痴漢、盗撮事案Q&A

この記事では、比較的お問合せの多い痴漢や盗撮事案について、弁護士がQ&A形式で解説していきたいと思います。

なお、盗撮事案に関しては、以下の関連記事にて詳細に解説しておりますが、やや専門的な内容になっておりますので、ここでは「手取り早く結論を知りたい」という方のために、できるだけ簡潔に回答するよう心がけております。

関連記事:「撮影罪って何?盗撮で成立する罪と検挙されたときの対応策について弁護士が詳しく解説します」 

このページの目次

Q1 盗撮は何罪になりますか?

性的姿態等撮影罪(以下「撮影罪」といいます。)または各都道府県の迷惑防止条例違反の罪になります。

盗撮に対しては、従前、各都道府県の迷惑防止条例が適用されていたのですが、令和5年7月13日から性的姿態等撮影行為処罰法が新たに施行されており、同日以降の盗撮事案については基本的に撮影罪が適用されることになります。

なお、対象者が18歳未満の場合は、児童ポルノ法違反(児ポ製造罪、児ポ所持罪)が適用されることもあります。

Q2 盗撮をした場合の刑罰は?

撮影罪が適用になる場合の法定刑は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」です。

迷惑防止条例違反が適用になる場合は、各都道府県の条例の規定によりますが、愛知県の場合は「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされており、他の多くの都道府県でも概ね同様です。

Q3 痴漢は何罪になりますか?

不同意わいせつ罪または各都道府県の迷惑防止条例違反になります。

Q4 痴漢をした場合の刑罰は?

不同意わいせつ罪が適用される場合は「6月以上10年以下の拘禁刑」となります。不同意わいせつ罪に罰金刑はありません。

迷惑防止条例違反の場合は、盗撮の場合と同様に、多くの都道府県で「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされています。

Q5 不同意わいせつ罪が適用される場合と迷惑防止条例違反が適用される場合はどのように区別されるのですか?

触った部位や触り方、触っていた時間の長さなどによって判断されます。

例えば、陰部や臀部、胸部など性的侵害の程度が強い部位を触っていた場合、衣服の上からではなく、下着の中に手を入れた場合、単に触れただけでなく揉んだ場合、触っていた時間が長かった場合などは、不同意わいせつ罪が成立する可能性が高くなります。

Q6 盗撮や痴漢は厳罰化していると聞きましたが本当ですか?

はい、本当です。

盗撮に関しては、新たに撮影罪が創設され、令和5年7月13日から施行されています(Q1)。

撮影罪の制定に至った理由はさまざまですが、一つに盗撮行為に対する厳罰化の要請があります。

実際、それまで盗撮行為について適用されていた迷惑防止条例では多くの都道府県で「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」とされていたところ、撮影罪は「3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金」とされており、法定刑の上限が単純計算で3倍になっています。

また、痴漢についても、刑法176条が「強制わいせつ罪」から「不同意わいせつ罪」に改められ、同条の適用範囲が拡張されました。

そして、痴漢の場合、迷惑防止条例か刑法176条のいずれかが適用されますが、後者の方が明らかに刑が重くなっています(Q4)。

刑法176条の適用範囲が拡張したことで、痴漢についても、より重く処罰される事案が増えたといえるでしょう。

このように痴漢や盗撮行為に対する厳罰化の傾向は顕著です。

Q7 後ろ姿やふくらはぎを撮影した場合も撮影罪になりますか?

いいえ、なりません。

撮影罪は性的な部位や下着などを盗撮する行為について成立する犯罪です。

そして、性的な部位とは「器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう」とされています。

また、下着とは「人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分」と定義されています。

単に後ろ姿やふくらはぎを撮影しただけであれば、これらに該当しないので撮影罪にはなりません。

もっとも、性的な部位を撮っていなかったとしても、他者を無断で撮影する行為は相手にとって迷惑ですし、さまざまなトラブルの原因にもなり得るところですので、そういった行為は厳に控えるべきといえるでしょう。

Q8 痴漢や盗撮の被害者が男性の場合も犯罪になりますか?

はい、犯罪になります。

撮影罪や迷惑防止条例、不同意わいせつ罪など痴漢や盗撮を処罰する罪は被害者が男性か女性かで区別しておりませんので、被害者が女性の場合と同様に犯罪になります。

Q9 盗撮の未遂も犯罪になりますか?

はい、犯罪になります。

撮影罪は未遂の場合も処罰の対象とする旨規定しています(性的姿態撮影行為処罰法2条2項)。

また、多くの都道府県の迷惑防止条例では、盗撮目的でカメラを向けたり、設置すること自体を処罰の対象としているので(例えば、愛知県迷惑行為防止条例第2条の2第1項第3号)、迷惑防止条例違反の既遂に該当する可能性もあるでしょう。

Q10 盗撮しようとして隠しカメラを設置したものの何も映っていなかった場合はどうなりますか?

撮影罪の未遂または迷惑防止条例の設置罪が成立することになります(Q9)。

Q11 スカート内を撮影しようとしたところ、被害者がいわゆる見せパン(アンダースコート)を履いていた場合でも撮影罪になりますか?

はい、なります。

撮影罪は「性的な部位を直接または間接に覆っている下着」を盗撮した場合に成立するとされています。

このように「間接に覆っている下着」を盗撮した場合も成立するとされていることから、例えば見パンを履いていた場合でも撮影罪が成立する可能性が高いでしょう。

Q12 痴漢や盗撮で逮捕されることはありますか?

はい、あります。

特に被害者や目撃者などがその場で気づいて被害申告をした場合は、現行犯として逮捕されるケースが多いです。

他方、その場で逮捕されなかったとしても、後日、警察が家に来て逮捕されるということもよくあります。

Q13 後日逮捕されないようにするためにはどうすればいいですか?

逮捕されるのは、逃亡や証拠隠滅のおそれがある場合です。

ですので、逃亡や証拠隠滅の意思がないことを示すために、弁護士とともに自首することが逮捕回避のために効果的でしょう。

関連記事:「後日逮捕されないか不安な方へ

Q14 痴漢や盗撮で勾留されないためにはどうすればいいですか?

逮捕後、勾留されてしまうと、原則10日、最長で20日間身柄拘束が継続することになります(刑事事件の流れについては「刑事事件はどのように進んでいくのか」というコラムで詳しく解説しているので、こちらをご参照ください)。

これを避けるためには、早期に弁護士が介入し、検察官や裁判官を説得することが重要になります。特に、痴漢や盗撮の場合は、きちんと対応することで勾留を阻止できるケースも比較的多いので、ご家族が痴漢や盗撮で逮捕された場合はお早めに弁護士に相談されることをお勧めします。

Q15 痴漢または盗撮をしてしまい警察から捜査を受けています。どうすればいいですか?

痴漢や盗撮をしてしまった場合、そのまま何もしないでいると起訴されて、刑罰を受け、前科がついてしまいます。

前科を避けるためには、被害者と示談をしていることが非常に重要です。

まずは、弁護士に依頼をして被害者との示談交渉を行うべきでしょう。

Q16 痴漢や盗撮で前科はつきますか?

不起訴になれば、前科はつきません。

他方、起訴された場合は、無罪とならない限り、罰金であっても前科となり、一生残ってしまいます。

したがって、前科を避けるためには、不起訴になる必要があり、そのためには被害者と早期に示談をすることが重要といえます。

関連記事:「前科をつけないためにはどうすればいい?

Q17 示談ができる確率はどれくらいですか?

痴漢や盗撮事案に関する正式な統計が発表されているわけではありませんが、弊所の場合は8〜9割程度の事案で示談が成立しています。

関連記事:「示談で解決するには?

Q18 痴漢や盗撮事案の示談金の相場はどれくらいですか?

概ね20万円〜50万円程度です。

関連記事:「刑事事件における示談金の相場

Q19 示談ができれば不起訴になりますか?

被害者との示談が成立している場合、初犯であればほとんどの事案で不起訴になります。

他方、同種の前科前歴が多くある場合は、示談していても起訴される可能性が高くなります。

Q20 被害者が特定されていなくても起訴されることはありますか?

はい、あります。

被害者が特定されていない場合であっても、盗撮した動画・画像がスマホ内に残っていたり、防犯カメラに犯行の様子が映っているなどして犯罪事実の存在自体が明らかであれば起訴されることがあります。

Q21 被害者が特定されておらず、示談交渉ができません。どうすればいいですか?

被害者が特定されていない場合、被害感情が不明ですので、起訴されるかどうか微妙な状況といえるでしょう。

したがって、適切な環境調整や再犯防止策を講じた上で、事案の内容を踏まえて不起訴処分とするよう、弁護士から検察官を説得していくことが必要になります。

Q22「贖罪寄付」とは何ですか?

罪を償うために弁護士会などを通して慈善団体に寄付をすることです。

贖罪寄付をすることで、真摯な反省の態度を示す一つの事情として、検察官の処分において一定程度有利に考慮されることになります。

Q23 贖罪寄付は示談の代わりになりますか?

いいえ、なりません。

贖罪寄付をすることである程度は有利に斟酌してもらえますが、示談ほどの効果はありません。

「贖罪寄付をしているから不起訴」というようなものでは全くなく、あくまで反省の態度を示す一つの事情という位置付けになります。

Q24 贖罪寄付はどのようにすればよいですか?

弁護士がお預かりした現金を弁護士会に持参して直接納付する形で行うのが通常です。

なお、贖罪寄付をした場合、その場で「贖罪寄付をしたことの証明書」が交付されるので、これを検察官や裁判所に提出することになります。

Q25 盗撮や痴漢で実刑になることはありますか?

具体的な事案の内容にもよりますが、前科がない場合や、前科があっても罰金のみという場合であれば、実刑になる可能性は低いでしょう。

これに対して、過去に正式裁判で執行猶予付き判決を受けたことがある場合(特に執行猶予期間中の犯行である場合)は、実刑になる可能性が高くなります。

Q26 痴漢や盗撮をやめたいです。どうすればいいですか?

痴漢や盗撮を繰り返してしまう原因はさまざまですが、一つの原因として精神面にトラブルを抱えている場合が多いといえます。

過去の成功体験から痴漢、盗撮行為が条件付けされており、一種の依存症のような状態になっている場合もよくあります。このような場合は、自分の理性だけで行為を抑制することが困難な状況にあるといえるので、条件反射を制御するような治療法が必要になるでしょう。

再犯を防止するためには、適切な心療内科や精神科で専門的な治療を受けることをお勧めします。

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