- 親の遺産を相続することになったけど、相続税がどれくらいになるのか不安
- 相続税の申告はいつまでにどうやってするの?
- 遺産分割が申告期限に間に合わない場合はどうすればいいの?
親族の遺産を相続した場合につきまとってくる問題が相続税についてです。ここでは、相続税の基本的な計算方法について解説していきたいと思います。
このページの目次
相続税の計算手順
相続税を計算する際の手順は以下のとおりです。
① 各相続人の「課税価格」(課税対象となる財産の価格)と呼ばれる金額を計算し、これを合計する
② ①で求めた合計額から基礎控除額を控除して課税遺産総額を計算する
③ ②で求めた課税遺産総額を各相続人が法定相続分で取得したと仮定した場合の取得額(仮の取得額)を計算する
④ ③で求めた各相続人の仮の取得額に対する税額を計算し、これを合計する
⑤ ④で求めた合計額を、各相続人が実際に取得した遺産の額で按分して、各相続人の税額を計算する
⑥ ⑤で求めた税額に加算や控除がある場合は、これを行なって最終的な税額を計算する。
と、これだけいわれてもなかなか難しいかと思いますので、以下で順番に解説していきます。
「課税価格」の計算方法(①)
課税価格は、以下の計算式によって計算します。
(ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産
+(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)
―(ⅲ)非課税財産
+(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産
―(ⅴ)相続債務及び葬儀費用
+(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産
(ⅰ)相続、遺贈、死因贈与によって取得した財産
(ⅰ)は、本来の相続財産のことであり、被相続人が死亡時に有していた経済的価値のある財産のことを指しています。
(ⅱ)みなし相続・遺贈によって取得した財産(みなし相続財産)
(ⅱ)についてですが、みなし相続財産の主なものとしては以下の二つがあります。
ア 被相続人の死亡により受け取った死亡保険金のうち、被相続人が保険料を負担していた部分の金額。
イ 被相続人の死亡により遺族等が受け取った死亡退職金
本来、死亡保険金や死亡退職金は相続財産に含まれないのですが、相続税の関係では、相続財産とみなして計算することになります。
ちなみに、アの金額は以下の計算式によって計算します。
死亡保険金額 × (被相続人が負担した保険料 ÷ 被相続人が死亡するまでに支払われた保険料総額)
また、相続人が受け取ったア、イの金額のうち、500万円に法定相続人の数をかけた金額までは非課税となります。
もっとも、法定相続人の数え方に関して、養子がいる場合や相続放棄がされている場合は注意が必要です。すなわち、養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までとし、相続放棄があった場合は、放棄がなかったものとした場合の相続人の数となります。
(ⅳ)相続時清算課税制度の適用を受けた贈与財産
(ⅳ)の相続時清算課税制度とは、原則として60歳以上の親または祖父母から、贈与の年の1月1日において18歳(令和4年3月31日以前の贈与については20歳)以上の子または孫に贈与する場合の課税関係について、贈与税として支払うか相続開始時の相続税として精算するかを選べる制度です。
贈与税を選択した場合は、通常どおりに贈与税を申告納税しなければなりません。
他方、相続時の精算を選択した場合、贈与税は課されず、相続開始時に相続財産として相続税が課されることになります(ただし、相続時清算課税を選択できる贈与は総額で2500万円までであり、これを超えると一律20%の贈与税が課されることになります)。
相続税は基礎控除の額が大きく、税率も贈与税より低くなっているので、節税効果を期待して相続時清算課税を選択する人も多いです。
生前贈与された財産について相続時清算課税制度を選んだ場合は、その財産の価額が相続財産に加算されることになります。
(ⅴ)相続債務及び葬儀費用
(ⅴ)の相続債務は、相続開始時点において存在し、履行が確実に義務付けられているものに限ります。
例えば、保証債務などは、履行が確実とはいえないので相続財産から控除することができません。
相続債務として控除できるのは、借入金や未払いの医療費、固定資産税、準確定申告により相続人が納付すべき被相続人の所得税などが含まれます。
(ⅵ)相続開始前3年以内の贈与財産
相続などにより財産を取得した人が被相続人から相続開始前3年以内に生前贈与を受けた財産がある場合、その財産の価格についても、相続税の課税価格に加算されます。
なお、その生前贈与についてすでに贈与税を支払済みである場合、支払済みの贈与税額が相続税から控除されますが、控除しきれない金額がある場合も還付を受けることはできません。
課税遺産総額の計算方法(②)
2で求めた「課税価格」から基礎控除額を控除して課税遺産総額を求めます。
基礎控除額は、以下の計算式により、計算できます。
基礎控除額=3000万円+(600万円×法定相続人の数)
この計算式を見て「被相続人が生前に養子縁組の届出をたくさんしておけば、基礎控除の額が上がって相続税を減らせるのでは?なんなら相続税をゼロにすることもできちゃうのでは?」という悪知恵が働く人もいるかもしれません(現に私も最初はそう考えました)。
しかし、その辺は国も抜かりがなく、法定相続人の数に算入できる養子の数は相続税法15条で制限されています。
すなわち、(先ほども少し触れましたが)養子がいる場合の養子については、原則として実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までしか法定相続人にカウントすることができなくなっています。
例えば、相続人に妻W、実子A、実子B、養子C、養子Dがいたとして、Wが1億円、Aが8000万円、Bが4000万円、Cが3000万円、Dが6000万円の遺産を取得したとします。
基礎控除額を計算するに当たっては、実子がいるので養子は一人分までしか法定相続人の数にカウントできません。
したがって、基礎控除額は、
3000万円+(600万円×4)=5400万円となります。
他方、遺産総額は3億1000万円なので、課税遺産総額は
3億1000万円 ― 5400万円 = 2億5600万円となります。
仮の取得額の計算方法(③)
3で求めた課税遺産総額に各相続人の法定相続分割合をかけて仮の取得額を計算します。
先程の例で計算すると以下のようになります。
W : 2億5600万円×1/2 = 1億2800万円
A〜D : 2億5600万円×1/8 = 3200万円ずつ
相続税の合計額の計算方法(④)
4で求めた仮の取得額に以下の税率と控除額を当てはめて相続税の金額を計算し、それを合計します。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1000万円以下 | 10% | ― |
1000万円超〜3000万円以下 | 15% | 50万円 |
3000万円超〜5000万円以下 | 20% | 200万円 |
5000万円超〜1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超〜2億円以下 | 40% | 1700万円 |
2億円超〜3億円以下 | 45% | 2700万円 |
3億円超〜6億円以下 | 50% | 4200万円 |
6億円超 | 55% | 7200万円 |
先程の例で計算すると以下のようになります。
W : 1億2800万円 × 30% ー 1700万円 = 2140万円
A〜D : 3200万円 ×20% ー 200万円 = 440万円ずつ
したがって、税額の合計は2140万円×(440万円×4)=3900万円
各相続人の税額の計算
5で税額の総額を求めることができたので、これを各相続人の実際の遺産の取得額に応じて按分していきます。
W : 3900万円×(1億円/3億1000万円)=1258万0645円
A : 3900万円×(8000万円/3億1000万円)=1006万4516円
B : 3900万円×(4000万円/3億1000万円)=503万2258円
C : 3900万円×(3000万円/3億1000万円)=377万4193円
D : 3900万円×(6000万円/3億1000万円)=754万8387円
加算、控除による最終的な税額の確定
6で求めた税額に対して、加算や控除がある場合は、その処理をして最終的な税額を計算します。
例えば、配偶者であれば配偶者控除を受けることができます。配偶者控除の上限額は1億6000万円までですが、1億6000万円を超えても法定相続分までであれば、控除されます。
したがって、上の例でいえば、Wの取得額は1億円であり、控除の上限を下回っているので全額が税額控除されることになります。
その結果、Wの相続税額は0円になります。
また、例えば、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の相続人の場合、相続税額が2割加算されることになります。
養子も一親等の親族に該当するので、上の例では全員が配偶者か一親等内の親族ということになり、この2割加算の該当者はいないということになります(ただし、二親等以上離れた親族を養子にした場合(例えば孫養子の場合など)は、この2割加算の対象となります)。
相続税の申告はどうすればいいの?
相続税の基本的な計算方法は以上のとおりです。
これを踏まえて、次は相続税の申告について解説していきたいと思います。
相続税の申告をしないといけないのはどんなとき?
相続等により取得した財産の価格(課税価格)の合計額が基礎控除額を超える場合は、相続税の申告・納税をしなければなりません。
未成年控除等の適用を受けて納付すべき相続税額が0円となる場合は申告不要ですが、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)の適用を受けるためには、申告することが条件となるので、相続税額が0円でも申告が必要です。
なお、同じ被相続人の相続税の申告については、共同相続人の連名で申告書を提出することも可能です。
告の期限は?期限までに遺産分割が間に合わない場合はどうすればいい?
申告の期限は、相続開始(被相続人の死亡)を知った日から10か月以内です(この期限の最終日が土曜日、日曜日、祝日などに当たる場合は、これらの日の翌日が期限の最終日となります)。
この期限内に申告をしないと無申告加算税を課されることになってしまうので、申告が必要な方は必ず申告するようにしましょう。
なお、期限が10か月と比較的短く設定されていることから、期限までに遺産分割協議が終わらないというケースも往々にしてありうるところです。
そのような場合は、一旦、各相続人が法定相続分に従って遺産を相続したと仮定して、期限内に申告(未分割申告)をしておき、遺産分割が終わった後であらためて修正申告または更正の請求を行います。
また、未分割申告の場合、小規模宅地等の特例や配偶者の税額軽減(配偶者控除)を受けることができません。
しかし、未分割申告の際に「申告期限後3年以内の分割見込書」という書面を提出しておくことで、遺産分割後の修正申告や更正請求の際にこれらの特例の適用を受けることが可能になります。
申告書の提出先は?
申告書の提出先は、被相続人の最後の住所地を管轄する税務署です。
相続税の納付方法は?
相続税の納付は現金一括で行うのが原則です。
もっとも、遺産のほとんどが不動産である場合など、金銭による納付が困難であることも考えられます。
そのような場合は、延納(分割払い)や物納(現物による納付)を検討することになります。
延納や物納を希望する場合は、申告書の提出期限までに税務署に申請書類等を提出して、税務署長の許可を受ける必要があります。
遺産分割と相続税
相続税は税理士の守備範囲であり、弁護士が相続税について隅々まで知識を有しているわけではありません。
もっとも、遺産分割は相続税の問題と切っても切り離せないものであり、遺産分割を進めていくにあたっては、相続税のことも常に視野に入れておく必要があります。
そこで、税金のことも踏まえながら遺産分割を適切に進めていくためには、弁護士と税理士の協力関係が必須です。
名古屋H&Y法律事務所では、相続税に強い税理士をご紹介することが可能であり、税理士との密な協力関係に基づくリーガルサービスを提供させていただきます。
遺産相続のことでお困りの際はぜひお気軽にお声がけください。