検査では偽陽性の可能性が否定できず、誤認逮捕につながるおそれがあるからです(もっとも、⑵ のパターンでは、警察も事前にある程度捜査を進めており、誤認逮捕のおそれも低いので、簡易検査で陽性反応が出た段階で逮捕に踏み切ることも多いです)。
ですので、警察は押収したものを一旦鑑定に回し、そこで陽性が確認できてから、逮捕するか否かを検討する場合が多いといえるでしょう。なお、鑑定には早くても2週間以上の時間(通常は1か月以上)を要することが通常です。
大麻の所持については、概ね6割程度の事案で逮捕までされていますが、供述の状況や前科前歴関係、身柄引受人の存在などの事情により、逃亡や証拠隠滅のおそれがないと判断されれば逮捕を免れることも多いといえます。
大麻で逮捕を避けるためには、逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを示す事情を取り揃え、警察を説得するといった弁護活動が必要になるので、早期に弁護士に依頼されることをお勧めします。
起訴される?
証拠も十分で本人による所持等が確実な場合は、ほとんどの事案で起訴されています。
もっとも、所持の量が1gを大幅に下回るなど、極めて少ない場合は、起訴猶予になることもあります。
また、大麻の実物が出てきていないなど証拠状況からして本人による所持が確実に立証できないような場合は、嫌疑不十分により不起訴になることもあるでしょう。
大麻の事案において、不起訴処分を目指すためには、専門家による適切な状況判断が不可欠ですから、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
実刑になる?
初犯の単純所持、使用の場合は、所持の量が極めて多い(数キロ単位)場合や公判で全く反省の態度を示さない場合など、極端な事案を除いて、よほどのことがない限り執行猶予がつきます。
他方、同種の前科がある場合や営利目的の場合、栽培・輸出入の場合などは、実刑の可能性が高くなるといえるでしょう。
大麻事案で実刑を避けるためには、早い段階で有利な情状事実を収集しておく必要があります。早期に弁護士に相談されることをお勧めします。
覚醒剤
罰則の内容は?
覚醒剤に関する罰則の内容をまとめると以下の表のようになります。
所持・譲渡・譲受 | 使用 | 輸出、輸入、製造 | ||
非営利目的 | 営利目的 | 非営利目的 | 営利目的 | |
10年以下の懲役 | 1年以上20年以下懲役又はこれに500万円以下の罰金を併科する | 10年以下の懲役 | 1年以上20年以下の懲役 | 無期若しくは3年以上20年以下の懲役又はこれに1000万円以下の罰金を併科する |
表のように、営利目的の輸出、輸入、製造の場合は無期懲役が選択肢に入ってくるので、公判は市民から選ばれた裁判員が判断する裁判員裁判が行われることになります。
逮捕、勾留される?
覚醒剤の所持、使用が判明した場合は、ほとんどの事案で逮捕、勾留されます。
先ほど説明したとおり、大麻の場合は、簡易検査の段階ですぐに逮捕されることはあまりありませんが、覚醒剤の場合は、簡易検査で陽性反応が出ればすぐに逮捕されることが多いです。
もっとも、逮捕されたとしても、本人の反省状況や所持していた覚醒剤の量などに照らし、稀に勾留請求が却下されて、逮捕後すぐに釈放されることもあります。
起訴される?
本人による所持、使用が証拠上明らかな場合、起訴を避けることは難しいでしょう。
他方、証拠状況から、本人による所持や使用が公判で立証できない可能性が残る場合は、嫌疑不十分による不起訴もあり得るところです。
もっとも、例えば本人の尿から覚醒剤が検出されたような場合、覚醒剤を意図せず体内に摂取することは極めて例外的と言わざるを得ませんので、そのような例外的な事態がありうることを説得的に説明しない限り、やはり起訴されてしまう可能性が高いといえます。
実刑になる?
初犯の単純所持、使用であれば、執行猶予がつくことがほとんどです。もっとも、所持の量が数十グラムを超えるような多量の場合は、実刑の可能性も否定はできません。
また、同種の前科がある場合、営利目的の場合、製造・輸入・輸出の場合は、実刑の可能性が高いといわざるを得ません。
覚醒剤事案で実刑を避けるためには、早い段階で有利な情状事実を収集しておく必要があります。早期に弁護士に相談されることをお勧めします。
麻薬、向精神薬
罰則の内容は?
ヘロイン、コカイン、LSD、マリファナなどの麻薬や向精神薬については、「麻薬及び向精神薬取締法」(以下「麻向法」といいます)という法律で包括的に規制されています。
罰則の内容をまとめると以下の表のようになります。
ヘロインの場合
所持・譲渡・譲受 | 使用 | 輸出、輸入、製造 | ||
非営利目的 | 営利目的 | 非営利目的 | 営利目的 | |
10年以下の懲役 | 1年以上20年以下懲役又はこれに500万円以下の罰金を併科する | 10年以下の懲役 | 1年以上20年以下の懲役 | 無期若しくは3年以上20年以下の懲役又はこれに1000万円以下の罰金を併科する |
ヘロイン以外の麻薬、向精神薬の場合
所持・譲渡・譲受 | 使用 | 輸出、輸入、製造、栽培 | ||
非営利目的 | 営利目的 | 非営利目的 | 営利目的 | |
7年以下の懲役 | 1年以上10年以下懲役又はこれに300万円以下の罰金を併科する | 7年以下の懲役 | 1年以上10年以下の懲役 | 1年以上20年以下の懲役又はこれに500万円以下の罰金を併科する |
逮捕される?
麻薬や向精神薬の所持、使用が判明した場合は、逮捕、勾留される可能性が高いでしょう。
もっとも、所持、使用していた薬物の種類や量、入手した経緯、本人の供述状況などの事情によっては逮捕、勾留を避けられる可能性があります。
麻薬、向精神薬の所持、使用などで検挙された場合は、早期に弁護士にご相談されることをお勧めします。
起訴される?
本人による所持、使用が証拠上明らかな場合はやはり起訴される可能性が高いといえます。
もっとも、所持の量が極めて少ない場合などは起訴猶予もあり得るでしょう。
他方、証拠状況から、本人による所持や使用が公判で立証できない可能性が残る場合は、嫌疑不十分による不起訴になる可能性もあり得ます。
実刑になる?
初犯の単純所持、使用の場合は、所持の量が極めて多い場合などを除いて、執行猶予がつく可能性が極めて高いでしょう。
また、同種の前科がある場合、営利目的の場合、製造・輸入・輸出の場合は、実刑の可能性が高くなります。
実刑を避けるためには、早い段階で有利な情状事実を収集しておく必要があります。早期に弁護士に相談されることをお勧めします。