相続でよくあるトラブル事例

事例1 めぼしい遺産が不動産しかない場合

Aは二人の子XとYを残して死亡した。Aの遺産には預貯金をはじめとする金融資産はほとんどなく、めぼしい財産はAが生前居住していた土地と建物(評価額1000万円)だけである。

この場合、どのように遺産を分割すべきか?


めぼしい遺産が不動産しかない場合、当然、不動産を現物のまま分割するということはできません(均質かつ広大な土地であれば現物分割もあり得ますが、そのような場合は例外的でしょう)。

相続人全員の共有とすることも考えられなくはないですが、共有としてしまうと各々が維持や管理、処分を自由にできず不便です。

このような場合、いずれかの相続人が現物を取得し、他の相続人に代償金を支払って精算する代償分割という方法を取ることがよくあります。

上記事例だと、例えばXが土地と建物を取得し、その代償としてYに500万円を支払って取り分を平等にするといった方法です。

相続人の一人だけが現物の取得を希望し、他の相続人は現物よりも現金が欲しいというような場合であれば、代償分割は有効な解決法でしょう。

他方、相続人の誰も現物を欲しくない場合はどうでしょうか?

このような場合であれば、現物を第三者に売却してしまい、売却益を相続人間で分割するという方法があり得ます。このような方法を換価分割といいます。

上記事例だと不動産を売却し、その売却益1000万円(売却する際には諸経費がかかるので実際の額はもう少し小さくなりますが)を500万円ずつで分割するという方法です。

では、複数の相続人が現物を欲しがっている場合はどうすべきでしょうか?

上記事例でいえばXもYも不動産を欲しがっている場合です。

この場合はなかなかに厄介です。XもYも「自分が不動産を取得するんだ」と主張して譲らない場合は、話し合いでの解決は望めないでしょう。

そのような場合は、家庭裁判所で調停を行う必要があります。もっとも、調停といってもあくまで話し合いの手続きになるので、お互いが譲らない場合はやはり不成立となります。

調停が不成立となった場合どうなるのかというと、自動的に審判という手続きに移ります。

審判では調停段階で提出された資料や審判以降後に提出された資料を踏まえて、裁判官が遺産分割の方法について判断をしてくれます。この審判には強制力があるので、審判が確定するとその内容どおりに遺産分割をしなければならなくなります。

では、複数の相続人が不動産の取得を主張して争っているような場合、裁判所はどのような基準に従って判断するのでしょうか?

主に考えられるのは、①どちらがその不動産と密接な関わりを有しているか(どちらがその不動産をより切実に必要としているか)、②取得を希望する相続人に代償金を支払う資力があるか否かという2点です。

例えば上記事例でいうとAの生前はXがAと長年その不動産で同居し続けてきた場合であれば、Xの方がその不動産と密接な関わりを有しているということになるでしょう(①)。そして、Xに代償金を支払うだけの十分な資力があるのであれば、Xが不動産を取得し、Yに対して不動産評価額の半分を代償金として支払うという内容の遺産分割になる可能性が高いと思われます。

もっとも、Xに代償金を支払う資力がない場合は、この方法が採れませんので、Yに資力があるのであれば、Yが取得するか、換価分割の方法になるのではないかと思われます。

上記事例は説明のためにあえて簡単化したものですが、実際の遺産分割はもっと複雑です。めぼしい財産が不動産しかないような場合の遺産分割を円滑に進めて行くためには専門的な知識が必要であり、弁護士の介入が不可欠といえます。

不動産をめぐる遺産分割でお困りの方はぜひお気軽にご相談ください。

事例2 相続間で話し合いがまとまらない場合

Aは妻Wと子X、Yを残して死亡した。Aには預貯金や不動産、有価証券など多数の遺産(合計1億円)がある。

Aの死後、その遺産をめぐってW、X、Yが激しく争い、遺産分割の話し合いが一向に進まない。

このような場合どうすべきか?


相続は「争族」と言われているように、それまで仲の良かった親族間でも遺産をめぐって血みどろの争いになることが往々にしてあります。

本来であれば、被相続人が遺言書を作成しておくなどして、相続人間でトラブルにならないようにしておくことが望ましいところですが、実際上、遺言書が作成されている事案というのはあまり多くありません。

その結果、相続人間で遺産をめぐって争いになった場合はどのようにすべきでしょうか?

まずは、やはり話し合いでの解決を試みるべきですが、すでに相続人間で冷静な話し合いができる状態でない場合は、専門家である弁護士を間に入れて交通整理をする必要があるでしょう。

それでも解決しない場合は、家庭裁判所に調停を申し立てます。調停では調停委員と呼ばれる人たちが間に入って話し合いを進めてくれますが、あくまで話し合いなので、お互いが主張を譲らなければ不成立になります(なお、調停委員は調停をまとめるのが仕事なので、特定の相続人が不利益を被ることになってもあまり気にしません。調停段階でも自分の利益を守るためには弁護士の介入が不可欠です)。

調停でも話し合いがまとまらず不成立となった場合は自動的に審判という手続きに移ります。

審判では裁判官が調停段階の資料と審判移行後の資料を総合的に検討し、法的に妥当と考えられる方法での遺産分割を命じることになります。

確定した審判には強制力がありますので、この審判の内容に従った遺産分割が可能になります。

このように遺産分割をめぐって相続人が譲らず話し合いでの解決が不可能な場合であっても、最終的には裁判所の判断によって遺産分割が可能になるような制度になっています。

相続人間で遺産をめぐって激しい争いになっている場合、早期解決を図るためには、一刻も早く専門家である弁護士が間に入って交通整理を行う必要があります。

遺産をめぐる相続人間のトラブルでお困りの方はぜひお気軽にご相談ください。

事例3 相続人の中に判断能力を欠く人がいる場合

Aは妻Wと子X、Yを残して死亡した。Wは90歳と高齢で認知症が進行しており、日常会話も困難な状況である。

このような場合、Aの遺産分割をどのように進めていくべきか?


遺産分割協議を進めるためには最低限の判断能力(これを「意思能力」といいます)がなければなりません。

相続人のうちの一人でも最低限の判断能力(意思能力)を欠いていた場合、その遺産分割協議は無効になります

最低限の判断能力がどの程度かというのは難しい問題ですが、長谷川式認知スケールで14点以下の場合は意思能力がないと判断される可能性が高いでしょう。

上記事例では日常会話もままならない状況なので、意思能力は認められないことになります。

さて、相続人のうちの一部に意思能力のない人がいる場合どうすべきかというと、その相続人のために成年後見人を選任する必要があります

成年後見人というのは、意思能力がない人のために、その人に代わって財産を管理したり、その財産に関する法律行為を代理する権限を持つ人のことです。

後見人は親族など身近な人が選任されることもありますが、遺産分割を目的とするような選任の場合は、弁護士や司法書士などの専門家が選任されることになります。

後見人を選任してもらうためには、対象者の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出する必要があります。

選任の申立てができるのは、本人、配偶者、4親等内の親族などです。

申立ての際、添付資料として本人の戸籍謄本及び戸籍の附票、成年後見等の登記がされていないことの証明書、家庭裁判所が定める様式での診断書、本人の財産目録・収支予定表及びそれらの根拠資料、事情説明書、親族関係図などが必要になります。

申立人は後見人候補者を推薦できますが、推薦された者を後見人として選任するかどうかは家庭裁判が裁量に基づいて判断します。

成年後見人が選任されたら、意思能力のない人の代理人として後見人が遺産分割協議に参加することになります。

このように、相続人の中に意思能力のない人がいる場合の手続きは非常に複雑であり、専門的な知識、経験を要するところです。

判断能力を欠く人が相続人の中にいることでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

事例4 相続人の中に所在不明者がいる場合

Aは妻Wと子X、Yを残して死亡した。ところが、YはAが死亡する5年前に家出をしており、現在どこに住んでいるのか不明である。Yの住民票上の住所地に手紙を送っても「宛所に尋ねたりません」で返送されてきてしまう。

このような場合、遺産分割をどのように進めるべきか。


遺産分割は相続人全員が参加しないと無効になるので、所在不明者がいる状況では遺産分割協議を行うことができません。

このような場合、不在者財産管理人を選任する必要があり、不在者財産管理人が不在者に代わって遺産分割協議に参加することになります。

不在者財産管理人を選任してもらうためには、不在者の従来の住所地または居所地を管轄する家庭裁判所に申立書を提出する必要があります。

選任の申立てができるのは、利害関係人または検察官です。不在者とともに遺産分割の当事者となる人であれば、利害関係人にあたります。

申立ての際、添付資料として不在者の戸籍謄本及び戸籍の附票、申立人と不在者との関係がわかる書類、不在の事実を明らかにする資料、不在者の財産に関する資料(登記事項証明書等)です。遺産分割の目的で選任を求める場合は、被相続人の死亡を明らかにする戸籍謄本または除籍謄本、相続人が明らかになる資料(戸籍謄本、保険種類情報一覧図等)、遺産に関する資料も添付近藤弁護士いなければなりません。

申立人は管理人候補者を推薦できますが、推薦された者を後見人として選任するかどうかは家庭裁判が裁量に基づいて判断します。

不在者財産管理人が選任されたら、不在者の代理人として管理人が遺産分割協議に参加することになります。

このように、相続人の中に所在不明者がいる場合の手続きは非常に複雑であり、専門的な知識、経験を要するところです。

不在者が相続人の中にいることでお困りの際は、ぜひお気軽にご相談ください。


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