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前科を避けるためにすべきことを弁護士が解説します
「刑事事件を起こしてしまって前科がつかないか不安」
「前科がつくとどうなってしまうのか?」
「前科をつけないためにはどうすればいいの?」
ここでは、そのようなお悩みをお持ちの方のために、前科について解説するとともに、前科を避けるためにすべきことを解説します。
そもそも前科とは?
「前科」とは、簡単にいえば「裁判所で有罪判決を受け、刑罰を科された経歴」のことです。
刑事事件を起こしてしまった場合、まず警察で捜査を受けたのち、検察庁に送致(いわゆる「送検」)され、検察官が起訴か不起訴かを判断します。
検察官が起訴した場合、今度は裁判所で有罪か無罪かが判断され、有罪と判断された場合は、罰金や懲役などの刑罰が科されます。
前科とは、このような流れで最終的に有罪判決を受けたことがある経歴のことをいいます。
あなたに前科はある?前科があるのはどのような場合か?
例えば、実際に裁判所で懲役刑の判決を受けたことがある場合は前科があることになります。執行猶予がついており、実際に刑務所には行っていない場合も同様です。
また、略式裁判で罰金を払ったことがある場合も前科になります。
略式裁判というのは、簡易裁判所での書面審査だけで罰金になる場合のことです。
裁判の日に実際に裁判所に出頭するわけではありませんが、有罪となった場合は、後日、裁判所から「略式命令謄本」というものが自宅に届きます。その後、検察庁から納付書が送られてくるので、この納付書に基づいて検察庁の窓口や振込みで罰金を納付します。
したがって、そのような手続きをした経験がある人も前科を有しているということになります。
なお、交通違反で切られる青切符は、刑罰として科される罰金ではなく、反則金の納付命令なので、前科にはあたりません。
これに対して、赤切符の場合は、簡易裁判所で罰金を科されるので、前科にあたります。
前科と前歴との違い
よく前科と混同されがちな言葉に「前歴」があります。
前歴とは「有罪判決には至らなかったものの、犯罪の嫌疑を受けて捜査された経歴」のことです。
例えば、警察で捜査されたものの軽微な犯罪であったため検察庁に送致されなかった場合(これを「微罪処分」といいます)や、検察庁には送致されたものの、検察官が不起訴処分にした場合などです。
実際に有罪判決を受けたわけではありませんので、後述するように、前科がある場合よりは、デメリットよりは少ないです。
前科が消えることはある?
前科は、警察や検察などの行政機関で記録され、その人が亡くなるまで残り続けることになります。
したがって、一度前科が付いてしまった場合は、死ぬまでその前科が消えることはありません。
前科のデメリットは?
前科のデメリット① 〜就けない職業がある〜
法律上、前科が欠格事由とされている職業や資格がたくさんあります。
したがって、前科があることで、それらの仕事に就くことができなかったり、現にそれらの職業に就いている場合は、失職したりする可能性があります。前歴の場合は、このようなデメリットはありません。
なお、それぞれの職業や資格によって、罰金や禁錮など、どの刑罰からが欠格事由になるのかが異なります。
また、欠格事由にも、「必ず排除される場合(絶対的欠格事由)」と「排除される可能性があるに過ぎない場合(相対的欠格事由)」があります。後者の場合は、法律で決められた機関が排除するかどうかを個別に判断することになります。
以下に、前科が欠格事由になる職業の一部を表にまとめておきます。
職業 | 欠格事由 |
医師・看護師、理学療法士・作業療法士 | 罰金以上が相対的欠格事由 |
社会福祉士・介護福祉士、不動産鑑定士、行政書士、司法書士、公認会計士、弁護士、公務員 | 禁錮以上が絶対的欠格事由 |
税理士 | 税法関係の特定の犯罪に基づく罰金以上が絶対的欠格事由 |
宅地建物取引士 | 禁錮以上又は特定の犯罪に基づく罰金が絶対的欠格事由 |
警備員 | 禁錮以上又は警備業法違反での罰金が絶対的欠格事由 |
前科のデメリット② 〜就職や仕事への影響〜
就職活動をする際、賞罰について、履歴書などに記載を求められることが多くあります。
ここでいう「罰」が前科にあたります。前歴の場合は「罰」に当たらないので、記載の必要はありません。
当然ながら、前科があることによって、就職に不利になります。
なお、履歴書に正直に前科を記載しなかった場合、のちに会社にそのことが知られてしまうと、懲戒解雇などの処分を受ける可能性があります。
また、今現在仕事に就いている場合でも、有罪判決を受けたことが会社に知られると、解雇を含む懲戒処分を受ける可能性があります。
前科のデメリット③ 〜海外旅行や海外出張への影響〜
海外に渡航するためには、まず日本政府が発行するパスポートが必要になります。
その際、仮釈放中であったり執行猶予期間中であったりする場合は、パスポートの発給が受けられない可能性があります。
また、パスポートが発給されたとしても、確実に海外に渡航できるわけではなく、渡航先によってはその国の渡航許可(ビザ)を受ける必要があります。その際、前科や前歴があることで、ビザがおりない可能性が生じます。
なお、日本国のパスポートは世界で最も信頼性が高いとされており、ビザなしで渡航できる国もたくさんあります。通常海外旅行などで訪れる国はほぼ全てがビザなしで渡航可能だと考えていただいて大丈夫です。
もっとも、アメリカやカナダ、オーストラリアなどの国では、ビザよりも簡易ではあるものの、インターネットを通じて事前に渡航認証を受けなければならず(アメリカではESTA、カナダではeTA、オーストラリアではETASなどと呼ばれています)、その際に前科や前歴関係についての質問がされます(なお、ヨーロッパでも、今後、同様の認証制度が設けられる予定です)。
前科や前歴があることで、それらの認証がおりず、海外への渡航に支障が生じることが考えられます。なお、ここで虚偽の申告をしたことが発覚すると、強制退去となり、以後のその国に入国できなくなるおそれがあります。
前科のデメリット④ 〜今後の法改正の可能性〜
昨今、日本版DBS(子供に関わる職業に就く人に性犯罪歴がないか確認する制度)の導入が議論されているように、今後、前科があることで不利益を課すような法改正が行われる可能性は十分に考えられるところです。
そのような予測不可能な不利益を受けないためにも、前科をつけることはできるだけ避けるべきといえるでしょう。
前科を避けるためにはどうすればいい?弁護士に依頼するメリット
すでに説明したとおり、刑事事件では検察官が起訴か不起訴かを判断し、起訴された場合は、裁判所で有罪か無罪かを判断されます。
日本の裁判所では99%以上が有罪判決となっているため、前科を避けるためには、何よりもまず不起訴になることが重要といえます。
そして、不起訴となるためには、被害者との示談や被害弁償、再犯防止のための対策、監督者の存在、本人の反省などの有利な事情を検察官に説明して、不起訴にしてもらうよう説得しなければなりません。
もしも刑事事件を起こしてしまった場合は、早期に弁護士に依頼して、不起訴処分獲得のために動き出すべきでしょう。