遺産相続で弁護士への依頼を検討しているものの、「費用は誰が払うのか」「他の相続人と分担できるのか」と疑問に感じている方も多いのではないでしょうか。
弁護士費用は原則として依頼者本人が負担しますが、相続人同士で争いがない場合は分担する方法もあります。一方、争いがある場合は相手に費用を請求できるのかどうかも気になるところです。
本記事では、遺産相続の弁護士費用を誰が払うのかという基本ルールから、争いの有無別の分担方法、費用を抑えるための具体的な方法まで詳しく解説します。
このページの目次
遺産相続の弁護士費用は誰が払う?原則は「依頼者本人」
結論から言うと、遺産相続で弁護士に依頼する際、弁護士費用は原則として「弁護士に依頼した本人」が支払います。これは日本の法制度上の基本ルールであり、相続人同士で争っているかどうかにかかわらず同じです。
たとえば、相続人が3人いるケースで、そのうち1人だけが弁護士に依頼した場合、費用を負担するのはその1人です。他の相続人には支払い義務はありません。
なぜこのようなルールになっているかというと、弁護士への依頼はあくまで個人と弁護士の間の委任契約であり、契約当事者である依頼者が費用を負担するのが民法上の原則だからです。
ただし、状況によっては相続人間で費用を分担したり、遺産から支払ったりする方法もあります。以降の見出しで、争いがない場合・ある場合に分けて詳しく解説します。
遺産相続で弁護士に依頼した場合の費用内訳
「誰が払うか」を判断するには、そもそもどのような費用が発生するかを知っておく必要があります。
弁護士費用の主な内訳は以下の4つです。
- 相談料
- 着手金
- 報酬金(成功報酬)
- 実費・日当
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相談料
相談料とは、弁護士に相続について相談する際にかかる費用です。相場は30分あたり5,000〜1万円程度が一般的で、初回相談を無料としている事務所も多くあります。
相談したからといって必ず依頼しなければならないわけではありません。まずは無料相談を活用し、費用の見通しや解決方針を確認してから依頼するかどうかを判断するとよいでしょう。
着手金
着手金は、弁護士に正式に依頼する際に支払う費用です。案件の結果にかかわらず返金されないのが原則であるため、依頼前に金額をしっかり確認しておきましょう。
相場は20万〜50万円程度ですが、遺産の金額や争いの有無によって変動します。たとえば、争いのない遺産分割協議書の作成のみであれば比較的低額ですが、調停や審判に発展するケースでは高くなる傾向があります。
報酬金(成功報酬)
報酬金は、案件が解決した後に成果に応じて支払う費用です。一般的には、弁護士に依頼したことで得られた「経済的利益」に対して一定のパーセンテージで計算されます。
具体的には、遺産分割で500万円を取得できた場合、その金額を基準に報酬が算出される仕組みです。
なお、以前は日弁連の報酬規程に基づき一律で決まっていましたが、現在は廃止されており、各事務所が自由に報酬を設定しています。そのため、事務所ごとに計算方法が異なる点には注意が必要です。
実費・日当
実費とは、手続きの過程で実際にかかる費用のことです。具体的には、戸籍謄本の取得費用、郵送料、裁判所に納める印紙代、交通費などが含まれます。
また、弁護士が遠方の裁判所へ出張する場合には日当が発生することもあります。日当の相場は1日あたり3万〜5万円程度です。出張がなければ日当は発生しないため、依頼前に弁護士の所在地と管轄裁判所の距離を確認しておくと安心です。
争いがない相続手続きで弁護士費用を分担する方法
相続人間で大きな争いがなく、手続きを円滑に進めたい場合は、弁護士費用を分担する方法がいくつかあります。
代表的な方法は次の3つです。
- 相続人全員で共同依頼する
- 代表相続人が依頼して後で精算する
- 遺産(相続財産)から支払う
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続人全員で共同依頼する
争いがない場合、相続人全員で同じ弁護士に依頼すれば、費用を人数で分け合うことができます。
たとえば、遺産分割協議書の作成を弁護士に依頼し、費用が30万円だった場合、相続人3人で依頼すれば1人あたり10万円の負担で済みます。
ただし、相続人間で利益が対立している場合は、同じ弁護士に共同で依頼することはできません。弁護士には「利益相反」を避ける義務があり、対立する双方の代理人を同時に務められないためです。
共同依頼は、遺産の分け方について全員がおおむね合意しているケースで有効な選択肢です。
代表相続人が依頼して後で精算する
相続人のうち1人が代表して弁護士に依頼し、遺産分割が終わった後に費用を相続人間で精算する方法もあります。全員が手続きに関与するのが難しい場合(遠方に住んでいる、仕事が忙しいなど)に選ばれることが多い方法です。
ただし、後から「聞いていなかった」「金額に納得できない」とトラブルになるリスクがあります。依頼前に「誰がいくら負担するか」を書面で取り決めておくことが大切です。口頭での約束だけでは、後から認識の違いが生じやすいため注意しましょう。
遺産(相続財産)から支払う
相続人全員が合意すれば、遺産の中から弁護士費用を支払うことも可能です。たとえば、被相続人の預貯金の一部を弁護士費用に充て、残りを分割するという方法が考えられます。
ただし、遺産分割が完了する前に一部の相続人が勝手に預貯金を引き出すと、他の相続人との間でトラブルになる可能性があります。遺産から費用を支払う場合は、必ず全員の合意を得たうえで、その内容を遺産分割協議書に明記しておきましょう。
争いがある遺産相続で弁護士費用を他の相続人に請求できるか?
「自分は悪くないのに、なぜ弁護士費用を自分で払わなければならないのか」と感じる方もいるかもしれません。しかし、争いがある場合でも、原則として弁護士費用を他の相続人に請求することはできません。
日本の法制度では「弁護士費用の敗訴者負担」という仕組みが採用されておらず、裁判や調停になっても弁護士費用は各自の負担となります。裁判の判決文にある「訴訟費用」にも弁護士費用は含まれていないため、「勝てば相手に払わせられる」と考えるのは誤りです。
例外として、不法行為に基づく損害賠償請求が認められるケースでは、弁護士費用の一部を相手方に請求できる場合があります。ただし、遺産分割の紛争自体は不法行為にあたらないことが一般的であるため、相続に関する争いで弁護士費用を相手に請求できるケースはきわめて限定的です。
遺産相続の弁護士費用を抑える方法
弁護士費用は決して安くありませんが、工夫次第で費用を抑えることは可能です。
ここでは代表的な2つの方法を紹介します。
- 複数の事務所で見積もりを比較する
- 法テラスの立替制度を利用する
それぞれ詳しく見ていきましょう。
複数の事務所で見積もりを比較する
弁護士費用は事務所ごとに料金体系が異なるため、必ず複数の事務所から見積もりをとって比較することをおすすめします。初回相談が無料の事務所も多いため、2〜3カ所で相談し、それぞれの見積もりを比較するとよいでしょう。
比較する際は、着手金の金額だけでなく、報酬金の計算方法や実費の範囲まで確認してください。着手金が安くても報酬金が高く設定されていると、トータルの費用ではかえって高くなるケースがあります。総額でいくらになるかを事前に試算しておくことが大切です。
法テラスの立替制度を利用する
経済的に弁護士費用の支払いが難しい方は、法テラス(日本司法支援センター)の「民事法律扶助」を利用する方法があります。これは国が設立した機関で、収入や資産が一定の基準以下であれば、弁護士費用を立て替えてもらえる制度です。
立替制度を利用するには、主に以下の条件を満たす必要があります。
- 収入・資産が資力基準以下であること
- 勝訴の見込みがないとはいえないこと
- 権利の濫用にあたる訴訟でないこと
立て替えてもらった費用は、月々5,000〜1万円程度を目安に分割で返済していきます。通常の弁護士費用と比べて低額に設定されているのもメリットです。
参考:法テラス「民事法律扶助業務」
遺産相続で弁護士費用を払ってでも依頼すべきケース
弁護士費用は高額になることもありますが、費用を払ってでも依頼したほうがよい状況もあります。
代表的なケースは次の3つです。
- 相続人同士の対立が激しい場合
- 遺産の全容が不明な場合
- 遺留分侵害額請求を行う・受けた場合
それぞれ詳しく見ていきましょう。
相続人同士の対立が激しい場合
相続人間で感情的な対立が生じていると、当事者同士の話し合いでは解決が難しくなります。特に、遺産の分け方をめぐって意見が対立したまま長期間放置すると、遺産分割の手続きが進まず、不動産の名義変更や預貯金の払い戻しができない状態が続きます。
弁護士が第三者として間に入ることで、感情的な衝突を避けながら法的な根拠に基づいた交渉が可能になります。結果として、自力で長引かせるよりもトータルの時間や負担を減らせることが多いです。
遺産の全容が不明な場合
被相続人(亡くなった方)がどのような財産を持っていたか分からないケースは少なくありません。預貯金の口座が複数あったり、不動産が遠方にあったり、負債が隠れていたりすると、相続人だけで全容を把握するのは困難です。
弁護士に依頼すれば、弁護士法に基づく照会制度(弁護士会照会)を使って金融機関や行政機関に情報を請求できます。使途不明金や隠し財産が疑われる場合にも、法的手段を用いた調査が可能なため、遺産の正確な範囲を把握したうえで分割協議に臨めます。
遺留分侵害額請求を行う・受けた場合
遺留分とは、配偶者や子どもなど一定の相続人に法律上保障されている最低限の取り分のことです。遺言によって遺留分が侵害された場合は「遺留分侵害額請求」で金銭を請求できますが、この手続きには複雑な計算が伴います。
たとえば、遺留分を算出するには相続財産の評価額や特別受益(生前贈与)の有無などを正確に把握する必要があり、法的知識がなければ適正な金額を判断するのは難しいでしょう。請求する側・される側のいずれであっても、弁護士に依頼することで不利な条件での合意を避けやすくなります。
また、遺留分侵害額請求には「相続の開始と遺留分の侵害を知ったときから1年」という時効があるため、早めに弁護士に相談することが重要です。
弁護士費用の分担でトラブルにならないためのポイント
弁護士費用の分担をめぐって相続人同士の関係が悪化するケースは珍しくありません。トラブルを防ぐためには、依頼前の段階で以下の点を押さえておくことが大切です。
まず、「誰がいくら負担するか」を書面で明確にしておくことが最も重要です。口頭での約束だけでは、後から「そんな話は聞いていない」と言われるリスクがあります。
また、共同で弁護士に依頼する場合は、委任契約書の内容を相続人全員で確認しましょう。費用の負担割合、支払い時期、追加費用が発生した場合の扱いなどを具体的に決めておくと安心です。
万が一、後から費用分担について争いが生じた場合は、別の弁護士に相談して対処法を検討するのも一つの方法です。
まとめ
遺産相続の弁護士費用は、原則として弁護士に依頼した本人が負担します。ただし、争いがない場合は共同依頼や遺産からの支払いなどで分担する方法があり、争いがある場合でも弁護士費用を相手に請求するのは原則として認められていません。費用を少しでも抑えたい方は、複数の事務所で見積もりを比較したり、法テラスの立替制度を検討したりしてみてください。
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