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ニュースでよく耳にする「書類送検」って何?
芸能人やスポーツ選手が「書類送検された」というニュースを目にしたことがある人も多いのではないでしょうか。
ところが、「書類送検」の意味を正確に理解している人は案外少ないように思います。
「書類送検」とは何かというと、警察が捜査をした事件について、その書類や証拠を検察庁に送致することをいいます。
刑事事件では、まず警察が事件について捜査します。関係者から話を聞いたり、実況見分して証拠を集めたりといったことをするわけですね。
しかし、警察には事件を起訴するかどうか判断する権限がありません。
日本で起訴か不起訴かを判断する権限を持つのは検察だけです。
そこで、事件について捜査を終えた警察は、検察官に起訴か不起訴か判断してもらうために事件の書類や証拠を検察庁に送致しなければなりません(刑事訴訟法246条)。
この警察が検察に事件の書類や証拠を送ることを文字通り「書類送検」というわけです。
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逮捕されている場合は「書類送検」とは言わない
上述のとおり、「書類送検」とは、書類や証拠を検察庁に送致することを意味します。
もっというと、あくまで書類や証拠のみを送致するニュアンスを含んでいるのであり、被疑者が逮捕されていない在宅事件の場合にのみ使われる言葉です。
これに対して、被疑者が逮捕されている場合、警察は逮捕から48時間以内に証拠や書類と一緒に被疑者の身柄を検察庁に送致しなければならないとされています(刑事訴訟法203条1項)。
このように被疑者が逮捕されている事件(身柄事件)では、被疑者の身柄も一緒に検察庁に送られるため、「書類送検」とはいいません(では、その場合は何というのかというと、特に呼び名があるわけではなく、単に「送致」や「送検」ということが多いです)。
「書類送検=犯罪の疑いがある」ではない!
上述のとおり、書類送検とは、被疑者が逮捕されていない在宅事件について、事件の捜査を終えた警察がその書類や証拠を検察庁に送ることをいいます。
「書類送検された」と聞くと、「その人が実際に犯罪を行った疑いがあると警察が判断したから送検したんだ」というような印象を受ける人も多いかもしれませんが、実際はそうではありません。
というのも、刑事訴訟法では、警察は捜査をした事件については、原則として、全件を検察庁に送致しなければならないとされているからです(刑事訴訟法246条)。
これを全件送致主義といいます(ただし、全件送致主義の例外として、ごく軽微な万引き事件などについては、書類送検せずに警察限りで事件を終結させる処理がなされることがあり、これを微罪処分といいます。微罪処分はあくまで例外であって、すべての事件について検察庁に送致をするのが原則です)。
上述のとおり、警察には事件を起訴するかどうかを判断する権限がありません。
ですので、警察は、犯罪の疑いがあるか否かにかかわらず、すべての事件を検察庁に送致して、検察官の判断に委ねなければならないのです。
したがって、警察は、捜査した結果、犯罪の疑いが全くないと考えるような場合であっても、書類送検しなければならないのであって、裏をかえせば書類送検されたからといって、犯罪の疑いがあるということでは決してないということになるのです。
書類送検というのは、あくまで形式的な手続きを意味するに過ぎないのであって、犯罪の疑いがあるか否かとは全く無関係ということですね。
今後は「書類送検された」というニュースを目にしても、その人のことを色眼鏡で見ないことが大切です。
書類送検されても前科はつかない
書類送検されると前科がつくのでしょうか?
すでに説明してきたとおり、書類送検というのは、あくまで警察が事件に関する書類や証拠を検察庁に送致することであって、起訴にするか不起訴にするかを決めるのは送致を受けた検察です。
そして「前科」とは、起訴されて裁判で有罪判決を受けることなので、当然ながら、書類送検されただけで前科がつくということはありません。